第4回 IA設計の逆流アプローチ - 実践的インフォメーションアーキテクト論 | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-

第4回 IA設計の逆流アプローチ - 実践的インフォメーションアーキテクト論

2019.1.23 WED

IAになりたい人、IAと仕事をしてみたい人必見!
実践的インフォメーションアーキテクト論


文=清水 誠文=清水 誠
実践系Webコンサルタント。DTP・印刷・ネットビジネスの分野を中心に、ITとIAによる業務カイゼン を手がける。印 刷物とWebへ画像をシングルソースするためのカラーマネジメント、文字情報をシングルソースするECM・XML・自動組版、ビジネスを加速するITイノ ベーションが最近のテーマ。1995年国際基督教大学卒

第4回
IA設計の逆流アプローチ

ユーザーエクスペリエンスやIA設計の方法論は、そのまま実践してもムダが増えたり、手戻りが増えたりすることがある。重要なのは最終的につくるモノであり、そのために何が必要かをつねに意識する必要がある。今回は、この解決策として、通常の作業の流れを逆流するアプローチについて紹介したい。


逆流アプローチのススメ

方法論の落とし穴
ユーザーエクスペリエンスやIA設計に関する翻訳本には、下記のようなロジカルな方法論が書かれている。

1.調査
ビジネスやユーザーを理解するための各種調査(ヒアリング、アンケート、ワークショップ、ログ解析など)

2.ペルソナ設計
関係者間でターゲットユーザーの定義を正確に共有するためのプロファイル記述

3.シナリオ・サイトマップ設計
ユーザーがサイトを利用するコンテクスト(背景、理由、期待、目的)を明確にするためのストーリー記述と画面遷移設計

4.ワイヤフレーム設計
画面を構成する要素とユーザーインターフェイスの定義

このような方法論を教科書通りに実行すると、各工程ではクライアントの承認を得ながらスムーズに進行しても、最終的なサイトには関係ないムダな作業や前工程への手戻りが発生することがある。後の工程に影響を与えないことに労力を使ってしまうためだ。たとえば、ペルソナ設計では「あるある」「私はこう思う」「リサーチ結果ではこうだ」と盛り上がって仮想キャラクターの年収や学歴、家族構成を決めても、それはサイトの利用方法やデザインには影響を与えなかったりするのだ。

逆流アプローチの提案
そこで、IA設計の逆流アプローチを提案したい【1】。このアプローチでは、最初に想定を重ねながら画面をラフにつくってしまい、次にその利用シチュエーションを想像しながらシナリオとサイトマップを起こす。そのシナリオから明らかになる想定ユーザー像を必要な数だけ作成して逆流完了。そこからは通常の順番で詳細設計やクライアントレビューを重ねていく。

【1】逆流アプローチの流れ:下流から上流へ逆流し、再度下流へ
【1】逆流アプローチの流れ:下流から上流へ逆流し、再度下流へ


ケーススタディ:自動車のオンライン見積もり

架空のプロジェクト想定
ここからは、事例を用いてIA設計の詳細を解説していく。筆者の経験に基づいているが、クライアントの機密保持のために、多少の脚色を加えてあることをお断りしておく。

MdN自動車では、販売促進強化のため、オンライン見積もりをリニューアルすることになった。顧客の視点でリニューアルするために、IA設計とデザインに関してはSI会社ではなくユーザーエクスペリエンスの専門家であるX社へ依頼した。X社には自動車業界の経験がなかったため、逆流アプローチを使うことにした。

ワイヤフレーム設計
本来はIA設計の後半の工程であるワイヤフレーム設計から始める。まずは、細かいインターフェイスやデザインは気にしないで、画面の構成要素(項目)に着目する。逆流中は想定に基づいて画面を設計してもかまわない。下記のようないろいろな観点で検討を重ねながら、設計の前提とした仮説は何か、調査などで明確にすべき不明点は何か、を明らかにする。

構成要素のチェックポイント
・情報の親
何に関する情報か?
・既知度
その情報をすでに知っているか?
・ゴール関連度
ユーザーの目的を達成するために必要と認知されるか?
・負担
入力や理解に必要とされる心理的かつ物理的な負担はどれくらいか?

これらのチェックポイントを用いて各画面の構成要素を吟味した結果、確認すべきポイントがいくつか抽出された【2】。

【2】画面の構成要素を吟味しながら、仮説や要確認点を抽出する
【2】画面の構成要素を吟味しながら、仮説や要確認点を抽出する


車種選択:車種の選択は見積もるために当然必要な行為と認知され、違和感や抵抗はないだろう。「昨晩テレビCMで見たあのミニバン」など、車名だけでは希望車種を認識・特定できないこともあるという仮説を立てて、写真や特徴を掲載するユーザーインターフェイスにした。

地域選択:現行サイトに存在するので残したが、車の見積もりになぜ自分の地域を入力する必要があるのか、わからないユーザーもいるだろう。また、郵便番号による入力方式だと、引っ越し前後でまだ覚えていなかったり、海外在住でもうすぐ帰国予定の場合など郵便番号を持たないユーザーも想定される。ビジネスプロセスの要件として、郵便番号は最低何ケタ必要なのか? 都道府県のみの選択では不十分なのか? 入力を任意にすることでビジネスへ与える影響は何か? をクライアントに確認する必要がある。

販売会社選択:車はメーカーと販売会社が異なるということを知らないユーザーにとって、この画面はかなり唐突だろう。販売会社によって実際何が異なるのか、自宅に近ければよいのか、その場合はどの住所が自宅から楽に運転できるのか、などと考え調べる必要に迫られる。ビジネスに差し支えない範囲で、販売会社の比較検討に役立つ情報を掲載したい。

グレードの選択:見積もりのために必要な行為だとは認知されるだろうが、車にこだわりがなく、モデルやカラーは何でもいいというユーザーにとっては、不要であり負荷の高い画面だろう。そのようなユーザーの割合はどれぐらいか、確認する必要がある。ログ分析やアンケート調査を行う可能性も頭に入れておく。

シナリオ・サイトマップ設計
次に、これらの画面をユーザーはどのようなシチュエーションで利用するかをストーリー化したシナリオを作成する。これは、画面の遷移(順番や分岐)を定義するサイトマップとも密接にかかわってくるため、同時に検討を進めるとよい。

画面遷移のチェックポイント
・画面の順番に必然性はあるか?
・条件分岐に過不足はないか?
・一貫性はあるか?
このような観点で検討を重ねて、画面の遷移を仮決定する【3】。逆流中のこの工程でも、仮説や要確認点を明確にすることが重要だ。

【3】シナリオを考えながらサイトマップを設計
【3】シナリオを考えながらサイトマップを設計


仮説の例
「車に関する情報の入力や選択は早い段階のほうがよい」
グレード選択は見積もりというゴールに関連度が高い行為のはず。ユーザーにとって負荷の高い販売会社選択よりも順番を先にすることで、スムーズに画面遷移の奥へ誘導することができるのではないか?

「選択を強制しないほうがよい」
先の画面へ進むために仕方なく不適切な選択をしてしまうと、見積もり結果の信ぴょう性が落ちる。任意の画面や選択はスキップできるとよい。

「選択を支援すべき」
車種やグレード、販売会社の選択肢について詳しくない場合のため、詳細情報へのリンクや比較表が必要。また、調べている間にセッションがタイムアウトしないこともシステム開発の要件としてメモしておく。

ペルソナ作成
このように工程を逆流した結果、画面を軸とした利用シチュエーションが明確になってきた。これはまだ画面ありきのストーリー化であり、ユーザー視点で再構築する必要がある。次に仮想ユーザーを作成してから、そのユーザーの視点でストーリーを再検討していく。

まず、何パターンのペルソナが必要かを洗い出すとよい。その際はサイト利用に影響を与える(と逆流アプローチの結果わかった)要因を軸として、パターン化すると、他の工程とスムーズに連携できるパターンをつくることができる。

サイト利用方法に影響を与える要因
・希望する車の詳細を決めてあるか
・オンライン見積もりに慣れているか
・メーカーと販売会社の違いを理解しているか
・早く見積もりを完了したいか

4つの要因それぞれにYes/Noの2パターンがあるので、厳密には最大で2×2×2×2=16通りのパターンが存在するが、完全に網羅する必要はない。スケジュールとコストにもよるが、個々の要因についてYesとNoが一度でも網羅されていれば最低限足りる【4】。

【4】サイト利用方法に影響を与える要因からペルソナのパターンを作成
【4】サイト利用方法に影響を与える要因からペルソナのパターンを作成


要因からリバースするペルソナの例
「オンライン見積もりに慣れている」
他の車種やサイトでオンライン見積もりを最近経験した。前回の買い替え時期にはオンライン見積もりはまだ一般的ではなかったとすると、今回の買い替え需要のためにいろいろなメーカーや車種を最近検討していると考えるのが適当だ。

このため、メーカーと販売会社の違いはなんとなくでも理解しているはずだ。多くの見積もりを繰り返しているので、個別の見積もりに対してあまり時間をかけずに、早く見積もり結果を知りたいと思っているだろう。そう考えると、ネットを使って見積もりをする必然性もあることになり、つじつまが合う。

このペルソナをストーリーとして清書したあとに、無意味な仮名ではなくシチュエーションや行動を要約した名前をつけてみよう。「見積経験者」あるいは「見積 多郎」「比較 好太郎」などと人名っぽくしてもよい。




逆流IA設計のメリット
ここで逆流を終え、通常の順番で詳細な設計を開始する。逆流の結果明らかになった要確認点にフォーカスしたヒアリングや調査を行えば、当然のことながら調査がムダになることはない。

そもそも、なぜモノづくりの前工程として調査や設計が必要なのだろうか。それは、つくるために必要な情報を用意し、クリエイターが理解できるようにするためだ。一人で集客、接客、仕入れ、サポート、サイトデザイン、サイト更新などをすべてこなす個人商店なら、調査も設計もしないでページをつくることができるかもしれない。ところが、現実はそうではなく、ユーザーの行動は理解や予想するのが難しく、制作スタッフ全員に制作に必要な情報を正確に伝えるのは難しい。

ペルソナやシナリオは、制作に必要な情報を明文化するためのノウハウが集約された枠組みである。が、その意味や、実際のプロジェクトで何の情報を明文化すべきかをよく理解していないと、形骸化してしまうのだ。逆流アプローチによって、後工程で必要になる仮説と要確認点をまず明らかにしておけば、全工程が深く連携し、効果的なIA設計が可能になる。

こんな場合に効果的
逆流アプローチは、先が見通せない場合に効果を発揮する。

・経験浅いスタッフが多いプロジェクト
熟練者のレビューに頼るのは、効率が悪い。
・アプリケーション的なサイト
分岐が増えてシナリオが多くなるため、初期の工程からムダを減らすことが重要になる。
・想像しにくいサイト
関係者が多い、ビジネスプロセスが複雑、前代未聞の革新的なサービスである、などの理由で第三者としてのクリエイターが利用シチュエーションを想像しにくい

計画通りでムダのない作業に、クライアントも安心し満足度が高まるだろう。一歩先ではなく最終形までをも見据えることが、プロフェッショナルな仕事には必要なのだ。

本記事は『Web STRATEGY』2006年7-8 vol.4からの転載です
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