第5話 クラシックを受け継ぎ続けること | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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第5話 クラシックを受け継ぎ続けること


雑誌のほか、多くの書籍装幀を手がける白石良一氏

結局、雑誌が好きなんです


――現在、スタッフ総勢7人で、月に換算すると何ページ作ってるのですか?

白石●500ページ以上かな。丸ごと一冊の仕事しか受けてないから。

――疲れませんか?

白石●疲れますよ(笑)。

――修業時代を含めると20年近く、エディトリアル・デザインを続けてこられた秘訣は?

白石●一時期、迷ったりしましたが……結局、雑誌が好きなんですね。読むよりも作るのが好き。だって入稿から色校まで通して見てるから、雑誌が出る頃には全部読んでる。編集者だってそういうことがあると思うけれど、見本が出来上がると印刷事故がないかだけ確かめて、すぐ次の入稿……その繰り返しです。

――他の雑誌に目を通したりは?

白石●最近は見なくなりましたね。よそがなにやっていようが関係ないやって。でも、多少は洋書を買ってるから、そういうところからの吸収はあります。といっても、やっぱり60年代のアメリカの古い雑誌かな……。僕は63年生まれだから、リアルタイムに経験してないで後追いで見ているわけだけど、あの時代のアートディレクターのレベルは本当に高かったんだと思う。

――さきほど名前が挙がったブロドヴィッチとか……

白石●ハーブ・ルバリン、ポール・ランドといったニューヨークの人たち。木村さんのところが、ある意味その系譜じゃないですか。それを要求されて、さんざんやって、欧文のタイポはそこから学んだし。で、それを日本人が組んだのではなくて、向こうの人が組んだように見せないとならない。すると、過去の作品を見て覚えるしかない。その延長線上で、大概のことには対処できますから。

――逆に向こうの人から見たら、面白いことですよね。

白石●そう思います。タテ組みの記事にヨコ組みのタイトルを入れたり……。そうした実験が『Esquire』日本版だったんですね。それは木村さんの功績だと思うし、その薫陶を受けられたのは幸運でした。


各媒体のレイアウト・データが蓄積されたMO棚









白石デザイン・オフィスの一角を占める、月産500ページ超のレイアウト・データが蓄積されたMO棚。各媒体と号別に分類し、過去の記事フォーマットなどを参照する際に利用する。消費速度の速い雑誌の世界にあっても、作り手にとって「あのときの、あのページ」は重要だ


自分を鍛えるためのエディトリアル・デザイン


――今後について、どのように考えてますか?

白石●いつまで生きられるかですよね。雑誌はキリがないから。飽きられるのがいつになるのか、わからないけど……もう開き直ってる(笑)。自分の好きなスタイルでないと作れないという自覚があるし、それで世の中がいつまで生かしてくれるのか……だと思っています。

――でも、白石さんのデザインはクラシックだから、いつまでも続くと思いますが。

白石●まあ、つねに流行というものがありますから。移り気で飽きやすいムードの中、自分らしいことができるための方法で、可能な限りやろうとしてます。DTPが主流になっても、使う道具が違うといやだしね。それは、どんな職人さんとも一緒で。

――しかし、修業時代の暗室体験はレアでしたね。

白石●でも、最初からDTPから始める最近の人たちは、ちょっと不幸に思う。うちの事務所に入ってきたら、さすがに暗室はないけれど、それに近いことから始めさせてますよ。和文の文字もポイントを使わないで、いまだにQ数でやらせている。字間の詰めって、いまコンピュータでは関係ないじゃないですか。でも、一歯詰めとか平体長体指定とか、そういうところから教えているんです。

――白紙のレイアウト用紙も、媒体それぞれ作っているようですね。

白石●編集部に頼んで作ってもらってます。そこにDTP出力したものを張って、その上にトレペを上張りして指定を書いて……だから紙代やコピー代、カラープリンターの請求書はすごいことになってますよ(笑)。でもやめられない。

――最後に、これから雑誌デザインを目指す人にアドバイスを。

白石●広告の人とかも「雑誌は基本」というけれど、僕は基本以上なのではないかと思っています。個人的には、広告は雑誌で見開きを作るのと同じ感覚です。もちろん手間のかけ方やクオリティは異なりますが、それ以上にエディトリアルは一番訓練になる。食べていくには月の生産量がハンパじゃないし、当然、広告などに比べればお金にならないけれど、自分を鍛えるという部分では意味がある。きちんと修業すれば、なにが来ても大概のものが怖くなくなります。


『PLAYBOY』の他、白石デザイン・オフィスが定期で手がけている媒体群

『PLAYBOY』の他、白石デザイン・オフィスが定期で手がけている媒体群。前列左から『OCEANS』(インターナショナル・ラグジュアリー・メディア)、『華報』(高島屋ストア・マガジン/エー・ティー・エー)、『母の友』(福音館書店)、後列左から『ジェイヌード』(朝日新聞社)、『食彩浪漫』(日本放送出版協会)。この他、書籍装幀も毎月数本こなしている

「これがデザイナーへの道」第3回・白石良一さんのインタビューは今回で終了です。次週からはWebデザイナー、伊藤 優さんのお話を掲載します。

(取材・文:増渕俊之 写真:谷本 夏)



[プロフィール]

しらいし・りょういち●1963年東京都生まれ。武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科を卒業後、木村裕治氏に師事。1994年に独立、白石デザイン・オフィスを設立する。以降、雑誌『SWITCH』『avant』『monthly M』などのエディトリアル・デザインを中心に活動。現在、雑誌『PLAYBOY』『OCEANS』『母の友』、フリーペーパー『ジェイヌード』などのアート・ディレクションの他、書籍装幀を手がけている。

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