第3話 Webが促進する刺激 | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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昨年秋より公開されている能登の老舗旅館「多田屋」のサイトが話題を呼んでいる。美麗で奥深いビジュアル&デザイン、ストレスフリーで簡潔なシステム構築、そして心地よいアンビエント・サウンド……。今回はその制作チームスタッフである鎌田貴史さん(spfdesign Inc.)、ウラタダシさん(gleamix)、内田郁夫さん(void productions)による座談をお送りしながら、Web制作における「現場」の一端を再現してみよう。

第3話 Webが促進する刺激


それぞれの出会い


——これまで、3人が一緒に仕事したことはあったのですか?

鎌田●内田さんとは何度かありましたが、ウラさんは初めてでした。

——いまさらながらですが(笑)みなさんの出会いは?

鎌田●最初に出会ったのは内田さんのほうが早くて、僕がこの仕事をする前から知ってたんです。内田さんのHPでループ音源を配布していて、それを僕が趣味でやっていたHPで「使わせてください」と頼んだのがきっかけでした。

内田●そうですね。サイトで利用できる、いろんなジャンルの音源を作っていて。

鎌田●で、僕が独立して最初の頃、初めて仕事をお願いしたんです。「でも、ノーギャラなんですけど」って(笑)。サイトにクレジットを載せてくれるというので、駆け出し始めた頃の僕たちにはそれで十分だったんです。

——音を作るようになったきっかけは?

内田郁夫さん
内田●音楽は小さいときからやっていて、それとは別にプログラムを作ったり、絵を描いたりしていました。進学を決めた専門学校にはデザイン科とプログラム科があったのですが、次第にコンピュータで音楽作ることが楽しくなって、そっちの方向に。そのうち、趣味でやっていた自分のサイトから出会いができて、そこから仕事の依頼が来るようになった。

??いまはWeb関係の仕事がメイン?

内田●基本的にそうですね。でも最近、徐々に変わってきて、たとえば店舗で流れる環境音楽的な仕事が増えてきました。

——ウラさんとは?

鎌田●確か「artless」の事務所でしたよね?

ウラ●ええ。僕と鎌田さんが参加しているアート・プロジェクト「null*」を主宰しているデザイン会社で、彼らとご一緒していた仕事でイラストを描いたときに、たまたま打ち合わせのタイミングでお会いしたのが最初。その後「null*」も始まって、どんどん仲良くなったんです。主に飲み友達です(笑)。

——ウラさんのサイト・ギャラリーを見ると、本当にいろんなタッチを持ってますね。

鎌田●やばいですよ(笑)。

ウラタダシさん
ウラ●5年前に独立する前、勤務していた会社では業務でいろんな注文が来るような状況だったんですね。この業界、自分の世界観を表現する方がたくさんいますが、私の場合は絵を描いて、コミュニケーションの役に立ちたいというスタンス。仕事としての捉え方のほうが大きくて、あまり自分の世界がどう……というようなものを強く持っていなかった。だから30歳になるまでは職人的に、いろんなものを食べるために描くという態勢だったんです。いまはオトナになって(笑)自分が描きたいものが見つかってきたから、少しずつ「null*」などで出したりしてます。

——現在は、やはりWebの仕事が多いですか?

ウラ●そうですね。6?7割ぐらい。もともと紙のほうをやっていて、独立した頃は半々だったのですが、この5年の間に徐々にWebのほうが多くなってきた。Flashの技術が高くなってきているので、やはりそれに伴ってイラストの需要も多くなってきた印象があります。


null*null*
日本の伝統的な美意識をコンセプトにした、artlessによるコンセプチュアル・ユニット。鎌田さん、ウラさんなど、およそ15名のクリエイターが参加し、精力的にエキシビションを開催している





常に“現在進行形”の刺激


——鎌田さんは2003年に独立しましたが、この数年の変化をどう感じていますか?

鎌田貴史さん
鎌田●どうだろう……かなり大きかったと思いますが、とりあえず個人的に、最初はもの作りに対する価値観がよくわかってなかったんです。漠然と「気持ちよければいいんでしょ」という意識。それはそれで、いまでもいいことだと思っていますが、以前は気持ちいい動きをするボタンひとつ作るのに丸一日かけたりとか(笑)。そういうことをガムシャラにやってきて、でも、ふと「これ意味あるのか?」と思い始めたんですね。人に何かを伝えるためにサイトを作る上で、それだけではダメだろう……と。

——自己満足ではなく?

鎌田●ええ。もっと主軸……大本のところで、きちんとしたコンセプトを立てて、何を伝えるか考えないといけない。そう意識できるようになったのは、ほんと最近です。あと独立した後に、ガムシャラにやり続ける中、中村勇吾さんの事務所(tha)を間借りさせてもらうようになったんですね。そこの環境に非常に刺激を受けて、意識がガラッと変わった気がします。

——後からいろんなことに気づいて。

鎌田●後からというか、常に進行形なんですね。そもそもサイト作りは趣味の延長上でしたし、学校の専門教育を受けたこともない。会社に入って、実践で経験を積みながら、いろんな人から刺激を受けて。そういう状況でずっとやってきたので、常に進行形。それはデザインにかかわらず、Webの世界に携わる人は、ほとんどみんな同じだと思いますが。

ウラ●そうですね。僕も自分で「こうだ」と決めないようにしてて。自分がオープンでいられると、いろんな価値観で仕事をしている人と知り合える。特にイラストレーターの場合は“料理されている”という素材的な気持ちも結構あって。ADやデザイナーの人がどう料理してくれるのか、逆に刺激される。そんなふうになるとは思わず描いたものが、最終的にすごくいい形になったり、そこをまた返してもらって吸収して、自分がステップアップする引き出しになったりする。だから、ほんと現在進行形な感じです。

内田●僕も間口は広く。やっぱり自分の得意分野はあるのですが、そこに限定したくない。実は多田屋さんの仕事も結構苦手な部類だったんです。シンプルにピアノひとつというのはあまりやったことがなかったから。なので、自分の中でチャレンジもあった。今後もなるべく限定せずに、なるべく幅広くとは心がけていますね。

次回、第4話は「拡張と消費の波間にて」を掲載します。

(取材・文:増渕俊之 写真:谷本 夏)


鎌田貴史さん

[プロフィール]

かまだ・たかし●1979年兵庫県生まれ。神戸市立工業専門学校卒業。カナダ留学後、デザインプロダクション勤務を経て、2003年に「.SPFDESIGN」として独立、2006年に「spfdesign Inc.」を設立。現在、中村勇吾氏のオフィス「tha」にも席を置きながら、Webデザイナーとして数々活躍中。http://spfdesign.com/


ウラタダシさん

うら・ただし●1972年長崎県生まれ。1995年よりデザイン会社勤務を経て、2000年に独立。Web、広告、雑誌、音楽プロダクトなど、多彩なタッチによるイラストレーションを制作している。鎌田氏などと共に、クリエイターズ・ユニット「null*」にも参加。http://gleamix.jp/


内田郁夫さん

うちだ・いくお●1974年東京都生まれ。PCソフト開発会社のサウンドスタッフを経て、2003年に独立。フリーランスのサウンド・クリエイターとして、様々なWebサイト、店舗などのBGM/SEを制作中。www.void-productions.com/



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