第4話 もの作りの姿勢を学ぶ | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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第4話 もの作りの姿勢を学ぶ





 

すべては経験、そしてスタッフたち



──現在、写真家の野村浩司さんと組んで仕事をするケースが多いですよね?

打越●そうですね。最初はCHARAのシングル・ジャケットでした。あの人もロックな人なんです。野村さんから学ぶものは本当に多くて、仕事以外で自分の作品を作りたいと思うようになったのも彼がきっかけでした。

──作り込むタイプの写真家という印象があります。

打越●普段は僕が撮影前に作るラフを元にするんだけど、野村さんと仕事しているとラフもありつつ、現場で考えないとならないことが多い。すると、会話のやり取りひとつひとつがもの作りになっていくんです。それが、すごく刺激があって面白い。

──打越さんの場合、誰かから学んだというのがあまりないようでしたが……。

打越●ないですね。人からグラフィックで何かを教わったというものはない。すべて経験から得たものです。ただ、直接グラフィックには関わらないけれど、もの作りの姿勢に関しては野村さんを始め、現在一緒に作品作りをしている美術セットの巨匠・田村巧さんからの学びが多い。周りにそういう仲間が多いのは幸運です。

──学びとは、どのようなポイントですか?

打越●みなさん、基本は職人で棟梁タイプ。で、探究心が強い。こちらが面白い提案をしないと、まったく乗ってくれないんです。だから、とにかく彼らを途方に暮れさせないとならない。そういう意味では、常に緊張感を強いられています。逆に燃えてくれると、もう野放しにしちゃう。それが組み合わさったときの快感は、すごいですよ。


その世界は俺が回している



──たとえばGLAYのシングル『STAY TUNED』のジャケットは、そうしたチームで制作されたものですね。

打越●ニューヨークでロケしたのですが、行く前までに出していたラフと全然違うことになりました。やっぱり現地に行くと「せっかく来たんだから、らしいものじゃないと面白くない」と思ってしまう。現場であれこれ考えて、ニューヨークは人種が入り交じってるから、それを使わない手はないかな……と。そこで、直前になって50人エキストラを集めたり、わがまま言い放題でした。

──では、表1のサーフボードも現地調達?

打越●ええ。探してもらったら、ニューヨークに3本しかなかったんですよ。それをチャイナタウンの溶接工場に頼んで、ハドソン川の川べりに突き出すようにドーンと打ち付けて。照明も最初、下からライトを照らしていたのですが、なにか物足りない。上からの光も欲しいから「ヘリ呼んでもらえますか?」って(笑)。

──かなり大掛かりな撮影ですね。

打越●そこに双子のボディビルダーが乗って、バックにヘリのサーチライトが当たって……おかしな空間でしたね。正味三日間のロケで、全部現地手配。かわいそうだったのはコーディネイターで、毎日「ついていけません」ってチェンジしてました。




──そのチームで仕事するから、そうなってしまうのですか?

打越●いや、あれはニューヨークが狂わした(笑)。なんでもOKじゃんという雰囲気でしたから。しかもシングルのスチールだけで、予算のことは何も考えてなかったし。

──それが一番、思い出深いですか?

打越●GLAYは割と自由にやらせてもらえて、思い出深いですね。でも、野村さんと田村さんとやる仕事は、全部思い出深い。まだ見ぬ世界を見てみたいという気持ちが、みんな強くて。ちなみにGLAYはその後、本物の飛行機を使って撮影したんです。機体にビーッとテープを張って装飾したり。

──それ、CGでやったほうが簡単ですよね。

打越●そう……ですよね(笑)。でも、CGは一人の世界じゃないですか。そこに自己満足を求めるよりかは「バカでしょ?」って思われるほうがいい。みんなと作り込んで、そこから出てくる偶然のほうが俺は面白いと思うから。

──男らしい(笑)。

打越●ハハハ。うまくいったときの快感はすごいですよ。で、ふと振り返ると、その世界は俺が回しているみたいな気持ち良さがある。まるで、不思議の国のアリス状態。





GLAY『STAY TUNED』
2001年7月リリースの23thシングル。合成なしの表1ビジュアルは「錦瓊」史に残る作。
この前後、計3枚のシングルを手がけた後、アルバム『ONE LOVE』のジャケットで飛行機登場。

次週、第5話は「自分の『武器』を持つ」についてうかがいます。

(取材・文:増渕俊之 写真:栗栖誠紀)


錦瓊・打越俊明氏

[プロフィール]

うちこし・としあき●1969年東京都生まれ。高校卒業後、洋食店に就職。その後、イギリス留学、音楽事務所勤務、デザイナー・アシスタントを経て、24 歳で独立。デザイン事務所King Cay Lab.(後に「錦瓊」と表記)を設立し、数多くの音楽CDジャケットなどを手がける。現在、デザイン業と同時にアート・プロジェクト 「MIRRORBOWLER」の一員として活動中。

http://www.kingcay.com/

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