旬のアートディレクターをお迎えして、デザインする際の思考のプロセスと、創作のスタンスに迫る当コーナー。第31回目は美澤修氏。氏が代表を務めるomdrのアートディレクター・竹内衛氏にも同席していただき、第1話では「FRANCK MULLER」の広告について伺う。
第1話
コンセプトが明確なブランド「FRANCK MULLER」
「時」を表現する
ニューヨークの美術大学を卒業後、現地でキャリアをスタートした美澤修さん。1998年の帰国後も、数多くのブランディングをはじめとする仕事に携わってきたが、代表的なもののうちのひとつが「FRANCK MULLER」の広告だ。
「FRANCK MULLERの仕事に携わり始めてから、もう5年以上になります。このブランドの製品は、今までの時計の概念を壊すほど斬新で、いい意味で常軌を逸したものばかりです。そのすべてが、天才と呼ばれる時計師の技術に基づく、確かな機能をあわせ持っています」(美澤)
たとえば、ユニークな文字盤の配置と短針のジャンプ機能で知られる「The Crazy Hours」シリーズ。そこで用いられている独創的な数字書体は、同社の時計の多くに採用されてきたが、美澤さんが手がけた2006年以降の広告にも効果的に活用されている。
「時計や時間を表現するための要素として、まず考えられるのが数字です。特に、この書体はFRANCK MULLERの特徴を顕著に表しています。目を引く要素としても機能しますしね」(美澤)
「同じシリーズの広告は、ポスターやDMだけでなく、映像でも展開しました。メンズ、レディースそれぞれにテーマを持たせたのですが、いずれも時間の流れが感じられる表現を狙っています」(竹内)
また、数字を用いた直接的な訴求方法のみならず、「日時計や人の動きから生まれるリズムなどでも、時間を感じさせることはできる」と美澤さんは語る。それが体現された最新の広告ビジュアルは渾身のでき映えだ。
「時計を擬人化し、夕暮れ時に静かに座り込んでいるようなたたずまいで、ゆったりとした時間を表現しました。もう1パターンでは、時を感じさせる俳句として名高い松尾芭蕉の『古池や蛙飛込む水の音』をモチーフとしています」(美澤)
核が明確であれば成功する
さまざまなノベルティなども同様の考え方で制作されてきた。めくる行為で時を感じさせるカレンダー、マジシャンの動きによる緊張感のある一瞬を想起させるトランプ。アプローチは多種多様だが、いずれもこのブランドらしさを訴求している。
「新しい見せ方で時間や時計を表現し、FRANCK MULLERの姿勢に相応しい広告を目指しています。顧客は商品の細部まで見たいはずなので、そのポイントはしっかりと押さえます。けれども、このブランドの特徴を定着させる工夫もどこかに欠かせません」(美澤)
時計は製品ごとに購買層が異なる。同ブランドには比較的、年配向けの製品が多いが、美澤さん曰く「未来のターゲット」である若者に向けた広告も必須だ。だからといって、それを安っぽいタッチで仕上げてしまい既存のファンを失望させてしまっては元も子もない。
「そのためにも、ブランドコンセプトが明確であることが重要になるのです。核が明確なブランドは、それを忠実に訴えていくことで自ずと成功します。本質がしっかりしていることで“ブレない”広告を作りやすくなるんですよね」(美澤)
(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏 作品撮影:宮本昭二)
次週、第2話は「相乗効果を生むシステム作り」について伺います。こうご期待。
美澤修●みさわ・おさむ |