第5話 現在、今後の形 | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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まざまなジャンルで活躍するデザイナーの来歴をたどるシリーズ。今回はアート・ディレクターの駿東宏さんを取材し、今日までの足跡をたどります


第5話 現在、今後の形立



駿東宏さん

神宮前「エスジー」にて、駿東宏さん


待っているだけの仕事はダメ



──前回まで活動を振り返ってきましたが、いま思うことは?

駿東●50歳を過ぎたのですが、最近よく思うことは、自分がやってきたことってなんだったのだろう……と。ある意味、ひとつのジャンルは作った。非常に狭いところですが、音楽が好きで、映画が好きで、編集も好きで、広告も映像もできる。オールマイティなんだけれど、特化したデザイナーの資質に合った仕事という意味で、たぶん僕らが最初にやったものはあるだろうと。だからデザイナーの仕事として、僕がいまだに憧れるのは受け身でやるだけでなく、自分の資質に合った仕事なんですね。

──最近は映画の仕事も多いですね。

駿東●きっかけは97年ぐらいかな。アスミックエースという会社がそれまで専門業者で作っていたものを打破しようと、僕を含めて10組ぐらいのグラフィック・デザイナーを起用したんです。でも、映画の仕事って期間は長いしローバジェット。大変だから、残ったのはほんの数組ですよ。

──それでも続けているのは?

駿東●好きな映画だけですよ。でも邦画の場合は、デザインの段階で完成していない場合が多い。台本を読んで面白いと思ったら、仕上がりよくないとか。やっぱり宣伝に関わっている人間が一番重要なんだよね。楽しいことのほうが多いけれど。

──現在のアシンタントは?

駿東●2名です。もう一人は欲しいんです。現状の仕事で手一杯になっちゃうから。今後を考えると、もっと自分のグラフィック・デザインをいかした仕事をしたくて。これまでなるべくクセのない、スタンダードなものを作りたいという気持ちがあったから、特にどっちかに寄るって考えてなかった。けれどDTPによってデザインがこれだけ普通に簡単にできるようになったでしょ?

──はい。

駿東●いままで僕は普通を作るのが大変だったんです。版下でキレイな文字組とか、やりすぎないデザイン。それがDTPで簡単にできるようになって、年齢的にも20代で作れるようになると、やっぱり自分のグラフィック・ワークみたいなものをもっと真剣に考えなければならない。というのと、あと新しいジャンルの仕事をやってみたくて。

──たとえば?

駿東●わからないです。自分が想像つかないような仕事。

──Webは?

駿東●やってないです。僕に資質がないから。うちのデザイナーに資質があれば、そういうビジネスをやってもいいと思ってる。でも僕自身、Webには興味ないから「勝手にやって」って突き放すけど。

──どんな人材が欲しいですか?

駿東●僕は基本、デザイナーも二刀流だと思うんです。編集もできてデザインもできたり、プロデュースもできてディレクションもできたり。いまはDTPがあるからやれると思うんだけど、待っているだけの仕事はダメだと。


映画『マルコヴィッチの穴』DVDパッケージ映画『ピンポン』ポスター

映画『read my lips』ポスター映画『Coffee&Cigarette』ポスター

上左/映画『マルコヴィッチの穴』DVDパッケージ(アスミック・エース/2000年)
劇場公開1年半以上前に配給会社を探しあて、宣伝担当者に制作希望を出したのは、洋雑誌で広告を見た時、何かが「走った」から。見てみるとスパイク・ジョーンズ監督作。ビョークの主題歌。
上右/映画『ピンポン』ポスター(アスミック・エース/2002年)
初めて取り組んだ日本映画。撮影初日から参加した。写真:ホンマタカシ
下左/映画『read my lips』ポスター(シネマ・パリジャン/2003年)
ヴァンサン・カッセル主演。カラーとモノクロ両方を作って、長い検討期間を経てモノクロになった。
下右/映画『Coffee&Cigarette』ポスター(アスミック・エース/2004年)
ジム・ジャームッシュが長年撮っていたのは噂で知っていて、ポスターを作るのは自分しかいないと思い込んでいた


リアリティのあるデザイナーになりたい



──では、最後にアドバイスを。

駿東●アートディレクションというのは、デザイナーになるにしてもカメラマンになるにしても必要な部分。アートディレクターという職種は、基本的にないんですよ。だけどアートディレションという仕事はあって、それはやる気がある人の部分。カメラマンがやってもいいし、イラストレーターがやってもいいし、ミュージシャンがやってもいい。ただ、そのときデザイナーに何を期待するか? 昔は美術的素養、色彩感覚、造形力とか色々あったけれど、最近はまず印刷ですね。印刷を知らないと何も始まらない。

──紙も?

駿東●ええ。それがデザイナーの武器だと思う。つまり、他の人に想像できない部分。この紙にこの印刷を施したらどうなるか、その風合いを知っているかどうかが大事。仕上がりを想像することですね。それはカメラマンもミュージシャンもできない範疇ですよ。だから、まず印刷を学ぶべき。たとえばコーティングでも、熱処理と敷いただけのコーティングでは光沢が違う。それが表と裏ではどう紙が反るか……一番いいのはお金を使って実験して憶えることだけど。僕らの頃はなんでもOKだったバブルの時代があって、何が残ったかと言うと印刷のノウハウですよ。10種校正とか、平気でとっていたから。

──いまやったら怒られますよね。

駿東●やらせてくれるところもありますけどね。ただ、学校でも印刷は理論だけ。印刷工房があっても、いまの技術はCTPで全然違うから。データを作れば、色校を見ないでも理論上はできるじゃないですか。それが自分で自分の首を絞めている。データの中で完結していて、自分が作ったものを愛してないんじゃないかと思うことがあります。

──印刷物への愛情が欠けてきていると?

駿東●本当はインクで刷る、つまりグーテンベルグの時代と何も変わらないんですよ。その熱は、いまもあると思いますよ。ネットに対するカウンターみたいなもので、いまはその過渡期だと思う。だからこれからも、僕はリアリティのあるデザイナーになりたいな。


今週で駿東宏さんのインタビューは終了です。

(取材・文:増渕俊之 写真:FuGee)


駿東宏さん

[プロフィール]

すんとう・ひろし●1955年、東京都生まれ。武蔵野美術大学を中退後、サイトウ・マコト氏に師事。日本デザインセンターを経て、ブレックファーストに勤務。85年「スントー事務所」として独立後、佐野元春やオリジナル・ラヴをはじめとする音楽プロダクト、雑誌、映画広告などを手がける。現在「エスジー」(Sunto Graphics)を主宰。

http://www.sg-tokyo.com




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