第3話 職人としての自覚 | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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第3話 職人としての自覚






マシンは手段のひとつ


――
いま現在、打越さんは自宅で、一人で作業している態勢ですが。

打越●池尻の後に南平台、二子玉川、桜新町……と事務所を転々として。その後、桜新町を出る時に、団体としての「錦瓊」は解散したんです。

――家族との時間を大切にしたかったとか?

打越●はい。もちろんそれもあるのですが、実際のところ仕事も減りつつ、お金ないなってときもあったんです。その後、一人で代官山に事務所を借りていたのですが、毎月家賃を払うのがもったいなくて。そういう理由で自宅で作業し始めたら、すごくはかどる。最初は「家で仕事できるか?」と思ったんだけど、意外や意外に集中できてます。

――お子さんたちと机を並べて作業してる姿、思い浮かばなかったですよ。

打越●ハハハ。こういう仕事柄、家を一度出ると終わりがみえるまでは帰れないじゃないですか。しかも、遅れるクセがついてるから、いつもギリギリの崖っぷち(笑)。そういう生活を変えたいという気持ちもありました。だから、いますごく幸せですよ。

――では、フィニッシュも早く?

打越●いや(苦笑)。でも、仕事する時間は変わりましたね。朝起きて、子どもたちを学校に送り出してから作業してます。とはいえ、いまだに夜中までやることもありますが。最近、徹夜ができなくて、朝方、口を開けてカーッて寝てる(笑)。


グラフィック・デザイナーとしての意識



――Macがなければ、自宅でデザインはできなかったですか?

打越●いや、最初は全部手でやってましたから、そんなことはないはずです。いま手でやれと言われたら引くけど、できないことはない。だから、やっぱりマシンは手段なのかと思います。意識の中では、いまだにカッターとハサミ、スプレー糊の感覚と同じですから。

――
画面上だと、キリがないですよね。

打越●うん、やり込んじゃう。でも、いくらやっても、あまり変わらないんですよ。最近はそういう見切りもつけられるようになってきたかな……。迷うとよく家内に「どう?」って聞いたりしてるし。彼女や子どもたちの意見は重要です(笑)。





――デザイナーに憧れた頃、思い描いていた理想通りに来られたと思いますか?

打越●進化してないけど、違ってもないですね。何が基準かわからないけど……根底にあるものは何も変わっていない。ひとつひとつの仕事にハマってしまうんです。カッコつけて言うようですが、自分的にはそこに魂を入れてるつもり。結局、流すことがうまくないんですね。器用じゃない。だから、作業が遅れちゃうんだけど(笑)。

――満足いくまで突き詰めるから、フィニッシュの着地点が見えづらい?

打越●うん。ある程度「ここはいいや」という割り切りはできるようになったんです。でも「どうしてもここは……」というところはトコトンやってしまう。昔はそれがもっと強かったし、もっと自分を出そうとしがちでした。最近は経験上、複数の着地点を用意できるようなフレキシブルさが持てるようになったと思いますが。

――デザイナーからアートディレクターへという自覚は?

打越●全然ないですね。クレジットに「Art Direction」とあると、自分で外してしまうほど。自分の中では線引きが違うんですよ。アートディレクターというのはもっと深く入り込んで、広く見渡さないとならない。グラフィック・デザイナーは紙面上のことで、そのほうがしっくりくる。なんか職人的な感じで、落ち着くんです。




MY LITTLE LOVER『The Waters』(1998年/トイズファクトリー)
上海ロケで撮影された素材をもとに「錦瓊」テイストが炸裂した、アルバム+フォトブック。
クリアファイルの三方背ボックス、野村浩司氏による白昼夢感あふれる写真、
エキゾチックで混沌を極める上海のイメージをビジュアル化した秀作。

次週、第4話は「もの作りの姿勢を学ぶ」についてうかがいます。

(取材・文:増渕俊之 写真:栗栖誠紀)


錦瓊・打越俊明氏

[プロフィール]

うちこし・としあき●1969年東京都生まれ。高校卒業後、洋食店に就職。その後、イギリス留学、音楽事務所勤務、デザイナー・アシスタントを経て、24 歳で独立。デザイン事務所King Cay Lab.(後に「錦瓊」と表記)を設立し、数多くの音楽CDジャケットなどを手がける。現在、デザイン業と同時にアート・プロジェクト 「MIRRORBOWLER」の一員として活動中。

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