
様々なジャンルで活躍するデザイナーの来歴をたどるシリーズ、今回は国内外の映画ポスターやチラシ、プログラムなどの宣伝デザインを数多く手がける岡野登さんを取材し、その経歴から現在に至るまでの足跡をたどります。
第3話 映画宣伝デザインの充実感

岡野登さん
ヒットしなければ届かないデザイン
──岡野さんがやってきた映画宣伝の“風向き”が変わった時を、具体的に肌で感じた仕事は?
岡野●一番最初は、崔洋一監督の『月はどっちに出ている』でした。比較的規模が小さかったことと、宣伝方針が完全に決まる前に関われたので、みんなであれやこれやアイデアを出しながら進めていきました。宣伝を立ち上げた当初は、在日コリアンを主人公にした映画だったので、その当時の日本ではやる前からキビシイ……と当然思われていたんですね。だから、どうせダメなら少しでも目立てばいいかなと、日本人の苦手な部分をわざと刺激するように訴えかけていきました。ところが映画そのものの評価が予想以上に高く、公開が近づくにつれ、段々反応が変わってきて“手応え”が感じられるようになったのです。
──公開後は、大ヒットもしましたね。
岡野●ええ。名だたる映画賞を次から次へと穫りまくり、気がついたら宣伝デザインも一緒に評価されていた。そのとき、当たり前ですが「映画はまず、当てないといけない」と感じました。いくらデザインだけいいものを作っても、ヒットという形で一般に広まっていかないと評価の対象にするならないわけです。
──当たらないと注目もされない、と。
岡野●ええ。それまで手がけた単館系の、たとえばヨーロッパやロシア、南米、アジアなど世界中から集められた非ハリウッド映画は、作品としては確かにいい映画ばかりなんです。だけど、一部の映画通には伝わるけれど、一般的にはなかなか広まらない。それでも僕は、当たる当たらないではなく、映画自体を伝えなくてはならないと納得しながらやっていたのですが……結局、映画がヒットすることでグラフィックも注目される。いままで信じてやっていることにプラス、仕掛けや運まで考えるようになりました。その結果が、また次に繋がっていくことも。
──映画の宣伝デザインの仕事は、どのタイミングで話が入ってくるのですか?
岡野●ケース・バイ・ケースですね。邦画、洋画、ハリウッド系、単館系……それぞれで変わりますが、たとえばハリウッドの場合は本国が仕切っているということ、公開規模が大きいことが多いので、何年も前から公開日だけが決まったりする。それは全世界、足並みを揃えてということなので。たまに日本のマーケットを考えてオリジナルな展開を行う場合もありますが、それもしっかり宣伝プランが決まった後です。通常、宣伝期間だけなら3ヶ月から半年前くらいですね。仕事の中身を例えれば“翻訳”に近い作業です。
──タイトルなど、オリジナルを加工するような?
岡野●そうですね。一方、向こうから来た素材だけでは表現が乏しくなってしまうヨーロッパ系は、いろいろ合成したり手を加えたりしています。また、邦画などは素材を自分たちで作る立場なので、用意できるものは思いつく限りなんでもやってみます。最近の邦画は、企画書やシナリオ作成の段階で参加することがほとんどなので。台本を読み、監督のイメージを掴み、出来上がりを予想する。完成を観る前にどんな場面が宣伝になるか考え、本編の撮影現場に行ってポスター撮影をします。そういう場合は、参加から公開まで2年以上かかります。
岡野●一番最初は、崔洋一監督の『月はどっちに出ている』でした。比較的規模が小さかったことと、宣伝方針が完全に決まる前に関われたので、みんなであれやこれやアイデアを出しながら進めていきました。宣伝を立ち上げた当初は、在日コリアンを主人公にした映画だったので、その当時の日本ではやる前からキビシイ……と当然思われていたんですね。だから、どうせダメなら少しでも目立てばいいかなと、日本人の苦手な部分をわざと刺激するように訴えかけていきました。ところが映画そのものの評価が予想以上に高く、公開が近づくにつれ、段々反応が変わってきて“手応え”が感じられるようになったのです。
──公開後は、大ヒットもしましたね。
岡野●ええ。名だたる映画賞を次から次へと穫りまくり、気がついたら宣伝デザインも一緒に評価されていた。そのとき、当たり前ですが「映画はまず、当てないといけない」と感じました。いくらデザインだけいいものを作っても、ヒットという形で一般に広まっていかないと評価の対象にするならないわけです。
──当たらないと注目もされない、と。
岡野●ええ。それまで手がけた単館系の、たとえばヨーロッパやロシア、南米、アジアなど世界中から集められた非ハリウッド映画は、作品としては確かにいい映画ばかりなんです。だけど、一部の映画通には伝わるけれど、一般的にはなかなか広まらない。それでも僕は、当たる当たらないではなく、映画自体を伝えなくてはならないと納得しながらやっていたのですが……結局、映画がヒットすることでグラフィックも注目される。いままで信じてやっていることにプラス、仕掛けや運まで考えるようになりました。その結果が、また次に繋がっていくことも。
──映画の宣伝デザインの仕事は、どのタイミングで話が入ってくるのですか?
岡野●ケース・バイ・ケースですね。邦画、洋画、ハリウッド系、単館系……それぞれで変わりますが、たとえばハリウッドの場合は本国が仕切っているということ、公開規模が大きいことが多いので、何年も前から公開日だけが決まったりする。それは全世界、足並みを揃えてということなので。たまに日本のマーケットを考えてオリジナルな展開を行う場合もありますが、それもしっかり宣伝プランが決まった後です。通常、宣伝期間だけなら3ヶ月から半年前くらいですね。仕事の中身を例えれば“翻訳”に近い作業です。
──タイトルなど、オリジナルを加工するような?
岡野●そうですね。一方、向こうから来た素材だけでは表現が乏しくなってしまうヨーロッパ系は、いろいろ合成したり手を加えたりしています。また、邦画などは素材を自分たちで作る立場なので、用意できるものは思いつく限りなんでもやってみます。最近の邦画は、企画書やシナリオ作成の段階で参加することがほとんどなので。台本を読み、監督のイメージを掴み、出来上がりを予想する。完成を観る前にどんな場面が宣伝になるか考え、本編の撮影現場に行ってポスター撮影をします。そういう場合は、参加から公開まで2年以上かかります。
月はどっちに出ている(1993年/シネカノン)チラシ
崔洋一監督作品。主演は岸谷五朗、ルビー・モレノ。梁石日の小説『タクシー狂躁曲』を原作に、第17回日本アカデミー賞・優秀作品賞など受賞多数。素朴だが、作品の持つアイロニカルなメッセージを浮き立たせるヴィジュアルが、岡野さんの“意識”を変えた
制約の中で、自分の力が試される
──そうした様々な映画の仕事で、どれにやりがいがありますか?
岡野●僕の中ではバランスがとれていて、どれも並列です。予算がない単館作品は工夫しないとならないからいろいろ考えますが、制約との戦いが逆に面白い。一方、ハリウッドのメジャー作品は宣伝費が大きいですから、広く厚いものが作れます。でも、やはり足並みを揃えないとならないので、きっちり固まったものを作らなくてならない。どちらが面白いか……ということではなく、どちらかだけではやり方が偏ってくるので。様々な要求によってポイントがずれて、一点に集中しなければ、ストレスも集中することがない。だから、欲求と制約のバランスがとれて具合がいいんです。ただ最近、邦画ブームで一気に本数が増えましたよね。こんなに仕事が重なると、さすがに持続力が心配になります。毎回毎回、2?3年かかるとさすがに(笑)。
──発想の面でも、多彩なレンジを求められますね。
岡野●ええ。その時々、自分がやりたい表現方法も微妙に変わってきたりしますから。思い切りガッツリ作りましょうという場合もあるし、チマチマ凝ったものを作りましょうという場合もある。予算との戦いで限られた中で作る場合は、そこでいかに自分の力が出せるか、試されているようにも思います。
──ポスター、チラシ、パンフレット、チケット……映画の場合、1本の仕事の中でアイテム数が多いから、手間もかかるのでは?
岡野●他にもプレスキットや新聞広告など、抱える量は確かに多いです。でも、作品のイメージが確立できれば、あとはその応用。もちろん、各アイテムや媒体によってアプローチも微妙に異なるから意識的に様々なアイデアが必要になりますが、逆に言えば仕事をするたびに自分の引き出しが多くなっていく……という充実感もあるのです。
岡野●僕の中ではバランスがとれていて、どれも並列です。予算がない単館作品は工夫しないとならないからいろいろ考えますが、制約との戦いが逆に面白い。一方、ハリウッドのメジャー作品は宣伝費が大きいですから、広く厚いものが作れます。でも、やはり足並みを揃えないとならないので、きっちり固まったものを作らなくてならない。どちらが面白いか……ということではなく、どちらかだけではやり方が偏ってくるので。様々な要求によってポイントがずれて、一点に集中しなければ、ストレスも集中することがない。だから、欲求と制約のバランスがとれて具合がいいんです。ただ最近、邦画ブームで一気に本数が増えましたよね。こんなに仕事が重なると、さすがに持続力が心配になります。毎回毎回、2?3年かかるとさすがに(笑)。
──発想の面でも、多彩なレンジを求められますね。
岡野●ええ。その時々、自分がやりたい表現方法も微妙に変わってきたりしますから。思い切りガッツリ作りましょうという場合もあるし、チマチマ凝ったものを作りましょうという場合もある。予算との戦いで限られた中で作る場合は、そこでいかに自分の力が出せるか、試されているようにも思います。
──ポスター、チラシ、パンフレット、チケット……映画の場合、1本の仕事の中でアイテム数が多いから、手間もかかるのでは?
岡野●他にもプレスキットや新聞広告など、抱える量は確かに多いです。でも、作品のイメージが確立できれば、あとはその応用。もちろん、各アイテムや媒体によってアプローチも微妙に異なるから意識的に様々なアイデアが必要になりますが、逆に言えば仕事をするたびに自分の引き出しが多くなっていく……という充実感もあるのです。
次週、第4話は「自己満足では対応できない」についてうかがいます。
(取材・文:増渕俊之 写真:FuGee)
(取材・文:増渕俊之 写真:FuGee)
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[プロフィール] おかの・のぼる●1961年埼玉県生まれ。武蔵野美術大学視覚伝達デザイン科卒業後、企業デザイン部門、PR会社での勤務を経て、91年に「Cipher.」を設立。ハリウッドのメジャー作から単館系作品まで、数多くの映画宣伝を手がける。その他、広告、テレビ番組の宣伝、装丁、CDやDVDジャケットなどで活動中。 |




