このアートディレクターに聞く
資生堂の表現に、新たな風を送り込む
第37回 丸橋桂
旬のアートディレクターをお迎えして、デザインする際の思考のプロセスと創作のスタンスに迫るコーナー。第36回目は資生堂のアートディレクター、丸橋桂 さん。第2話では、丸橋さんがグラフィックデザイナーとしての視点を大事にしながら手がけた、資生堂が運営するセレクトショップ「ザ・ギンザ」でのディス プレー表現に注目する。
第2話 ザ・ギンザのディスプレー
グラフィックデザイナーならではの視点


離れた場所から見ると地図、近寄ると地図の中の建物が洋服の型紙であるとわかる表現。ファッションブランドのビルが多く立ち並ぶ銀座(左)、ニューヨーク(中)、パリ(右)を形作っている。サイズはB倍の2倍

離れたところから見るとTシャツのディスプレー、近くで見ると紙でできたTシャツとわかり、そこに複写された洋服が印刷されたものとわかる表現。実際、紙のTシャツは本物さながらに縫製されている

Tシャツと同じアイデアを用いたワイシャツでの表現。銀でシルク印刷された。シャツのボタンなども紙で作られ縫い付けられている
距離によって見え方が変化する
これまで資生堂が運営するショップ「ザ・ギンザ」のディスプレーを、グラフィックデザイナーが手がけることはあまりなかったのですが、何か変わった表現を期待されてか僕に話がありました。そのときに考えたことは「グラフィックデザイナーならではのアプローチ」です。「ディスプレー、だけどグラフィック」をひとつのコンセプトに掲げました。
通常、ディスプレー自体と販売されている商品の連動性は考慮されないのですが、ザ・ギンザでは洋服も販売していたので、僕はそれに着目して洋服のパターン(型紙)を並べることで高級ブランドのビルが立ち並ぶ街、銀座の地図を表現しました。同じアイデアでニューヨーク、パリの地図も表現したのですが、このときの肝は離れた場所から見ると地図に見え、近くで目にするとパターンに見えること。要するに二段構えで驚きが与えられるわけです。さらにザ・ギンザが洋服を販売していることを訴求できるというアイデアです。
同じく、ザ・ギンザからの「Tシャツを売りたい」という意向を踏まえて提案したのが、紙でできたフェイクのTシャツに、複写した洋服を印刷してディスプレイした表現。このときは、印刷面となる紙のTシャツは、フェイクだからといって手を抜かず、本物同様に真っ白い紙を縫製しました。同じアイデアで、Tシャツの代わりにワイシャツでの展開も行ったのですが、このときのワイシャツはボタンまで紙で作って縫い付けています。
いずれも、見る場所からの距離によって見え方が変化する表現ですが、これらはポスターなどで目にする人との距離を強く意識するグラフィックデザイナーならではのアプローチかもしれません。また、ディスプレーというと触れられないのが前提ですが、我々のように紙がもつ手触り、質感といったものを大事にするグラフィックデザイナーならではの表現のようにも感じます。多くの広告表現とは異なり、直接的に購買に結びつかなかったとしても、企業が持つ「美しさ」「楽しさ」といったポジティブなイメージの促進に貢献できたことが、この仕事では楽しかったですね。(取材・文:立古和智 人物写真:谷本夏)
次週、第3話は「スーパーマイルド、パッケージリニューアル」についてお送りします。こうご期待。
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●丸橋桂(まるばしかつら) |




