第7回 IAは救世主? - 実践的インフォメーションアーキテクト論 | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-

第7回 IAは救世主? - 実践的インフォメーションアーキテクト論

2024.4.25 THU

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IAになりたい人、IAと仕事をしてみたい人必見!
実践的インフォメーションアーキテクト論


文=清水 誠文=清水 誠
実践系Webコンサルタント。DTP・印刷・ネットビジネスの分野を中心に、ITとIAによる業務カイゼン を手がける。印 刷物とWebへ画像をシングルソースするためのカラーマネジメント、文字情報をシングルソースするECM・XML・自動組版、ビジネスを加速するITイノ ベーションが最近のテーマ。1995年国際基督教大学卒

第7回
IAは救世主?

過去6回にわたり、IAの歴史や理論、実践方法について紹介してきた。重要度と複雑度を増すWeb構築における成功の鍵と、IAへの期待は高まるばかりで、筆者にもIAになる方法や紹介の依頼が絶えない。そんな悩みにこたえるべく、クリエイターとクライアント企業の両方の視点でIAの価値について語り、今後を予測することで、本連載の最終回としたい。


付加価値を求めて

ニーズから生まれたコミュニティ
本連載の第1回目では、IAの過去を振り返ったうえで、IAをタイプ別に分類して紹介した【1】。同じ名称でもこのような多様性があるため、IAの定義や責任範囲についてはいつでもどこでも議論が絶えない。そもそも、なぜ人や会社によって見解が異なるのだろうか? 通常は、WebのディレクションをするからWebディレクター、デザインをするからWebデザイナー、と行為ありきで職種にわかりやすい名称がつけられる。

【1】同じIAでもタイプはさまざま
【1】同じIAでもタイプはさまざま


一方、「インフォメーションアーキテクト」の場合は、自身やWebの価値を高めるために従来の作業方法や責任範囲にとらわれずに試行錯誤を重ねる人たちが、「私はだれ?」という問いを続け、「Information Architect」という名称の提案に賛同してつくられたコミュニティだったといえるのではないだろうか? そして、名称が与えられたことによって、さらにコミュニティ化が進んだ。

では、どのようにしてIAは価値を高めようとしたのか? それを整理すると、今後のWeb業界が見えてくる。

1.専門性を高める
IAは学術分野と親和性が高い【2】。ユーザーインターフェイス設計はHCI (Human-Computer Interaction)や認知科学、情報デザインの理論を応用できる。ユーザビリティはユーザビリティ工学、さらにはソフトウエア工学というWebよりも長い歴史をもつ学術領域から発達した。また、情報の編集に関しては、図書館学、分類学、また情報処理、概念的にはオントロジ工学などが関連してくる。

このように、既存の学術分野を参照し応用することで、理論武装が進んだ。

【2】IAに関連した学術領域
【2】IAに関連した学術領域


2.成功事例やノウハウを集める
IAはコミュニティ活動が活発だ。特に米国やヨーロッパでは、大小さまざまな集まりが開かれ、同じ関心をもつ人たちが会社や職種を超えて集まってくる。そこでは、立候補して選ばれた人たちが自社の工夫や結果、課題を発表し、聴衆からは活発に意見や質問が寄せられる。筆者も発表したことがあるが、なかには鋭い質問もあり、そのことによって、発表者も聴衆と同様にメリットを受け、さらにプロジェクトに生かすことができる。

また、個人や団体はIAに関するWebサイトを持ち、最新情報が次々と書き込まれる【3】。日本の団体や企業のサイトが形骸化するのとは対照的だ。アイデアが集められて議論が進み、理論やノウハウへと昇華されていくので、ナレッジマネジメントやコラボレーションソフトウエア、コンテンツ管理システムなどが発達してきたのも納得できる。

【3】IA関連の団体やBlogの例
【3】IA関連の団体やBlogの例


3.コミュニケーション能力を高める
ノウハウが集められて理論武装が進んだ結果、IAは制作したモノの理論づけや整合性確認を期待されるようになり、チームの中で技術やデザインなど異なるバックグラウンドをもつ人たちの間のとりまとめの役割を担うようになった。本連載の第6回目では、デザインの整合性確認とドキュメント化をIAが支援することを提唱した。

また、対外的にはクライアントへのプレゼンや対応、提案活動が増えていった。この方向性が強いIAを【1】では「コンサル型IA」と名づけた。

4.最先端を追い求める
何でも、新しい分野の最先端を開拓する先行者は高い価値を生み出しやすい。ところが、進化が鈍化してIAの先駆者であるコモディティ化が進むと、一気に価値の下落が進む。ユーザビリティやアクセシビリティ、ユーザーエクスペリエンス、というよりもWebそのものがコモディティ化した今は、新旧のテクノロジーを応用する方法を提案し続けていかないと、高い価値を産出し続けることができない。

最近では、IAのJesse James Garrett氏がAjaxを提唱し、Web 2.0ブームを支えた。本連載の第4回目では、ソフトウエアのような使うサイトのユーザーインターフェイス設計方法について紹介した。また、日本では今、WebのCMSがよく提案や導入され、そのために情報を整理し構造化するというニーズが高まっている。本連載の第3回目では、情報の整理について具体的な方法を紹介した。


IAに関するよくある相談

IAの将来について検討する前に、最近筆者に寄せられるIAについての相談に答えておきたい。

Q 「将来を考えると今後もWeb業界にいるべきなのか不安です。どういう経験を積むべきですか?」

回答1
□ ニーズの高いIAを目指してみてはいかがでしょうか? ただし、IAもいろいろなので、どのタイプのIAを目指すのかを明確にして集中する必要があります。その際は、過去の経験を生かすべきです。社会人になってはじめからIA、という人はほとんどいません。本を数冊読み、上記の海外サイトやblogでトレンドにキャッチアップしたあとは、IAを名乗ってしまいましょう。幸い、IAには資格はありません。

IAの肩書を得たあとは、選んだタイプのIAが必要とされ、活躍できるプロジェクトに参加していけば、スキルや知識を積み重ねていくことができます。ここがいちばん難しい点で、会社を選ぶ必要があるかもしれません。また、IAが活躍できるプロジェクトに自分がアサインされるように、日ごろから社内でIAへの理解を深めておく必要もあります。

回答2
□ 事業者側と受託側の両方を経験することをお勧めします。今後のWebクリエイターには、ビジネスへの深い理解や、長期的な取り組みの経験が必要になってきます。受託側のみにいると、ビジネスの実情が見えてきません。一方、事業者側にいると、自社の事情に詳しくなり、世の中のトレンドや普遍的なスキルが身につきにくいことがあります。

Q 「IAを採用したいけど見つからないんです。どうすれば最適の人が見つかりますか?」

回答
□ IAに何を期待していますか? それによっては、「Webディレクター」や「Webコンサルタント」など、IA以外のわかりやすい名称で募集したほうが見つかりやすくなります【4】。

【4】採用時にIA以外の名称で募集をかけたほうが人材が見つかりやすい
【4】採用時にIA以外の名称で募集をかけたほうが人材が見つかりやすい


他の一般的な職種では置き換えられないIAの知識やスキルを必要としている場合は、最初から即戦力を求めずに、若い人材を発掘して育てていくのはどうでしょうか? IA特有の知識とスキルをもつハードコアなIAは日本では少ないため、見つかる可能性は低いと思います。


IAの今後を占う

上記の回答には、今後IAがどうなっていくかについての予測が含まれている。あらためてポイントを整理してみよう。

社内IAが増える
Webがビジネスそのものに直結するようになってきたため、Webの制作や運用だけではなくビジネスそのものへの理解が必須になってくる。そうなると、制作会社やWebコンサルティングなどの社外チームだけでは、ビジネスに成功をもたらすWebの立ち上げや改善ができなくなってくる。社内のビジネスプロセスに精通し、仮説・実行・検証のサイクルを繰り返して確実な改善を積み重ねるためには、社内にもIAを抱えると効果的だ。

実際、2002年ごろからIAが個人として事業者に採用されるケースが増えている。また、最近のWeb2.0に代表されるようなベンチャー企業では、企画から開発、制作、運用を社内の精鋭チームでこなし、短期間でベータ版を改善し続けるのが当たり前のようになっている。

事業者側にIAが増えるのは、制作会社にとっては脅威といえるだろう。要求は高度化し、付加価値の低い労働集約的な作業のアウトソースが増えていく。

デザインからインターフェイスへ
日本では、サイトの骨組みとしてサイトマップやワイヤーフレーム作成をおもな作業範囲とするIAが多い。前述のようにサイトがビジネスそのものになり、ソフトウエア化が進みつつあるため、ユーザーとインタラクトするWebアプリケーションのUIデザインが増えつつある。グラフィックデザイナーやデベロッパーがUIを兼任するのではなく、このようなサイトこそIAがユーザー中心設計を実践し、ユーザビリティの高いサイトを構築するべきだ。

WebアプリケーションのUIデザインはフロントエンドとバックエンドの面で技術的な制約を大きく受けるため、何ができて何ができないのかを理解し、ユーザビリティをギリギリまで高める必要がある。【1】で分類したUIエンジニア型IAだけでなく、SE型IAのニーズも増えていくだろう。

表現から構造へ
CMSの普及に伴って、情報そのものを整理し構造化するニーズが増えている。これこそ情報のアーキテクチャであり、ほかの職種で置き換えることができないIA特有の仕事内容である。一部のCMSベンダーはすでに、情報の構造化とデザインのテンプレート化に強い制作会社と組んでクライアントに提案活動やサービス提供を行っている。

ビジネスに不可欠なスキルへ
「IT」というキーワードがよく使われるが、技術のみを指している場合がほとんどだ。たとえば「現代のビジネスマンにはITスキルが必須だ」といえば、PCやスマートフォン、Office系アプリケーションを活用できる、ということを意味していることが多い。ITとは情報(Information)技術(Technology)の略であり【5】、技術だけではない点をもっと注目すべきだ。

【5】情報スキルの一般化
【5】情報スキルの一般化


今後も、確実に情報の量や複雑度が増していくため、あふれる情報を整理して活用できるスキルが重要になる。デスクトップやマイドキュメント、あふれるメールボックスを整理し、コラボレーションにより知識を高め、重要な情報をアセットとして共有・活用できる必要がある。


まとめ

IAの提唱者であるリチャード・R・ワーマンは、次のようにIAを定義した。

「データに表れたパターンを整理し、複雑なものを明確化する人」
「情報の構造や地図をつくることで、他者が知識を理解するための手がかりを与える人」
「明確さ、人間への理解、情報構造の科学を扱う、21世紀の新しい職業」

この定義に喚起された思想家達は、Webの黎明期にIAを名乗りだした。が、時代は変わった。分化が進み、職域が絞り込まれれば、IA以外の名称で置き換えられるかもしれない【6】。情報のアーキテクチャと、それを行う人としてのアーキテクト(建築家)は異なるものなのだ。職域や人としてのIAはどうなろうと、情報をうまく扱い有効活用するためのスキルは、今後のIT社会では必須になっていくとに確信している。本連載が、そのために少しでも役立つことができれば幸いだ。

【6】今後IAは分化が進み、いくつかは他の職域に統合されていく
【6】今後IAは分化が進み、いくつかは他の職域に統合されていく


本記事は『Web STRATEGY』2007年1-2 vol.7からの転載です
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