第2話 装幀と芝居の二本立て | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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様々なジャンルで活躍するデザイナーの来歴をたどるシリーズ、第5回は書籍装幀編。岡崎京子、いとうせいこう、ナンシー関など、有名作家のブックデザインを数多く手がけている坂本志保さんに話をうかがい、本への愛情たっぷりの仕事+演劇方面での活躍ぶりを振り返ってみよう。

第2話 装幀と芝居の二本立て


坂本志保さん

ゲラから浮かぶデザイン、デザインから生まれる物語


――岡崎京子さんの単行本を機に、装幀の仕事が増えて?

坂本●そうですね。ラッキーでした。でも、最初に岡崎京子さんと仕事ができたのは、すごく大きかったと思います。以降もよく装幀をさせていただいてますが、デザインにとても理解があり、一緒に相談しながら作り上げていく作家さん。考えている方向も一緒のことが多いので、仕事がやりやすいんです。

――装幀以外の仕事は?

坂本●周りに芝居関係の方が多かったので、そっち方面の仕事も同時期から始めるようになりました。最初は川勝正幸さんを経由して、ラジカル・カジベリビンバ・システムですね。86年の『未知の贈りもの』以降、何作かやらせていただいて。

――本と芝居の二本立ての仕事ですね。

坂本●はい。学生時代のサークル以降、芝居もよく観に行ってましたから、結局好きなものしかやっていないんですね。それは、いまだにそうで……。

――岡崎さんの次は、どなたの本を?

坂本●印象的だったのが、いとうせいこうさんが二作目の『ワールズ・エンド・ガーデン』の話をくださった時。直筆の原稿コピーをドサッと預かったのですが、人の目に触れる前に読めるじゃないですか。「こりゃすごいな」と興奮しました。

――装幀するときは、事前にすべて内容を読みますか?

坂本●読みます。ゲラを読まないとアイデアが浮かばない。書き下ろしの場合、デザインを先行するときもありますが、読める時は必ず。芝居の場合も、台本がある場合は読むようにしています。……とはいえ、台本がない場合が多いですが(笑)。

――芝居は遅筆な人が多いから、なさそうですね。

坂本●ええ。だから、逆に面白いこともあります。ちょっと話が飛びますが……3年前に岩松了さんの『西へゆく女』のポスターをやったとき、打ち合わせの段階でタイトルと大体の配役しか決まってなかったんです。あとは、女スパイの話ということだけ聞いてて。で、イラストレーターの木村タカヒロさんと「スパイの話なら拳銃を持たそうか」と相談して、先に絵を描いてもらってポスターを作ったんです。そうしたら、岩松さんが「ポスターで拳銃を持っていたから、人を撃つ場面作ったよ」って(笑)。

――すごい話ですね。

坂本●感動しちゃいましたね。「デザインが内容に影響することもあるのか!」って。


『西へゆく女』チラシ

岩松了 作・演出『西へゆく女』チラシ(2003年/演劇集団 円)

装幀=人との接触が一番多いデザイン


――本の話に戻りますが……その後も、ナンシー関さんや泉麻人さんなどの作家が目白押しですね。

坂本●若い頃に培った人間関係だけで仕事している感じなのですが……。著者からお話をいただいて、ずっとやらせてもらうケースが多いですね。竹中直人さんも、本、芝居、映画……と全部関わらせていただいて。

――坂本さんのテイストを気に入ってもらって、おまかせの場合も多いですか?

坂本●いや、それは人によっていろいろです。意外と私、自分のデザインはクセがないと思ってるんですよ。本の中身がアイデアを呼ぶ感じ、最初から「こうしよう」と決めてかからない。読んでいくうちに練り上げていくタイプです。

――書き文字以外でも、素材に凝りますよね。

坂本●紙フェチなんですね。だから仕様の見積もりを出すと、いつも編集者を困らせているかも。最近は賢くなって、第4候補まで挙げますが(笑)。装幀をある程度やっていると、紙屋さんが営業に来てくれるようになるんです。それから幅が広がりました。紙屋さんと印刷屋さんと話をするのが一番楽しい。

――昔から紙が好きだったのですか?

坂本●安斎さんのアシスタント時代に遡るのですが……当時『TRA』の中で安斎さんが紙で服を作ったことがあって。それから、自分でも紙の服を作って作品撮りをしていたんです。それで素材を探しに紙屋さんに行ったりしているうちに、紙が大好きになってしまった。

――自分で本を買ったり読む時も、紙の手触りを大切に?

坂本●そうそう。本が面白いのは、そこなんですよ。書店のカバーをかけなければ、手に触れたときの感触がダイレクトに伝わる。形も開いたり閉じたり、めくったり伏せたり……すごく有機的に形を変えて、デザインの中でも人との接触が一番多いですよね。

――アナログなインターフェイスが大事、と。

坂本●自分が本を読むとき、カバーをとっちゃうんですね。だから、意外と表紙に力を入れてて。オビも外してほしいという気持ちがあるから、隠れたところに仕掛けがあるとか……考えてないようで、結構考えているんですよ。


いとうせいこう『ワールズ・エンド・ガーデン』新潮社

いとうせいこう『ワールズ・エンド・ガーデン』(1991年/新潮社)
らせんの紋様がニス引きされたカバーは、手の取ったときに作品世界の“奥行き”を伝えるようだ(新潮文庫・品切れ)
次週、第3話は「装幀仕事の流れ」についてうかがいます。

(取材・文:増渕俊之 写真:栗栖誠紀)


坂本志保

[プロフィール]

さかもと・しほ●1960年、三重県生まれ。明治大学文学部独文科卒業。安斉肇氏のアシスタントを経て、85年に独立。岡崎京子、いとうせいこう、ナンシー関、竹中直人、戸梶圭太、中村うさぎなどの書籍装幀、竹中直人、吹越満をはじめとする演劇ポスターやパンフレットなどを多数手がけている。

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