「iPadを出すアップルの真の狙い」



「iPadを出すアップルの真の狙い」

2010年3月8日

TEXT:小川 浩
(株式会社モディファイ CEO 兼クリエイティブディレクター)

ネットブック市場でのシェア奪取を視野に

米国時間の2010年3月5日、米国Apple社は、「iPad」の発売を4月3日からスタートする旨の発表をした。ただし発売されるのはWi-Fi専用モデルのみであり、3G回線対応機種は4月末に日本を含む世界同時発売となるようだ。

このiPadとはいかなる商品なのか?

一般的にはカラー液晶を備えたキンドル(Amazon.comの電子書籍リーダー)との対抗商品であるという位置づけにされていることが多いが、しかし、現実にはむしろネットブックキラー商品であると言えるだろう。もちろんキンドルの市場も食うことにはなるだろうが、Appleの狙いは低価格コンピュータ市場でのシェア向上にあると筆者は考えている。Wi-Fiモデルは499ドル(日本では5、6万円になると思われる)という価格帯だが、これはネットブックとほぼ同じカテゴリーだ。



4月末の発売が発表されたiPad
http://www.apple.com/jp/ipad/


現在のコンピュータ市場は、1000ドル以上の高級機市場と、それ以下の低価格帯市場に分類されるが、Appleは高級機市場では圧倒的なトップシェアを誇っている。低価格帯市場の中心になっているのはネットブックだが、その実は、いまだにWindows XPが主流の旧世代パソコンを“ネットブック”という(新しげな)名称に惑わせて普及させたに過ぎない。だからこそ、単に性能を犠牲にした小型機をその市場に投入してしまえば、Appleは自社のブランド価値を下げてしまう。

そこでAppleがとった戦略がiPhone OSをベースとしたiPadの投入である。しかも、自分たちではiPadに載せたOSについては何も触れていない。Mac OS Xとの関係性についても触れていない。

つまりAppleからすれば、iPadは安いMacではない。だからネットブック市場をiPadは席巻してしまうかもしれないが、Macのブランド価値は下げることがない。

筆者が以前このコラムでネットブックに関する考察を書いたように(2009年5月11日「Apple版ネットブックは登場するか」)、Appleは巧みな戦術でコンピュータ市場のシェアを奪い続けるだろう。


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[筆者プロフィール]
おがわ・ひろし●株式会社モディファイ CEO兼クリエイティブディレクター。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)、『仕事で使える!「Twitter」超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ/共著)などがある。
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