第5話 何十年後にも“遺る”もの | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
【サイトリニューアル!】新サイトはこちらMdNについて



様々なジャンルで活躍するデザイナーの来歴をたどるシリーズ、今回は国内外の映画ポスターやチラシ、プログラムなどの宣伝デザインを数多く手がける岡野登さんを取材し、その経歴から現在に至るまでの足跡をたどります。

第5話 何十年後にも“遺る”もの


岡野登さん

岡野登さん

社会的な動向も頭に入れて


──現在、常にどれぐらいの映画本数を抱えているのですか?

岡野●実はあまり把握してないんです。例えばサーバ上で、1作品1フォルダとして管理しているのをみると、私とアシスタント数名で約30フォルダぐらいの案件が常に進行中です。それが40フォルダを超えると、ちょっとキツイ(笑)。3ヶ月ぐらいの単位で変わるものもあれば、先ほど言ったように2~3年かかっているものもある。だから、同時に何本……ときっちり分けられない難しさがあります。

──本数を把握していないというのもすごいですね。

岡野●数えると、怖いじゃないですか(笑)。

──ゴールデンウィーク頃の新聞広告を見たら、岡野さんが手がける作品が複数、洋画も邦画も並んで掲載されているような状況ですよね。

岡野●公開時期がダブってくる作品も多いし、客層が同じものとか、内容が似ていることもよくあります。だから、自分の中で意図的に変えています。公開時期は違っても、微妙にカブる依頼もありますよね。どちらかだけを優先するわけにはいかないので、どちらも成立するようにしなければならない。それは常に意識しています。

──先々を見越した作り込みが必要、と?

岡野●はい。同時に、たとえば事件や事故、選挙、オリンピック……などといった社会的な動向から、芸能界やスキャンダルまで頭に入れておかなくてはならない。映画の基本は“興行”ですから、世間の状況でいろんな影響を受けてしまうんです。事件ひとつで公開が延期になったり、逆にワイドショー的に注目される人物が出演していれば飛躍的に露出が増えます。その出来事がプラスなのかマイナスなのか、様々なことを意識するのが常々です。

──緊張感ある仕事ですね。昨今はDVD化など、公開以降も手がける仕事が多いのでは?

岡野●そうですね。企画の始まりから最後のセルまで……特にアニメ作品などは事前の会議から参加すると、TV放映からDVDまで、フィニッシュに3年は関わります。

──その状況では、作業フォルダも減らないですね。

岡野●ええ。作品が当たればいいのですが、さすがに100%ヒットというわけにはいかないので、そういうときはDVDなどのデザインが変わる場合もあるし(笑)。それはもう、責任もって最後までやらなくてはなりません。

自分の趣味を限定しては成り立たない


──映画の仕事の話ばかりになってしまいましたが、現在、他のジャンルの仕事も手がけていますよね?

岡野●もちろん映画だけではなく、広告、書籍などエディトリアルにも関わっています。ただ傾向としては、映画宣伝的な見方や切り口で他の業種のものが作れないか……という依頼が多いです。媒体はバラバラですが、映画的、あるいは物語的なヴィジュアルをTV番組の宣伝などで表現してほしい、と。どちらかというと商品を売るためのものは少なく、イメージ的な展開を求められるものですね。


映画宣伝以外の仕事から。TV番組『日経スペシャル ガイアの夜明け』(テレビ東京/毎週火曜日22時より放映中)ポスター 映画宣伝以外の仕事から。TV番組『日経スペシャル ガイアの夜明け』(テレビ東京/毎週火曜日22時より放映中)ポスター














映画宣伝以外の仕事から
TV番組『日経スペシャル ガイアの夜明け』(テレビ東京/毎週火曜日22時より放映中)ポスター



──仕事を続けるのに、大事なことは何ですか?

岡野●映画に関して言えば、基本は“遺るもの”を作ることです。たとえ何十年後も、当たっても当たらなくても遡っていろんなものが出てくるじゃないですか。公開時にとにかく人目につく宣伝物を作っても、結局は長い目で見て多くの人が「あの時の、あの映画か」とイメージしてくれるものを遺さないといけない。

──よく、映画のチラシを収集している人もいますね。

岡野●そうですね。いろいろ集めていたら、結果的に僕の作ったものが多かった……と言われて正直嬉しい。だからその時々、手に取られるという役目とともに、何十年後でもなにかしらの形で遺るものを作らないとならないと思っています。そのためには下手なこともできないし、あまりカッコ重視なものを作っても仕方がない。

──今後については?

岡野●これまでずっと忙しく、作ることに専念してきたのですが、それだけではいけないかな……と思っています。いま、いろんなものが繋がって形成され始めています。映画宣伝も、媒体だけでは収まらなくなってきている。多分、デザイナーも与えられたフィールドだけでやろうとしてはダメなのではないか、と。もっと全然違うところで、訴求力のあるアプローチを考えないとならない。

──ちなみに最近、趣味で映画を観に行くことは?

岡野●行かないですよね(笑)。仕事柄、否応なしに事前情報が入ってくるので、能動的に観に行く機会が減っている。でも、仕事として絶対に依頼が来ないジャンルのものは、逆に観ておこうと思うことがあります。

──最後に、映画宣伝を目指す人にアドバイスを。

岡野●映画は時代を映す鏡みたいなものなので、映画を観る以外に、いろんな本を読んで、いろんなものを吸収して、歴史やいま起きていることから多くのことを幅広く学ぶべきです。おそらく、知識が多すぎて邪魔になることはない。例えばハリウッド映画の中に日本のアニメ文化が見て取れますし、逆にアニメの中に歴史的古典の流れがあり、クラシックの中にはその当時の革新的な挑戦があるように、物事を浅い知識や単純な見方で見ないこと。どれひとつとっても中途半端な興味では、成り立たない仕事だと思います。

「これがデザイナーへの道」第9回・岡野登さんのインタビューは今回で終了です。

(取材・文:増渕俊之 写真:FuGee)


岡野登さん

[プロフィール]

おかの・のぼる●1961年埼玉県生まれ。武蔵野美術大学視覚伝達デザイン科卒業後、企業デザイン部門、PR会社での勤務を経て、91年に「Cipher.」を設立。ハリウッドのメジャー作から単館系作品まで、数多くの映画宣伝を手がける。その他、広告、テレビ番組の宣伝、装丁、CDやDVDジャケットなどで活動中。


twitter facebook このエントリーをはてなブックマークに追加 RSS
【サイトリニューアル!】新サイトはこちらMdNについて

この連載のすべての記事

アクセスランキング

8.30-9.5

MdN BOOKS|デザインの本

Pick upコンテンツ

現在