第4話 拡張と消費の波間にて | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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昨年秋より公開されている能登の老舗旅館「多田屋」のサイトが話題を呼んでいる。美麗で奥深いビジュアル&デザイン、ストレスフリーで簡潔なシステム構築、そして心地よいアンビエント・サウンド……。今回はその制作チームスタッフである鎌田貴史さん(spfdesign Inc.)、ウラタダシさん(gleamix)、内田郁夫さん(void productions)による座談をお送りしながら、Web制作における「現場」の一端を再現してみよう。

第4話 拡張と消費の波間にて


納得いくWebのポジション作り


??多田屋のサイトは鎌田さんがCDとして制作指揮をとったわけですが、こういう結果が出せると今後に大きく繋がるのでは?

鎌田●そうですね。僕の中で多田屋さんの仕事は、価値観の変化の面で大きかった。今後、総合的なプロデュースをしていきたいというわけではないのですが、ただWebの仕事が来て、わかりました、作りました……だけではなくしていきたいと思うようになりました。もちろん、僕はWebしか作れないのですが、もっと大きなプロジェクトがいろいろあるじゃないですか。クロス・メディアとか。そういう話、どんどん来るのですが、Web以外のところで納得いかないこともしょっちゅうあるんですね。その中でWebデザインだけやるのもどうかな……と思うようになった。それは今回の仕事をして、クライアントからじっくり話を聞いて、どういう形でどういう展開にしていこうか、自分自身で深く考えたことが大きく影響しています。

鎌田貴史さん

「発注されて、ただWebサイトを作るだけではなく……」(鎌田さん)

——ブログを読んだら、なんでも「広告批評」の講座を受け始めたとか。

鎌田●そう。それは多田屋さんの件があったというのが大きいですね。でも、総合的に何かを作れるような“なんでも屋さん”になりたいわけではない。でも「Webだけやっていればいいんでしょ」という態勢がどうもしっくりこない。もうちょっと企画の段階からまぜてもらって、その中でWebの立ち位置はどんなものか……ということを一緒に相談していきたいんですね。基本はWeb屋さんなんで、ウェブを作るというのは変わらないのですが、納得いくWebのポジション作りをしたいから。

——仕事をしながら学習する、という心構えはいいですね。

鎌田●いや、仕事をしない時間を作りたかっただけです(笑)。やっぱり、この業界は日進月歩でどんどん新しい技術が出てきてて、それを取り入れていくと“やってる感”はあるんですね。でも、同時に結構消費もされてきて、作り手にとってもシビアだし、ユーザーの目も肥えてきている印象があって。本当に機能しているサイトって「実は少ないのではないか?」と思いだしたんです。それがきっかけで広告の勉強をしようと思った。

——自分のいる場所を、俯瞰して見るのはいいことですよね。

鎌田●ええ。特にWebは業界内で盛り上がりやすいんですよ。あそこの会社が新しい技術を導入して面白いものを作った……とか、一般ユーザーにはどうでもいいことなのに、業界内で盛り上がって。でも、最近は「そんなに甘くないよ」というところにきた気がしてて。そこで、もっと「広告とはなんぞや」というところを勉強しないといけないな、と。

増していくサウンドの重要性


——仕事の量は増え続けるばかりですか?

鎌田●量は減らないですね。よくこんなにコンスタントに需要があるな、と。でも寿命は短い。

ウラ●私の場合は絵を提出するだけなので、仕事のやり方は意識的には変わってないけれど、やはり量が増えていますよね。ただ、紙媒体と比べてWebはいろんな人が手軽に見られるから緊張感はある。あと、絵が動くというところに、自分の作品に命を吹き込んでもらうようなコラボ感みたいなものある。それは楽しい。

内田●音のほうは、発表の場がWebによって段違いに変わった。あらゆる人に向けて限定されませんからね。こういう仕事する人も、自分が始めた頃に比べると増えたし。たとえばCMの音楽を作成していた人やゲームの音を作っていた人が、Webの世界に流れていることも多い。基本的な役割は同じなので、そこに寄り添う音ということで入りやすいのだと思います。

ウラタダシさん(左)、内田郁夫さん(右)

「制作者たちとの調和が自分を向上させてくれる」(ウラさん/左)
「Webにおけるサウンドは飛躍的に変化している」(内田さん/右)

——さきほど「音が大事」と言ってましたが、そう思うようになったのは昔から?

鎌田●最近、特に思うようになりました。いままでWebの音ってボタンの音とかBGMという感じでしたが、そこも追究していく余地はあるな、と。たとえばアクセスする時間帯によって音も変わるとか、右と左のスピーカーのパンがちょっと変わるとか、無意識なところに訴えかける力。見ている人は意識しないけれど、いつの間にか入り込んでくるようなギミックが介入する余地はたくさん残っている。ただし、環境的にみんながみんないいスピーカーを持ってるわけじゃないし、実現は難しいのかもしれないませんが、もっと深められる分野だなって。

内田●やはり速度的、容量的な環境向上が背景にありますよね。3?4年前だと、ものすごく音が悪くて、スピーカーの真ん中でモノラルにしか聞こえない。それが最近はステレオで、CDと変わらない音質で鳴らせるようになった。クライアント側から、むしろ音質を上げてくれ、大事だからという依頼が来るようになって。あと、サイトひとつに対してひとつの音を……という発注も少なくなってきています。たとえば、携帯電話ならば商品のパターンが5色あるから、画面によって音も変えたり。で、それを入れ変えるだけではなくて、3分ぐらいの曲をパートごとに区切って、ベースとかドラムとか、自由に入れ替えて流すというもの。だから、飛躍的に作業量は増している。そういうものを一回やると、あとに引けなくなりますね(笑)。

鎌田●見積もりも5倍に(笑)。

内田●したいのですが、それはまだならない(笑)。

鎌田●でも、これからは見た目だけじゃない。音にかける予算をかけていかないと、今後はダメだと思う。いままで、やっぱり音は嫌われがちでしたから。いきなり音が鳴るだけで文句を言う人もいたし。「じゃあスピーカーを切っとけ!」と、いつも思うのですが(笑)。

内田●それは残念ですけどね。でも、動画も増えてきているので、どうしても声が入ったり、動く絵だけでは説得力がないので音を……という仕事は多くなっていくでしょうね。

鎌田●今やWebというメディアは“音が鳴るメディア”なんですよ。

次週、第5話は「Webにおける“人肌”」を掲載します。

(取材・文:増渕俊之 写真:谷本 夏)


鎌田貴史さん

[プロフィール]

かまだ・たかし●1979年兵庫県生まれ。神戸市立工業専門学校卒業。カナダ留学後、デザインプロダクション勤務を経て、2003年に「.SPFDESIGN」として独立、2006年に「spfdesign Inc.」を設立。現在、中村勇吾氏のオフィス「tha」にも席を置きながら、Webデザイナーとして数々活躍中。http://spfdesign.com/


ウラタダシさん

うら・ただし●1972年長崎県生まれ。1995年よりデザイン会社勤務を経て、2000年に独立。Web、広告、雑誌、音楽プロダクトなど、多彩なタッチによるイラストレーションを制作している。鎌田氏などと共に、クリエイターズ・ユニット「null*」にも参加。http://gleamix.jp/


内田郁夫さん

うちだ・いくお●1974年東京都生まれ。PCソフト開発会社のサウンドスタッフを経て、2003年に独立。フリーランスのサウンド・クリエイターとして、様々なWebサイト、店舗などのBGM/SEを制作中。www.void-productions.com/



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