第3話 「仕事は自ら作り出すという姿勢」 | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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第3話 「仕事は自ら作り出すという姿勢」


挫折、復讐、そして厳しさ


自身を“復讐タイプ”と語る箭内道彦氏 ――箭内さんは音楽関係の仕事も多いですが、もしかしてご自身も音楽を目指していたのではないですか?

箭内●そうです。ミュージシャンになりたかったけど、大挫折組。ヤマハのポプコンに落ちて、それから20年近く経った現在、ある種の復讐をしてるんですよ。最近、仮面ライダーのベルトとか鉄人28号のラジコンとか、バカ高いものを大人が買うのが流行ってるじゃないですか。ああいうの「カタキ買い」と言われているけど、あれと一緒。

ヒロ●カタキを討ってるんだ(笑)。

箭内●大人になってお金に余裕ができれば、ラジコンも買える。音楽も自分が職権濫用すればやれることが何かあるかも、と。だってCMの曲、自分で自分を採用してるわけですからね。「オレ、採用!」って(笑)。

ヒロ●ああ、でも気持ちはわかる。

箭内●レコード会社にも知り合いがいるから、たとえば「僕らが作った歌、出してもらえませんか?」って、生意気なようだけど言える状況になってきてる。で、なるべく断りにくい人に頼んでみようかな、と(笑)。

――いい復讐ですね。

箭内●
かなり“復讐タイプ”ですよ。ヒロさんも俺も、そうなんじゃないかな?

ヒロ●僕は、挫折というと歯医者になれなかったぐらいで、いまの仕事とはまったく関係ないけど(笑)。

――その後は順風満帆な印象がありますが。

ヒロ●いや、そうでもないですよ。湯村輝彦さんのスタジオを辞めて独立後、やっぱりフリーの厳しさを痛感しましたから。家賃2カ月払えないとか……それは挫折とは言えないけど、いかにイヤらしくなく営業しなくてはならないか苦労したし。だからフリーペーパーを出したりして、自分をプロモーションすることが必要だなって。

箭内●そういう厳しさはありますね。使い捨ての世界ですから。

ヒロ●努力と、頭を使わないと、この世界やっていけないよね。消費されつつも新しく見せるということを考えないと、残っていけない。



企画を販売する店をやりたい


――お二人の話を聞いてると、そういうなかで遊び心が必要なのだと感じます。たとえば『バーバーくんのように、頼まれた仕事ではなくても自分たちからアプローチするという姿勢ですね。

「アーティストが外しがちな広告のツボを押さえてくれる」と箭内氏を評するヒロ杉山氏 ヒロ●それは、常に身体に染み付いてますね。もちろん依頼が来る仕事をクリアするのは当然のことだけど、それだけやってると終わっちゃう。常に何かやらなくちゃ、やらなくちゃ……という焦り。わざと焦らせてるんだけど、そういう気持ちはあります。

箭内●あと、頼んでもないものを持って来られたときって、すごくうれしいんですよ。理容組合を訪ねて、理事さんに「お前、何者だ?」って思われた後にバーバーくんを出したときの驚いた顔を見るとわかる。むこうも一緒に巻き込まれていく感じ。人って頼んで出てきたものもうれしいんだけど、頼んでないものがある日、突然来るっていうのはかなりうれしいんですよね。

――それは売り込みの参考になる話ですね。

ヒロ●あと、僕らのエンライトメントでは常に仕事以外に実験して作るものがあるんだけど、まず箭内さんに見せるパターンが多いんですね。それを箭内さんが何かにプレゼンしてくれるから。

箭内●小さいんですけどね、規模が。ヨソの人に見せたほうがヒトケタ高い仕事が決まる(笑)。

――いわば、発信してくれるアンテナみたいな存在ですね。

ヒロ●そう。うちにはそういう能力ないから、そこは力強い。

箭内●大きな意味でのキュレーションというか、エディターですね。でも、自分の意識ではセールスマンなんですよ。鞄に見たことがないものを仕入れといて「いやぁ、ちょうどイイのが入りましたよ」みたいな感じ。この話をすると、俺自身は何もやってないように思われるけど(笑)。

ヒロ●いやいや、売り込み上手ですよ。

箭内●だから、企画を販売する店でも始めようかな、と。

ヒロ●それは面白いね。

――考え方としては、いまもそうですよね。

箭内●ええ。たとえば「辻川幸一郎さんの未発表コンテ、300万だけど見る?」みたいな商売(笑)。会社員時代も、気分は完全にそうでしたから。谷田一郎さんや田中秀幸さんが手がけた初CMとか、そういう感覚の仕事が多かったです。

ヒロ●でも、やっぱりアーティスト系の人たちって、広告に100%向くかというと、向かない部分もあるわけじゃない? 広告のココだけ押さえておけば……というツボをハズシたりするから。それをディレクションしてくれる才能が、箭内さんにはあるからね。だから我々にとっては楽。好き勝手に作って、もしかしたら箭内さんは困っているのかもしれないけど、それをなんとか通してくれる。

箭内●でもね、そのほうが面白くなるんです。綱渡り的な仕事をすると、自分にリスクが降り掛かってくるわけですよ。通せない確率も上がるわけだから。でも、その緊張感が楽しいんです。どんなものが上がってくるのかわからないけど「絶対に通してやるぞ」みたいな気持ち。……まぁ、たまに通らないときもありますけど(笑)。

(取材・文:増渕俊之 写真:谷本 夏)

次週、第4話は「壊さないと何も始まらない」についてうかがいます。



[プロフィール]
ひろ・すぎやま●1962年東京都生まれ。東洋美術学校卒業後、湯村輝彦氏に師事。92年に独立、97年「エンライトメント」設立。グラフィック・デザイ ンや映像制作、VJなどの活動と同時に、フリーペーパー『TRACK』、『Display』やアート作品集の発行を手がけている。国内外での個展開催、グループ展への参加多数。http://www.elm-art.com/




やない・みちひこ●1964年生まれ。東京芸術大学卒業。株式会社博報堂を経て、2003年「風とロック」設立。クリエイティブ・ディレクターとして、 CFプランニング、広告キャンペーン、ミュージシャンのアートワーク、ショートフィルム、商品企画、イベント企画、フリーマガジン『月刊 風とロック』発行 など、ジャンルを超えて幅広い活動を行っている。2004年7月、リアルタイムクリエイティブエージェンシー「風とバラッド」設立。






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