第4話 「壊さないと何も始まらない」 | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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第4話 「壊さないと何も始まらない」



いまの「デザイン」という言葉が大嫌い



「演歌」プロジェクトを企画していると打ち明ける両氏 ――現在、お二人でやってみたいと思っている企画ビジョンはありますか?

箭内●いまは、「演歌」ですね。

――演歌?

ヒロ●そう。演歌プロジェクトを作って、箭内さんが作曲、作詞は風とバラッドに在籍しているコピーライターで、某歌手に歌ってもらおうと思ってて。で、PVをエンライトメントが作る。

――すごいコングロマリット企画ですね。

ヒロ●それもバーバーくんみたいに、みんなの雑談から生まれた話なんだけど。

箭内●まぁ、一種の宝くじみたいなものですよね。宝くじって、買ってるときが一番楽しいじゃないですか。

ヒロ●ワクワクするよね。

“ロックな人”箭内道彦氏 箭内●で、当選番号さえ見ないときもあるぐらいで(笑)。そのノリでやり続ける感じですよね。

――“キープ・オン・ロッキン”という感じですね。

ヒロ●箭内さんは、ほんとロックな人だから。

箭内●ヒロさんも「七三分けの悪い奴」だから(笑)。

――ストレスとか、あります?

箭内●いまは……風とバラッドのこと以外はないですね。

ヒロ●ハハハ。

箭内●あと、ストレスとはちょっと違うんだけど……いま使われてる「デザイン」という言葉が大嫌いなんですよ。どうも利権的というか、デザインがわかる人とわからない人に分けられているような気がして。

――どこか特権的な印象が?

箭内●そう。デザインがわかる人とできる人が、お金儲けのための仕組みになってて。ほんとの意味で、みんながデザインを楽しんでいるかというと、そうではないと思うんですね。デザインができる人がすごい人……みたいな変な匂いがある。

“七三分けの悪いやつ”ヒロ杉山氏 ヒロ●それはありますね。

箭内●いまは過渡期で、もうすぐ終わると思うんだけど。なんかイヤなんですよ、で、持ち上げられた側が利益を守るために、デザインというものを身にまとって、ブランド作りをしてる。それによって本来自由なはずのデザインが画一化されて、デザインを怖がる人も出てきている状況がある。

ヒロ●アートがそういう感じで、アートがわかる人とわからない人という差別がある。デザインも同じですよ。

箭内●うん。それを壊さないといけないなって。


なんでもかんでも「デザイン」になる時代へ


――「壊す」とは、具体的にどういうことだと思いますか?

箭内●わからない。ただ、いま刊行している『月刊 風とロック』とか、すごく仕上がりが下手くそなんです。いろんな人から「(デザインを)やってあげるよ」と言われるんですけど、断ってるんですね。下手だけど勢いがあるとか、下手だけど見ててドキドキするみたいなものを意識的に出したいなと思ってて。

箭内道彦氏が編集長を務める『風とロック』(風とロック発行)。7月号はリップスライムとくるりの特集。写真は「NO MUSIC, NO LIFE」でもコンビを組むフォトグラファー・平間至氏が手がけている
箭内道彦氏が編集長を務める『月刊 風とロック』(風とロック発行)。7月号はリップスライムとくるりの特集。写真は「NO MUSIC, NO LIFE」でもコンビを組むフォトグラファー・平間至氏が手がけている
配付場所・刊行情報は以下HPまで
http://www.kazetorock.co.jp/


ヒロ●昔の「ヘタうま」とは違いますね。

箭内●こういうデザインは、デザイン教育を受けてないMacの使い方を憶えたばかりの社員にやらせてて。かなり無駄な抵抗だと思いつつも、違うデザイン観を提示したいという気持ちがある。「アカベタをきれいに塗るのだけがデザインじゃないよ」っていう。

ヒロ●壊さないと何も始まらないからね。僕もデザインされたものよりは、最低限のデザインが好きで。だから、オシャレなものも好きじゃないし、デザインしないデザインが一番大好き。


同誌の連載「PORTRAIT OF THE PRESIDENT」は、日本の「ロックな社長」を、エンライトメントのビジュアルによるポートレートで紹介しながら、インタビューする企画

同誌の連載「PORTRAIT OF THE PRESIDENT」は、日本の「ロックな社長」を、エンライトメントのビジュアルによるポートレートで紹介しながら、インタビューする企画



――そういう意味ではお見かけは対照的ですが、お二人とも意識は共通してるのですね。

ヒロ●うん。

箭内●デザインの「外側」というのは、そういうところなんです。だって、ヒロさんもデザインの勉強、具体的にしてないでしょ?

ヒロ●そもそも湯村さんのスタジオが、そういうところだから。一番美しいデザインはアメリカの洗剤パッケージだっていう……あれもデザイナーじゃなくて、ほとんど版下制作の人が作ってるデザインでしょ。そういう門下で育ったからね。

箭内●でも、やっぱり基本に手書きができる人はデザインできるし、CGできる人は実写もうまい。そういうことなんじゃないかな……。若い人はMacの手癖や特性でかっこいいものが簡単に作れちゃうけど、それはちょっと要注意だなと思って。

ヒロ●そうだね。

箭内●いまの、かなりオヤジ発言かな? ヤバイなぁ(笑)。でもね、そのうち、なんでもかんでもデザインになる時代が来ると思うんですよ。


(取材・文:増渕俊之 写真:谷本 夏)



ヒロ杉山氏

[プロフィール]

ひろ・すぎやま●1962年東京都生まれ。東洋美術学校卒業後、湯村輝彦氏に師事。92年に独立、97年「エンライトメント」設立。グラフィック・デザイ ンや映像制作、VJなどの活動と同時に、フリーペーパー『TRACK』『Display』やアート作品集の発行を手がけている。国内外での個展開催、グループ展への参加多数。http://www.elm-art.com/



箭内道彦氏

やない・みちひこ●1964年生まれ。東京芸術大学卒業。株式会社博報堂を経て、2003年「風とロック」設立。クリエイティブ・ディレクターとして、 CFプランニング、広告キャンペーン、ミュージシャンのアートワーク、ショートフィルム、商品企画、イベント企画、フリーマガジン『月刊 風とロック』発行 など、ジャンルを超えて幅広い活動を行っている。2004年7月、リアルタイムクリエイティブエージェンシー「風とバラッド」設立。




今回で「第1回 ヒロ杉山×箭内道彦 デザインの裏側」は終了です。
次回より、アートディレクター・信藤三雄氏と写真家・三浦憲治氏の対談をお送りします。ご期待ください。


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