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第3回 情報の整理とは - 実践的インフォメーションアーキテクト論

2024.4.24 WED

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実践的インフォメーションアーキテクト論


文=清水 誠文=清水 誠
実践系Webコンサルタント。DTP・印刷・ネットビジネスの分野を中心に、ITとIAによる業務カイゼン を手がける。印 刷物とWebへ画像をシングルソースするためのカラーマネジメント、文字情報をシングルソースするECM・XML・自動組版、ビジネスを加速するITイノ ベーションが最近のテーマ。1995年国際基督教大学卒

第3回
情報の整理とは

インフォメーションアーキテクトは「情報整理の担当」とも言われる。情報の整理なら、だれでもできそうに思えるが、実際のところどうなのか? 今回は、あまり語られることのないデジタル情報の整理方法について、具体的に解説しながら編集者タイプのIAを紹介することで、3回にわたる序論の締めくくりとしたい。


身近な情報整理の場合

IAの役割の変化
現代は情報過多の時代だ。この膨大な情報を整理し管理する方法や考え方が今、変わりつつある。インフォメーションアーキテクトというと、Webに掲載される情報を整理し、ナビゲーションのための階層構造をつくる、という意味での情報整理を担当すると思われがちだ。が、米国では、より広い意味で組織内に存在する情報を効率よく管理していく役割を担うIAが4~5年前から増え始めた。この波は数年遅れて日本にもやってくるのは確実だろう。今のうちから、このデジタル時代における情報の整理について理解を深めておきたい。

存在するモノの整理とは
「情報整理」という言葉からは、几帳面な性格ならだれでもできるという印象を受けるかもしれない。まず、事務所の書類を例として、身近なモノの整理方法について再考してみよう。

IT化が進む前は、書類はモノとして存在し、整理されていた。たとえば、事務所の中に保管のためのキャビネットがある。引き出しごとに部署が割り当てられ、その中の収納ボックスは個人に割り当てられる。各個人は、その収納ボックスの中でフォルダを使ってプロジェクトなど種類別に書類を分類する。

このような書類の整理がデジタル情報の整理と大きく異なるのは、情報がモノとして物理的に存在していたことではないだろうか。存在するモノの整理に関する特徴を3点挙げてみた【1】。

【1】物理的に存在するモノとしての情報の整理に関する特徴
【1】物理的に存在するモノとしての情報の整理に関する特徴


1.情報量が少ない
保管スペースが限られるため、情報量には限度がある。

2.分類の階層が浅い
階層化の実現手段が多くないため、3~4階層程度にとどまる。

3. 1カ所にひとつ
ひとつのモノは1カ所にのみ分類される。複製すれば同じモノを複数の場所に分類することはできるが、スペースや資金の制約のため、あまり行われないだろう。

LATCHの法則で分類
このような存在するモノを整理するには、分類して並び替えるのが一般的だ。分類と並び替えの方法については、「インフォメーション・アーキテクト」の名付け親であるリチャード・R・ワーマンが提唱したLATCHの法則が参考になる【2】。

【2】リチャード・R・ワーマンが提唱したLATCHの法則
【2】リチャード・R・ワーマンが提唱したLATCHの法則


たとえば、住所はLocation(位置)による分類、電話帳や辞書はAlphabet(日本では五十音)による分類である。「超整理法」で有名な野口悠紀雄氏は、書類をCategoryではなくTime(時間)で並べる方法を提唱した。Hierarchyはわかりにくいが、大小、安い高い、重要性の序列など、程度による分類を意図している。ワーマンは、これらの5つの切り口のうち、ひとつまたは複数を組み合わせれば、どんな情報でも分類できる、と主張した。

図書館はカテゴリによる分類
わかりやすいようで難しいのがカテゴリによる分類だ。前述の「分類の階層が浅い」「1カ所にひとつ」という制約のため、分類の階層をどう定義すべきか、各階層ではどの単位でまとめるべきか(中に入るモノが多すぎても少なすぎても困る)、フォルダや収納ボックスのラベルには何を書くべきか、などについて悩むことになる。

図書館では、すべての図書資料を漏れなく分類できる体系をつくり上げることでこの問題に対処した。日本の図書館で採用されている日本十進法では、蔵書を3階層のカテゴリで分類し、カテゴリを0~9の3桁の数字で表す【3】。各階層は、最大10の項目で分類する【4】。

【3】図書館の日本十進分類法
【3】図書館の日本十進分類法

【4】「産業」以下の第2階層
【4】「産業」以下の第2階層


項目数や階層の深さは、分野により自由に定義することができる。たとえば、商業の679は未定義であり、いずれ新しい産業のために使われることになるかもしれない【5】。

【5】「産業商業」以下の第3階層" src="/attach/images/2008october/web_strategy/IA/03/05.gif" width="250" border="0" height="275" />
【5】「産業>商業」以下の第3階層


この分類体系は「日本十進分類法新訂9版」という書籍として、日本図書館協会から出版されていて、その中では、各分類にどのようなトピックが分類されるべきかについて、詳細に定義されている。時代によってトピックや分類は変化していくため、分類も時々改定されていく。

この分類体系によって、だれが作業しても同じ図書は同じように分類されるようになった。このように有効に機能する分類体系をつくるには、長い年月と労力が必要になる。

MECE:モレなくダブリなく
もう1点、カテゴリによる分類で難しいのが、「1カ所にひとつ」の分類をすることだ。

MECEという論理思考の考え方がある。「Mutually Exclusive Collectively Exhaustive」の略で、「それぞれが重複することなく、全体集合としてモレがない」という意味である。

たとえば、下記のような分類は、MECEではない【6】。「魚」など、果物、野菜、肉のどれにも当てはまらない食べ物が存在する。

【6】
【6】


また、下記のような分類もMECEではない【7】。リンゴが重複しているためである。

【7】
【7】


デジタル時代の情報整理

一方、デジタル情報は、どのような特徴を持っているのだろうか。

1.情報量が少ない
デジタル情報の場合、スペースの制約はないに等しい。ハードディスクなどの記録デバイスには最大容量の制約があるが、増設が容易であり、容量当たりのコストが下がり続けているため、事実上制約は無いに等しい。

2. 1カ所にひとつではない
デジタル情報の場合、エイリアス(ショートカット)のように仮想的に分身をつくる仕組みがあるため、ひとつの情報をひとつの場所のみに存在させるという制約はない。また、デジタル情報は簡単に複製することができるため、念のためのバックアップ、一時的な複製の消し忘れなどの理由で、まったく同じ情報が複数の場所に存在することになる。

3.類似情報が多い
同じくデジタル情報は簡単に複製することができるため、少し違う派生バージョンがたくさん存在することになりがちだ。どこがどう違うのか、どれがどれをもとに派生したのか、ほかに派生バージョンはないのか、などを把握できなくなる。

デジタル時代の整理方法
このような特徴を持つデジタル情報を整理するためによく用いられるようになったテクノロジーや考え方がいくつかある。

検索
IT化される前の図書館では、紙のカードを使って検索を可能にしていた。厚紙の小さなカードにタイトル、著者、出版社、出版年、分類などの本に関するメタデータを書き、穴を開けて棒に通し、小さな引き出しに格納する。検索するときは、引き出しを開けてカードをパラパラとめくり、目当ての図書を探し出す。カードには本の保管場所とIDが書いてあり、該当の棚へ行って探す(が、貸し出されている場合は見つからない)。

情報のデジタル化と検索エンジンの発達により、この状況は一変した。情報の意味を認識してメタデータを自動でタグ付けしたり、情報の内容そのものをキーワードで全文検索することが可能になった。

タグ付け
分類のコンテナ(入れ物)へ情報を入れるのではなく、情報に対して付加情報としてのメタデータをタグ付けするというアプローチである。これによって、ひとつの情報を複数の多面的な切り口で検索、分類することができるようになる【8】【9】。

【8】「子ども」と「お花」のタグを付けた例
【8】「子ども」と「お花」のタグを付けた例

【9】仮想フォルダへ分類された例は動的に分類される
【9】仮想フォルダへ分類された例は動的に分類される


メタデータによって多面的な検索を可能にするという考え方自体は新しいものではないが、多すぎる情報を効率よく検索したいというニーズの高まりと、メタデータの管理や検索に関するユーザーインターフェイスの成熟によって、より幅広く使われるようになってきた。たとえば、音楽ファイルの管理アプリケーションであるAppleのiTuneや、画像ファイル管理アプリケーションであるPicasaなどで、有効に活用されている。ディレクトリ構造のハードディスク上のどこにファイルが存在するのかを意識することなく、大量のファイルを多面的に分類・検索することができるのである【10】。

【10】Picasa(picasa.google.com)の例。「子ども」と「お花」のタグが付けられた写真が抽出された。両方のタグを持つ写真は両方に分類されている
【10】Picasa(picasa.google.com)の例。「子ども」と「お花」のタグが付けられた写真が抽出された。両方のタグを持つ写真は両方に分類されている

タクソノミー
タグ付けでは、どのような切り口のメタデータをどのような言葉でタグ付けするかが課題になる。すべての情報に対して一貫したタグ付けがされないと、網羅的で効果的な分類や検索ができなくなるためだ。情報の体系をMECEで分類し、語彙を統一・制限した分類ルールをタクソノミーと呼ぶ。前述の日本十進分類法も、タクソノミーといえる。企業では、自社において扱われる情報の分類体系としての独自タクソノミーを定義するケースが増えてきた。

フォークソノミー
タギングの一種。通常のタギングでは管理者側がトップダウン的に決められた語彙とルールに基づいてタグ付けをするのに対して、フォークソノミーでは、ユーザーがボトムアップ的に自由なメタデータを情報へタグ付けすることができる。

付けられたタグは、関連情報の検索やレコメンデーションに使われることが多い。Web 2.0的なサイトでよく実践されている【11】。

【11】Flickr(flickr.com)は、画像を共有するサイト。画像に対して、好きな文字列のタグを複数付けることができる。タグ名をクリックすると、同じタグが付けられた画像が表示される
【11】Flickr(flickr.com)は、画像を共有するサイト。画像に対して、好きな文字列のタグを複数付けることができる。タグ名をクリックすると、同じタグが付けられた画像が表示される

関連付け
類似情報が多いという前述の特徴のため、情報やファイル間の関係性を定義することも重要になってくる。通常のファイルシステムではこの関連性を管理することができないため、フォルダでまとめたり、ファイル名を工夫したりするが、関係性をシステムとして管理できる機能を持つデジタルアセット管理システムも存在する。バージョン管理も、更新日によるファイルの関連付けをしているといえる。

継承
カテゴリによる分類と似ているが、親の属性を子が引き継ぎ、拡張や変更を行う点が異なる。共通点をまとめて差異を明確にするのがポイントである。CSS (Cascading Style Sheet)のクラスはこの継承を行う。

編集者タイプIAの今後
このように、膨大な情報を整理するためには、伝統的な整理・分類手法に加えて、最近のテクノロジーや概念に関する知識が不可欠となる。デジタルアセット管理やドキュメント管理、コンテンツ管理などのソリューションを導入するのはIT部門が担当することが多いため、IAが外部から起用されるケースも多い。また、情報の整理と管理は継続的に必要となるため、米国では社内専属ライブラリアンとしてIAを雇用することも多いようだ。日本でもこのような体制は普及すると思われる。実際に、筆者が現在かかわっている日本アムウェイのCMSプロジェクトでは、情報の整理と管理を行う社内ライブラリアンの部署を発足させた。

最後に、今後IAが自身の価値を高めていくために、ひとつ提案をしたい。このタイプのIAは、タクソノミー管理や情報の整理・運用という専門的で狭い領域における日々の業務で終わってしまうのではなく、情報をつくるプロセスや管理するプロセスも整理対象とし、調査・定義・改善していく役割を担ってはどうだろうか? ITアーキテクトや業務改善コンサルタントとしての道も開けてくるかもしれない。

必要な必要な知識とスキル
情報整理業務に必要な知識・スキルは多岐にわたる。さらに理解を深めたい場合は、下記の書籍やサイトが参考になるだろう【12】。

【12】参考資料
【12】参考資料


本記事は『Web STRATEGY』2006年5-6 vol.3からの転載です
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