第2話 相乗効果を生むシステム作り | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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第1話に引き続き、美澤修氏と omdrのアートディレクター・竹内衛氏らによってデザインされた作品を紹介する。第2話では神奈川県の葉山にあるデザインホテル「SCAPES」のプロジェクトに注目。



第2話
相乗効果を生むシステム作り「SCAPES」



●色によるコンセプト

第1話で紹介した「FRANCK MULLER」が、受注の時点で明確な核の存在する仕事だったのに対し、今回の「SCAPES」を美澤さんが受注したのはグランドオープン以前のこと。その時点では、建物自体も未完成だった。

「依頼時に決まっていたのは、葉山にできる4部屋のみのホテルであるといった大まかなことだけで、顧客に対してどのようにアプローチするかも定まっていませんでした。けれども、早い段階から深く携われたことが、この仕事では幸いしました」(美澤)

多くの旅館やホテルは、立地の良さや温泉の有無、食事の内容などを目玉とする。結果として似たり寄ったりの売り文句が並べられるのが常で、利用者の立場からすると、選択基準となる材料に乏しくなりがちだ。そこで、美澤さんはSCAPESに明確なコンセプトを設けることを提案した。

「核になるものがあれば、そこから訴求すべき内容に繋げていけます。またコンセプトがしっかりとしていれば、もし改築することになっても何をすべきかが明確になります。前もってコンセプトを作り、それを施設や広告、オペレーションにも反映させていく、それがブランドの相乗効果を生み出すシステム作りなのです」(美澤)

結果として生まれてきたコンセプトは4色のストライプ。配色は、立地環境における自然の魅力から発想したサックスブルー、マンダリンオレンジ、エバーグリーン、メープルローズ。これらは各部屋を象徴する色としても割り当てた。
「受注の際には内装もこれからの段階でしたから、インテリアのコーディネイトやアメニティなどにも携わることができました。部屋のキーホルダーも4色で、各種サインにも効果的に色を用いています」(美澤)


先を見越すことの重要性


色を活用するアイデアとはいえ、部屋全体が真っ青、真っ赤ではせっかくの空間も台無しだろう。そこでは各種アイテムをポイントにすることで、ひと目で部屋の「色」は判別できるものの、求められる上質感は維持している。

「やり過ぎると安っぽくなりますからね。印刷物でも、明るい白が合わない場合には生成りを選ぶことがあるように、素材の持つ質感や使用感は大事に、実際の客室にベッドヘッドが取付けられたときに、どんな気分かをみんなで検討しあいました」(竹内)

「建築家と相談して、部屋によって床や壁の色も少しずつ変えています。部屋と家具や小物の関係性で、バランスを取って色が与える印象をコントロールしているのです。建築サイドとの良いコラボレーションができました」(美澤)

なお、葉山のSCAPESの象徴は4色だが、概念・総体としての「SCAPES」のロゴはモノクロのストライプである。これは、今後2件目を建てることになった場合にも、立地のイメージに左右されないための工夫だ。
「具体的に次の予定があるわけではありませんが、何事も少し先を見越しておかなければいけません。次の展開へも繋げやすく、しかも第1弾の名前やイメージも資産として継承できる構造を事前に設けておくことが肝心なわけです」(美澤)
(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏 SCAPES撮影:Nacasa and Partners Inc.)



次週、第3話は「写真に対する深い造詣」について伺います。こうご期待。





美澤修●みさわ・おさむ
1968年生まれ。1989年渡米。1992年School of Viasual Atrsを卒業。Javier Romeroに師事し、NECやAppleの広告およびパッケージデザインなどを手がける。その後、フリーランスのアートディレクターとしてニューヨークを拠点に、CBS、Neiman Marcus、MoMA などの仕事を手がける。1998年に帰国し美澤修デザイン室設立。ファッション、コスメティックブランド、ジュエリー、出版物、ホテルをはじめ、さまざまな分野でブランディング、クリエイティブディレクション、グラフィックデザインを行う。主なクライアントにCHANEL、FRANCK MULLER、Kanebo、DAMIANI Japan などがある。
http://www.omdr.co.jp/

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