第4話 Web業界の未来を考えないといけない | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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タイトル画像、第11回Webプロデューサー列伝 中村博久

メガマックファンのための笑えるスペシャルサイト「MEGA MACSHOW」(日本マクドナルド)やFlash技術を駆使した地図検索サービス「スゴイ地図」(リクルート)など、常に新しいクリエイティブ、新しい ユーモアに挑み続けているのが(株)コスモ・インタラクティブの阿部淳也氏である。クリエイティブすることが好きで、ユーモアがとても大切だと語る阿部氏 に、さまざまな話を伺った。

第4話 Web業界の未来を考えないといけない



——Web業界の問題点はあると思いますか?

阿部●前回もヒエラルキーの話をしましたが、クリエイティブな仕事をしているにも関わらず、組織が効率を追い求め、コミュニケーションも疎かになり、スタッフが疲労し、どんどん辞めていくことは会社のためにはならないし、個人にとってもよくはない。さらには業界のためにもならないと思うんですよね。やはり現時点ではWeb業界は即戦力を求める傾向が強いですよね。そうなるといつまで経っても新しい人は入ってこられないし、人が入らなければ人も育たないし、そういう決まった枠の中での循環になってしまうと、会社は当然のことながら、業界自体がどんどん衰退していくと思うんです。

そうではなくて、新卒の新入社員がどんどん入って、どんどん成長していって、すごくいい仕事をしてくれて、Web業界って魅力のあるねえとか、Web業界って楽しいねえっとならないといけないと思いますね。そうしていかないと、いつまで経っても僕らが毎日徹夜をして企画書を書いて、プレゼンして、勝ち取って、制作して、納品してってことになってしまう。別にものをつくるのが好きなので、一生つくることには関わりたいとは思っていますけど、今と同じ状況のままで10年、20年続けることを考えると恐ろしくなってきます。そういった意味で人を育てるスキームをきちんとつくっていかないといけないと思います。

それとWebはメディアとしての価値はあがっているのですが、それを表現する部分である、僕らのつくるものそのものの価値をあげていくためにも、様々なアイデアを出して、もっとよいものをつくって、当然ながらクオリティをあげて世の中から評価していただき、社会的にも貢献していかなければならないと感じています。

皆さんご存知のようにWebの黎明期はカタログ的なサイトをページ単価何千円でつくるようなやり方が主流で成立っていた時代があり、ディレクターひとりとデザイナひとりで完結して、それで数をこなしていくような仕事の流れもあったと思うのですが、今、Webサイト制作は企業のコミュニケーションを構築するためのビジネス上のプロジェクトとしての位置づけられることが多くなっています。しかしながら当時のそれが逆にネックとなり、予算的にも厳しいことがあるのも事実です。決してお金が全てだとは思いませんが、僕たちが自らの価値を上げていかないといけないし、将来の人達のためにもそういったことを考えていかないといけないですよね。

——Web業界の今後はどうなっていくと思いますか?_

阿部●今でもその流れはあるのですが、さらに明確にいくつかの方向性に分かれていくかもしれないですね。
ひとつめは巨大な組織として、効率を最優先としてあらゆるソリューションを提供し利益や成長を最優先と考えていくような方向性の組織。ふたつめは決して大きな組織ではないけれど、自分達の考え方やつくるものの価値を理解していて、それを武器に社会にPRしつつ、その価値を最優先として成長していくところ。この場合は組織にこだわらずに周囲の人たちと積極的にコラボレーションしていくような形態を取ることもあります。これはデザインハウスやクリエイティブエージェンシーに近い方向性かもしれません。そして最後に組織の規模はいろいろですが、とにかく数多くの案件を短納期で数をこなしつつ、クオリティはそれほど重視しないものをつくっていく方向性。

どれが良いとか悪いとかではないですが、僕はどちらかというとふたつめを目指していきたいですね。最近組織としては決して大きくないけれど、ハイクオリティで、その価値が高く評価されているところって増えてきていますよね。yugoさん率いるtha*やバスキュールさんなんかもそうですし。大きさよりもこだわりをもっているところのほうが、強くて、そしていい仕事をしているかもしれないですね。

——Webの状況は昔と比べて変わってきているでしょうか?

阿部●いろいろと状況は変わってきていますね。やはり大きいのはインフラの普及ではないでしょうか。「ブロードバンド時代の到来」のような言葉は既にとても昔のような気がしているくらいですよね(笑)。回線速度が飛躍的に向上したことで、当然ながら機能的に実現できることも、表現できる幅も格段にあがったことは実はここ2,3年のことだったりしますよね。ダイヤルアップ接続していたのがほんの数年前ですから、そう考えると「すごいスピード感だな」って思ってしまいます。それによってFlashなどのツールも大きく変化し、Ajaxなどのフロントエンドの技術も普及し、バックエンドではWebサービスとして多くのAPIが無料で公開されはじめています。これはもう大興奮ですね。息つく暇もないですが(笑)。

制作の面では昔のように単純に「決まったものをつくるだけ」の仕事は少なくなってきましたね。やはりアイデア出しから提案、マーケティング的な視点を持ち、ブランド的な要素を考えつつ、コミュニケーション全体を考えることが求められていると思います。今はつくるだけといった仕事の受け方をするケースは無いに等しいですね。そしてクライアントや代理店さんの意識も大きく変わってきたと思います。昔はWebは「おまけ」というか、カタログ的にやっていればいいみたいな感じでしたが、最近では他のメディアとの連携を考えつつ、ブランド全体のクリエイティブやマーケティングをやっている方々と一緒に考えるプロセスをもてる機会も増えてきています。特にここ2年くらいでダイナミックに変わってきていますよね。


——Webのデザインについてはどうでしょうか?

阿部●僕はこれまでもユーザーインターフェイスという観点でのデザインやディレクションをやってきたので、グラフィック的なことよりは、ユーザーがどう触って、どういうアクションをとるから、どう要素を整理して、どこにインタラクションが必要で、結果的にどう使って、どう感じて結果は満足できたかといった、ユーザビリティ的な視点やコミュニケーションとしてのデザインが一番重要だと思っています。しかしながらそれが反面で制約になっているところもあり、グラフィックを重用視するようなアパレル系などのデザインは苦手かもしれないです。まあやって出来ないこともないのですが(笑)。

Webではユーザーに見てもらう、使ってもらわないとあまり意味がないわけで、そういった意味では、そもそものブランドを意識することはもちろんですが、ユーザーにとって何が最適で、そこでどのような体験をさせたいのかを常に意識しています。

——タイポグラフィについてはどうですか?

阿部●単にタイポグラフィと言うと文字そのもののことなのかもしれませんが、Webならではの文字の見せ方や構成方法をいった、もう少し広義な意味で捉えさせていただくと、エディトリアルディレクションや文字組についても考えるということになるかと思います。当然ながら原稿をいただいて、それをそのままの状態でデザインに落とすということはしません。そのサイトにあったテイストと文脈を考えるようなエディトリアルディレクションを心がけています。

また、Webデザイナーって文字組については真剣に考えていない人が多いのも事実です。「原稿を流し込めば良いんでしょ」的な方もいるのではないでしょうか。読ませるためのデザインということができないというか、文字をデザインのなかのひとつのエレメントとしてしか見ていなかったりして。文字を置くということは、そこには必然性があるわけで、文字だったらいかにバランスを考えながら「読ませる」や「読みたくなるか」さらに可読性に気を使うことが必要だと思いますね。あとフォントも、なぜこのフォントなのってことが重要で。なんでもいいというわけでは決してないでしょうし。


——Webメディアと他のメディアの関係性は今後どうなっていくのでしょうか?

阿部●いまWebをやっている人だったら、他のメディアや他のクリエイティブに携わっている方々といろいろと関わっていくべきですし、最近活躍されているクリエイターの皆さんもそう考えていると思います。ひと昔は「続きはWebで」と言っていましたけど「続きはTVで」でも、「続きは新聞で」でもいいと思うんです。実は「Webを中心に」って言いながらも、まだまだ全然中心じゃ無かったりする。予算的にもまだまだですし。
これまでとは違ったかたちでWebと他のメディアが連動感を強めていく必要があるでしょうね。あと結果的にリアルなことと連動するようなことになっていかないと面白くならないんじゃないかなって思いますね。





(取材/蜂賀亨 撮影/谷本夏 )









[プロフィール]
阿部 淳也 (アベ・ジュンヤ)
Cosmo Interactive Inc.
執行役員
クリエイティブチームプロデューサー

自動車メーカにて車内のユーザインターフェース周りの設計を8年間手がけた後、IT事業部異動。Webデザイン、Flashオーサリングなどを手がけると共に、テクニカルディレクターを経験。
2004年よりCosmo Interactive Inc.に参加。多くのWebサイト立ち上げにプロデューサ、クリエイティブディレクターとして携わる。
2005年よりRIAコンソーシアム幹事会員、2006年より理事会員、UI関連WG運営委
員。MdN Web Straegy、Web Creators、など雑誌での執筆実績多数。2007年東京
インタラクティブ・アド・アワード入賞。

[主な事例]
リクルート「スゴイ地図」
リクルート「L25.jp」
ANA「エコ割カレンダー
▼日本マクドナルド「MEGA MAC SHOW」 (公開終了)

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