第2話に引き続き、美澤修氏と omdrのアートディレクター・竹内衛氏らによってデザインされた作品を紹介し、その制作過程における思考のプロセスに迫る。第3話では、日本でも名高いフランスのブランド「Cartier」関連の仕事に迫る。
第3話
日本と海外での“捉え方”「Cartier」
ジャパン・オリジナリティを追求
美澤さんたちにとってCartierの仕事は、フランス本社から与えられるビジュアルをアレンジする程度のことにはとどまらない。そこでの課題は「どのようにジャパン・オリジナリティを出すか」。もちろん、それは和風に仕上げるといった短絡的な意味ではない。
「フランス側でもDMなどを作成しますが、日本で同じものを用いることが最良とは限りません。最適な売り方は、市場によって異なることが多いですからね。日本のマーケットの状況を踏まえて、よりそこで響く広告展開をすべきだと考えています」(美澤)
初仕事となったDM制作では、用意された商品写真を使用したが、そのレイアウトと外装はオリジナルでデザイン。限られた範囲ではあるが、そこにも徹底したこだわりがあった。
「当初、美澤が指定した封筒の斤量では、厚過ぎるのではないかと感じていたのです。けれども、仕上がってみたらうまく品格が生み出される 結果となりました」(竹内)
続いて手がけたプレスリリースでは写真も撮り下した。コントラストを強調し、宝石の細かなディテールまでを美しく見せたビジュアル。それは、まるで宇宙にいるかのような浮遊感を感じさせ、フランス本国でも大絶賛だったという。
「Cartierの印刷物には、必ず本社でのチェックがともないます。ワールドワイドに展開するうえで、各国でブランドイメージにブレが生じることを避けるためです。すると、いかにパリからの考え方を吸収し、その延長線上で日本独自のクリエイティブを生み出せるかが鍵となってきます」(美澤)
ビジュアル表現の意義
本社チェックのプロセスでは「Cartierらしさ」というキーワードは避けて通れない。他のブランドを連想させてはならないのは当然としても、言葉に聞く限りあまりに抽象的な要求だ。しかし美澤さんは「ブランドの本質は、その歴史を読んでいくことで、段々と理解できる」と言い切る。
「Cartierらしさとしか言い表せないのも、ある意味では当然なんです。特定の言葉に当てはめてしまうほうがかえって乱暴で、そこに語弊が生まれる可能性が高い。言葉にできないからこそビジュアル表現する意義があるわけですし、それこそがこの仕事の楽しさですからね」(美澤)
言葉に依存すると使用言語ごとにも齟齬が生じるが、ビジュアルコミュニケーションであれば、その壁も飛び越えられる。だが、それではグラフィックについては、各国ごとに受け入れられやすさに差はないのだろうか。約10年に渡ってニューヨークを拠点としてきた美澤さんにその質問を投げかけてみた。
「ベースとなる文化が異なるので、“理解しづらい”ことはあるはずですが、“受け入れられやすさ”には違いがないように思います。違いが生まれる 要因はマーケットの特性でしょう。まったく何も通じないわけではなく、どこかで繋がる部分は絶対に存在するはずです」(美澤)
(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏 作品撮影:宮本昭二 )
(取材・文:佐々木剛士 人物写真:谷本夏 作品撮影:宮本昭二 )
次週、第4話は「蓄積・継続することの大切さ」について伺います。こうご期待。
美澤修●みさわ・おさむ |