第5話 Webにおける“人肌”を | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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春昨年秋より公開されている能登の老舗旅館「多田屋」のサイトが話題を呼んでいる。美麗で奥深いビジュアル&デザイン、ストレスフリーで簡潔なシステム構築、そして心地よいアンビエント・サウンド……。今回はその制作チームスタッフである鎌田貴史さん(spfdesign Inc.)、ウラタダシさん(gleamix)、内田郁夫さん(void productions)による座談をお送りしながら、Web制作における「現場」の一端を再現してみよう。

第5話 Webにおける“人肌”を


仕事と作家性の折り合い


——今後について、考えることは?

鎌田●さきほどウラさんが話してましたが、僕もあまり方向づけをしたくはないんですね。仕事の話を聞いて、そこから考えたいという態勢。こういうの作りたいって僕が決めても、それに合う仕事はたぶん少ないですから(笑)。それよりも、できるだけ間口は広くしておきながら、いろんな可能性を残しておきたい。だから、いまこんな感じのことを……というのは実はなくて。

——いいものを一度作ると「あのテイストで」ってありますよね。

鎌田●むちゃくちゃ多いですね。いま「多田屋さんみたいなサイトを」というオーダーが多い。それは嬉しいことなのですが、多田屋のサイトは多田屋だからああなったことで……。

内田●まあ、入口はそれでいいと思いますけどね。結局、ディスカッションして、違うものになっていくから。

鎌田●ええ。話を聞いて、多田屋サイトの路線がよければそういくし、違うものがよければ異なるものを考えるし。

——偶然ではないですが、いいタイミングでいいスタッフが集まった形がありますよね。

鎌田●はい。ほんと、縁があった。

ウラタダシさん
ウラ●最初、鎌田さんから「集大成を」ということだったので、14年間ぐらい続けてきた蓄積は出せたと思います。だから、これからまたステップアップできるものを作っていきたい。クライアントワークと自分のアートワークって微妙に分類されていると思うのですが、多田屋さんみたいにアートワーク的な考え方で作ったものが仕事にもピタッとはまったというのは最高の形だと思うので。同時進行でこなしつつ、いつかまたクロスできればラッキー。

鎌田●僕が心配していたのは、仕事と作家性をごちゃまぜにすると、趣味を奪ってしまってやいないかと……。

ウラ●いや、それは全然ないです。ほんと集大成で、なかなか仕事であそこまで自分を出せる機会はない。死にものぐるいで描いた部分があったので、ひとつの区切りにもなったし。今後続けていくために、いい引き出しを作らせてもらったと感じています。

作り手の“息づかい”を伝える


——上述するのを忘れてましたが、鎌田さんのブログで、多田屋サイトは「ヘッドフォンをつけてフルスクリーンで見てください」とも書かれてましたね。

鎌田●今回の場合、コーポレートサイトだし、そういう強制はするべきではないと判断したので、ブログだけでちょろっと書きましたが……でも、絶対そっちのほうがいいのは確かです。

内田郁夫さん
内田●あの音は生演奏の一発録りだったんです。3時間ぐらい、メールと絵を開きながらずっと夜中弾いてて。で、もうダメだ……と一回寝たんです。ところが頭の中でフレーズがずっと鳴っている。翌日、それを切り取って録音したのですが、ヘッドフォンで聴いてもらうと、ピアノのペダルを踏んだ音とか、演奏の息づかいが味わえるものになっていると思います。

——そうした“生っぽさ”が味わえるのも異色ですね。

内田●ええ。サイトの音はそれぞれ、テイストに合わせて変えますが、多田屋サイトはマウスでカチカチやったものは合わない。人が生で弾いたという温度感がにじみ出てこないとダメでしたね。

鎌田●やはりイラストの持っている質感、生っぽさに合う音が求められたんです。

——その手間のかけ方が評価に繋がったと思います。

鎌田●逆にすごく丁寧にやりすぎた(笑)。あのぐらいで制作期間、半年は長いほう。普通は2?3ヶ月のボリュームですから、もっと短くてもよかった。でも、サボっていたわけじゃなくて、ずっとやってたんです。集中しすぎて、作り込みすぎた結果です。

——このチームで、また何かできたら?

鎌田●タイミングさえ合えば。内田さんとはしょっちゅう一緒にやっていたのですが、ウラさんにはタイミングと内容が合えば絶対お願いしたいと思ってて。そこで多田屋だった。だから、無理してやるわけではなくて、いい絵を描いてもらえる仕事があったら、またお願いします。

ウラ●それまでに精進しておかないと(笑)。

常に“対人”を意識する


——これまで話をうかがっていると、みなさん、職人的ですね。

鎌田●このお二人はそうですね。僕は……多分そうでもない。

ウラ●職人のタイプにもよりますが、やっぱり鎌田さんも職人なんだと思いますよ。こだわりだとか、自分に厳しいところが。一見、ユルい人……よい意味でいい加減な人(笑)はたくさんいますけれど、みなさん極めていることにおいては厳しい人ばかり。もちろんそれを楽しみながら、感覚的なところでやってる部分も多いと思いますが。

鎌田●感覚的なものはできるだけ減らそうと思ってますが、一方でそれがないと仕事ができないという内面的な実情もありますよ。

??それで広告の勉強して、理論武装したら向かうところ敵なしになるのでは?

鎌田●いや、そんなことない。常に「やばいやばい」と思ってますから。最近はFlashについていけなくなりそうで……。

ウラ●ほんと?

鎌田貴史さん
鎌田●ほんとですよ。もともとスクリプトを書く人間ではないですから。デザインをするようになって、動きもデザインしたくて勉強しただけ。……だから、今後どう生き残っていくのか。もちろん手は動かしていきますが、技術がないとダメというわけじゃない。技術が必要なものは技術を持っている人に頼めばいいことで、自分が作りたいと思うものを最低限、作れる技術があればいい。それよりももっと、意味があるものを作りたいと思っています。

——音作りの面でも、技術的な進化が激しいと思いますが。

内田●ついていけないほどではないですが、Webで求められる音のレンジが広くなってきていますから、それに応じた表現技法は必要ですね。いろんなジャンルの音が必要になっているので、純粋にアーティストというよりかは、クリエイターとしての対応や気構えが大事になってきています。

鎌田●そこで肝心なのが、やはり“対人”の意識なんですね。Webだと、スタッフと会わないでも形はできたりする。でも、直接会って、表情が見えないとやりづらい。微妙な間とか、あるじゃないですか。

——鎌田さんの作るもの、そして多田屋サイトには、ちゃんとそういう“人肌”が感じられますよ。

鎌田●ほんとですか? それは何より嬉しいことです。

今回で「Webクリエイティブ最前線」は終了です。

(取材・文:増渕俊之 写真:谷本 夏)


鎌田貴史さん

[プロフィール]

かまだ・たかし●1979年兵庫県生まれ。神戸市立工業専門学校卒業。カナダ留学後、デザインプロダクション勤務を経て、2003年に「.SPFDESIGN」として独立、2006年に「spfdesign Inc.」を設立。現在、中村勇吾氏のオフィス「tha」にも席を置きながら、Webデザイナーとして数々活躍中。http://spfdesign.com/


ウラタダシさん

うら・ただし●1972年長崎県生まれ。1995年よりデザイン会社勤務を経て、2000年に独立。Web、広告、雑誌、音楽プロダクトなど、多彩なタッチによるイラストレーションを制作している。鎌田氏などと共に、クリエイターズ・ユニット「null*」にも参加。http://gleamix.jp/


内田郁夫さん

うちだ・いくお●1974年東京都生まれ。PCソフト開発会社のサウンドスタッフを経て、2003年に独立。フリーランスのサウンド・クリエイターとして、様々なWebサイト、店舗などのBGM/SEを制作中。www.void-productions.com/



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