第10回 ターゲットユーザーに訴求する言葉選び - WEBライティングと文章編集の実践テクニック | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-

第10回 ターゲットユーザーに訴求する言葉選び - WEBライティングと文章編集の実践テクニック

2024.4.24 WED

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WEBライティングと文章編集の実践テクニック


文=益子貴寛 (株)サイバーガーデン 代表取締役
Webプロデューサー/コンサルタント。(社)日本能率連盟登録資格「Web検定」プロジェクトメンバー。Webデザインに関する記事執筆、講義など多 数。『月刊web creators』(MdN)、ITpro(日経BP社)、Web担当者Forum(インプレスR&D)に連載をもつ。著書に『Web標準の教科 書 ─XHTMLとCSSでつくる“正しい”Webサイト』『伝わるWeb文章デザイン100の鉄則』(ともに秀和システム)。共著に『スタイルシート・デザ イン』(MdN)、『変革期のウェブ』(マイコミ新書)など。
url. www.cybergarden.net/


第10回
ターゲットユーザーに訴求する言葉選び


いかにターゲットユーザーに訴求する言葉を選び、コンテンツに対する満足度を上げるかを考えるのは、とても大切なことである。「神は細部に宿る」というが、まさにひとつひとつの言葉選びには、そのサイトが何を目的とし、だれをターゲットにしているかが明確に表れる。言葉を選ぶ際の具体的な方法や改善例、便利なツールなどを見ていこう。


ターゲットユーザーはだれか?

自分が制作するサイトのターゲットユーザーはだれなのかをイメージすることは大切だが、漠然と「40代の男性でビジネスパーソン」「20代前半の女性」とイメージしたのではやや足りない。きちんと「ペルソナ」(ユーザープロファイル)を設定し、その人物像に向かって訴えかけるサイトを制作したい。

Microsoft Visual Basicの開発者であり、『コンピューターは、むずかしすぎて使えない!』(翔泳社)などの著書でも知られるAlan Cooper氏は、「多くのユーザーを満足させようとするより、たったひとりのためにデザインするほうが成功する」と述べている。たとえば、既製品よりもオーダーメイドのシャツのほうが体にフィットするのと同様に、ソフトウエアやWebサイトも具体的な人物を想定してつくったほうが成功しやすいということである。

Webはユニバーサルにアクセスできるメディアであり、アクセシビリティやユーザビリティを意識して制作することは重要である。しかし、八方美人でいることによってターゲットユーザーの満足度を下げることが起こり得るということも認識しておかなければならない。そうなると、クライアントとユーザー双方のゴール達成が非常に困難になる。

コンテンツひとつひとつの言葉選びも、ペルソナとして設定した具体的な人物像を意識して行う必要がある。「正のペルソナ」だけでなく「負のペルソナ」を設定しておくことも重要だ。「負のペルソナ」とは、ターゲットから明確にはずすべき人物像である。Webライティングについていえば、正のペルソナに対して訴求する言葉選びを徹底すると同時に、負のペルソナをまったく考慮しないということだ。


具体例1:レストランで食べ放題

<本文2>
ここで、言葉の選び方について具体的に考えてみよう。「レストランにおいて、定額料金で好みのものを好きなだけ食べてよいシステム」をひと言でいうとすれば、何と表現できるだろうか【1】。すぐに思い浮かぶのは「バイキング」という言葉である。しかし、それが本来の「並べられたたくさんの料理から、各自が好みのものを取り分けて食べる形式」かどうか、まず考える必要がある。オーダー形式でメニューから好きな料理を選ぶ食べ放題もあるからだ。ここでは、「バイキング」という言葉の正しさが問われていることになる。

【1】「レストランで食べ放題」の用語概念図
【1】「レストランで食べ放題」の用語概念図


もうひとつの視点として、たとえば高級ホテルのレストランなど一定ランク以上のお店での食べ放題は、フランス語の「ビュッフェ」という言葉が好んで使われ、高級志向のユーザーはこちらのキーワードに訴求されることが多い。ターゲットがそのようなユーザー層であれば、「ビュッフェ」という言葉を選んだほうがよいだろう。

もしオーダー形式であれば「レストランで食べ放題」といった一般的・包括的な言葉を選ぶのが正しいことになるが、あえて耳なじみのよい「オーダー形式のバイキング」「オーダー形式のビュッフェ」といった言葉を選ぶことも考えられる【2】。


【2】「レストランで食べ放題」の言葉選び経路


具体例2:音声ブラウザユーザー向けの文章

おもに音声ブラウザユーザー向け(CSS非対応環境向け)に、Webサイトのトップページの冒頭で、次のような文章を用意している(CSSで不可視化している)としよう。

「株式会社○○では、多くの方々に当社サイトを利用していただくため、アクセシビリティに配慮してページを制作しております。アクセシビリティの実装方法としてスタイルシートを使用しております。お客さまが使用されているブラウザは、スタイルシート非対応のブラウザのため表示結果が異なっておりますが、コンテンツそのものは問題なくご利用いただけます」

この文章は、視覚障害者である音声ブラウザユーザーがターゲットということになる。したがって、それらのユーザーが理解しやすい文章にしなければならないことになる。こう考えた場合、いくつか問題があることに気づくだろう。

まず、「アクセシビリティ」「スタイルシート」といった用語を、苦もなく理解できるかである。これらはあくまでWeb制作を仕事としたり、Web業界で働いている人の専門用語であって、意味が伝わらない可能性が高い。また、ややグレーな用語がないか考えてみよう。「サイト」「実装」「コンテンツ」といった言葉は、アクセシビリティやスタイルシートほどではないものの、やはり適切に伝わらない可能性がある【3】。

【3】音声ブラウザユーザー向けの文章。用語選びが適切でない
【3】音声ブラウザユーザー向けの文章。用語選びが適切でない


したがって、次のように難しい用語を避けたり、簡単に補足するような表現にしたほうがよい。
「株式会社○○では、多くの方々にご利用いただけるよう配慮してページを制作しております。そのため、掲載している情報に影響がないような仕組みを用いて、見栄えを設定しています(この仕組みをスタイルシートといいます)。お客さまが使用されているブラウザはスタイルシートに対応していないため、対応しているブラウザとは見栄えが異なっておりますが、情報そのものは問題なくご利用いただけます」

サイト全体としてのターゲットユーザーを考えることはもちろん、このように特定のユーザー層に向けたコンテンツは、それらのユーザーにきちんと伝わるかどうかを考えて書かなければならない【4】。

【4】音声ブラウザユーザー向けの文章。用語選びの改善例
【4】音声ブラウザユーザー向けの文章。用語選びの改善例


言葉選びに便利なツール

最後に、言葉を選ぶ際に便利なツールを紹介しよう。まず、(株)言語工学研究所の「シソーラス(類語)検索」だ【5】。たとえば「ラグジュアリー」を検索すると、同義語として「ぜいたく」「おごる」「豪奢」などが、関連語として「派手」「豪華」「ゴージャス」「デラックス」「リッチ」などがリストされる【6】。これらの語を参考に、ターゲットユーザーに向けた言葉選びをするとよいだろう。

【5】(株)言語工学研究所のシソーラス(類語)検索(www.gengokk.co.jp/thesaurus/)
【5】(株)言語工学研究所のシソーラス(類語)検索(www.gengokk.co.jp/thesaurus/)

【6】シソーラス(類語)検索での「ラグジュアリー」の「同義語」(上)と「関連語」(下)
【6】シソーラス(類語)検索での「ラグジュアリー」の「同義語」(上)と「関連語」(下)


また、国語辞典、英和辞典、和英辞典などの辞書類もお薦めだ。goo辞書ではこれらの辞典類(合計約46万語)がオンラインで利用できる【7】。単に知らない言葉を調べる、という使い方ではなく、例文などを参考に文脈的な違和感なども検討するツールとして利用しよう。

【7】オンラインで国語辞典や英和辞典が利用できる「goo辞書」(dictionary.goo.ne.jp/)
【7】オンラインで国語辞典や英和辞典が利用できる「goo辞書」(dictionary.goo.ne.jp/)


本記事は『Web STRATEGY』2007年7-8 vol.10からの転載です



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