第4話 自己満足では対応できない | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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様々なジャンルで活躍するデザイナーの来歴をたどるシリーズ、今回は国内外の映画ポスターやチラシ、プログラムなどの宣伝デザインを数多く手がける岡野登さんを取材し、その経歴から現在に至るまでの足跡をたどります。

第4話 自己満足では対応できない


岡野登さん

岡野登さん

新聞広告の“ガチンコ勝負”が面白い


──岡野さんの名前をネット検索すると『マトリックス』シリーズの仕事が多くヒットしますが、あの作品の経験はやはり大きかったですか?

岡野●大きかったですね。話題も先行していましたし、宣伝というより“仕掛け”が桁違い。印刷物、イベント、TVスポット、看板、タイアップ、そしてWeb……様々な媒体全体で宣伝をどうするか、それぞれ役割を与えられた戦略が企てられました。僕は主に印刷物だけですが、他の宣伝よりもかなり早い段階でロゴや書体、色など宣伝の基本骨格になるものを決めなければならなかったので、まず宣伝に関わる人全員の足並みが揃うように、同じ世界観を共有できるイメージのひな形を決めるというオーダーがありました。広告全体をまとめられなければならないので、自分だけが作る物より大変な作業でした。例えば普段はやらない予告編やTVスポットに入る文字などひとつひとつまでチェックして統一してあります。基本グラフィックは本国が用意したものを使用しなければならないのですが、可能な限り、ギリギリまで許す限りオリジナル以上のものを……と、こだわって作ってあります。そしてどんなものでも常に「かっこよくなくてはならない」「スタイリッシュでなければならない」と言われ続けました。

──他の作品を扱うのとは異なるベクトルを?

岡野●ええ。それまでの映画宣伝の論法に簡単に当てはめて作ればいいか、というものではなかった。情報量が多いから、逆に削ぎ落とす方法になったと思います。映像は知らない人はいないくらい、TVスポットや予告編などがガンガン流れるので、印刷媒体はどんどん情報を削っていき、シンプルでシンボリックなもので伝わるようにしたんです。

──紙媒体の場合、一般的には新聞広告が最も目に触れる機会が多いですね。『マトリックス』シリーズでも、全段カラーの紙面が目を惹きました。

岡野●最近は、どの映画でも15段の広告を平気で作るようになりました。それでも圧倒的に多いのが公開日前の金曜日の囲み。僕は新聞広告、比較的得意にしています。スペース的にやれることが限られているじゃないですか。印刷も大概1色で、サイズに制限がある。そうすると、俄然デザインで生きるか生きないかが変わってきます。ハリウッドの作品と比べて単館ものは予算的に勝ち目がないわけですから、限られたスペースの中でアプローチをしないとならない。でも、とりあえず紙面上では同じ土俵に並びますので、ガチンコ勝負ですね。

『マトリックス・リローデッド』(2003年/ワーナー・ブラザース)

『マトリックス・レボリューションズ』(2003年/ワーナー・ブラザース)『マトリックス・リローデッド』(2003年/ワーナー・ブラザース)








上述『マトリックス・リローデッド』『マトリックス・レボリューションズ』(2003年/ワーナー・ブラザース)で展開された、
華々しくもエッジのある宣伝グラフィック群


裏方に徹することの多様性


──ちなみに、デザインを手がける前に試写は必ず観ているのですか?

岡野●僕は必ず観るようにしています。中には観ないで作る方もいるそうですが、僕は情報が多ければ多いほどヒントも増えるので、間に合わなければ字幕がなくても観ます。脚本しかない場合は、ほとんどが映画が完成する前なので、読み込んで絵になるところを探る。シナリオだけでもずいぶん参考になります。最近は小説や漫画などの原作ものが多いので、可能な限り読みます。

──そこまでじっくり時間をかけて仕事をしても、映画の宣伝物は基本的にデザイナーの名前が出ませんよね。そうした状況をどう思いますか?

岡野●確かにそうなのですが、その前に「じゃあ映画とは誰のものなの?」という問いかけが生じますよね。監督のものなのか、役者のものなのか、製作プロデューサーのものなのか、それとも出資会社か配給会社のものなのか……。映画は多くの人と様々な企業が関連するものなので、そう考えるとデザイナーだけが突出して名前が出るということはありえない。まず“作品”そのものが大事。ただ、デザイナーが入らないと成立しないのは確かなことで、ヴィジュアルの面でデザイナーなりの主張はしているつもりなんです。

──いわば“裏方”であることを前提に置きながら?

岡野●ええ。いろんなアイデアや技術を盛り込みながらも、表面上に自分らしさを主張するわけではなく、純粋に伝えたいことをきちんと伝えよう……という、自分ならではの視点をしっかりと持つ。主張しようとすればいくらでも主張できるものでしょうが、世の中にこれだけ多くの映画があるわけじゃないですか。自分だけのフィルターを通して、似たようなものが生まれてくるのは個人的には好きではない。映画は観てくれる人が子どもから老人まで、対象となる年齢層も、作られる国も、ジャンルも様々。その多様性を宣伝的な要素として押し出す必要はありませんが、どんな映画も同じテイストの誰々が作ったもの……というアピールは自己満足だと思います。実際に世界中のいろんな映画に対応しきれません。

──自分を殺すわけではなく、自分を拡張するための“匿名性”ですね。

岡野●たとえば単館系だけ、もしくは特定のジャンルだけを手がけるならば、自分のテイストを出すことによってブランディングみたいなものが確立していくかもしれませんが、いま僕がやっている作品の幅広さでそれをやってしまうと、多分すぐに飽きられたり破綻したりしてしまいます。


次週、第5話は「何十年後にも“遺る”もの」についてうかがいます。

(取材・文:増渕俊之 写真:FuGee)

岡野登さん

[プロフィール]

おかの・のぼる●1961年埼玉県生まれ。武蔵野美術大学視覚伝達デザイン科卒業後、企業デザイン部門、PR会社での勤務を経て、91年に「Cipher.」を設立。ハリウッドのメジャー作から単館系作品まで、数多くの映画宣伝を手がける。その他、広告、テレビ番組の宣伝、装丁、CDやDVDジャケットなどで活動中。




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