第3話 装幀仕事の流れ | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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様々なジャンルで活躍するデザイナーの来歴をたどるシリーズ、第5回は書籍装幀編。岡崎京子、いとうせいこう、ナンシー関など、有名作家のブックデザインを数多く手がけている坂本志保さんに話をうかがい、本への愛情たっぷりの仕事+演劇方面での活躍ぶりを振り返ってみよう。

第3話 装幀仕事の流れ


坂本志保さん

まずは「本文組」から


――著者なり出版社からオーダーが入り、ゲラを読んだ後、どこから作業を始めるのですか?

坂本●まず、本文組ですね。最近はDTPがメインになっているけれど、やっぱり写植が好きなんですよ。だから最初に書体を決めて、1ページに何文字入るか……それは編集サイドからの要求もあるのですが。

――版型は?

坂本●単行本はサイズは決まっていることが多いですね。絵本などは、絵に合わせて変型サイズにすることもあります。

――本文量が決まると……

坂本●同時にノンブルや柱の位置です。それに一番悩みます。はっきり言って、そこに命をかけていると言っても過言じゃない(笑)。読んだ時、邪魔になるぐらいデザインされている本文組が嫌いなんですよ。一番難しいのは、デザインが目立ってはいけないということ。やっぱり、読みやすいのが前提ですから。

――天地の余白、小口やノドの空きなど、版面も関わってきますね。

坂本●一時、血迷って小口と本文の間を5mmにしようかと(笑)。若気の至りですね。手で本文が隠れちゃって、すごく読みにくい。いまは読みやすいけれど、ちょこっとポイントがある感じの本文組を目指してます。二回目に読んで、ようやく「ん?」と気づくような、デザインされてないようでされている微妙な感じですね。

――書体については?

坂本●やっぱり本は文字を読むものなので、漢字とひらがなのバランスがきれいじゃないとダメ。その点でDTPの書体には抵抗感があって……指定できるときは、印刷会社を指定しています。ある会社の写植が好きで、そこの写植の「な」とか「ふ」がうっとりするぐらい美しいんですよ。

――昔の活版っぽいですね。

坂本●そう。でも先日、編集の人とそういう話をしてたら、いまの若い読者はこういう書体は逆にパラパラ見えてダメなんだ……みたいな話があって。ちょっと複雑な気分になりましたが。でも本の中身にすぐ入り込めるような、なるべくオーソドックスな書体のほうがいいと思ってます。


いとうせいこう『職人ワザ!』(新潮社)

いとうせいこう『職人ワザ!』(2005年/新潮社)
雑誌『考える人』連載中からのイラストレーター、白根ゆたんぽ氏による装画。複数の書体を組み合わせたタイポにも“頑固な職人”らしさを演出する

仕様の「折り合い」を模索する


――本文組が決まったあとは?

坂本●大体は、章扉や目次など、中面から手をつけます。中を固めていきながら、同時に外側を考えています。ちなみに去年手がけたいとうせいこうさんの『職人ワザ!』は、その名もズバリなので頑固な職人の絵があって、こっちも「ちょっと職人技を出したほうがいいかな」って(笑)。シルク印刷は手作り感があるので、それでいこうと。題字はクラシックで、なおかつひとクセある感じ、とか。

――用紙も同時に?

坂本●ラフを考えるときに、紙と印刷方法も浮かんできます。でも仕様案を編集者に出して「定価が上がる」と言われたら引きます。読者が欲しいのは中身。デザインで値段を上げるのは抵抗があって、ならば紙を変えるとか、刷り色を削ったり……一番の要だけ残して、再度検討してもらいます。

――プラスマイナスで収拾させよう、と。

坂本●そうですね。カバーと共紙でオビを刷るとか、別丁扉も見返しに刷るとか……節約方法がありますから。とにかくデザインのキモだけ押さえちゃえば、あとはちょっとずつ妥協しながら着地点を模索して。

――でも、坂本さんの場合、エンボスなど特殊仕様も多いのでは?

坂本●経験的に、いい編集者は通してくれる(笑)。

――ハハハ。

坂本●あと、工場に行くのが好きなんです。ポスターとかで色校がうまく出ないときは、印刷所が埼玉ぐらいだったら行っちゃいます。で、工場に行くと職人の方がいろんな技法を教えてくれて「なるほど」って。ちなみにホットスタンプや箔は、3年前に知り合った箔押し屋さんが都内にあるのですが、出版社などが指定していいと言ったらそこに頼んで、立ち会いに行く。職人さんが色々教えてくれて、そういう現場を知るとますます挑戦したくなるんですね。

――で、ますます編集者を困らせたり?

坂本●いや、基本的に書籍の編集の方々は本に愛があるんですよ。担当したものをいい本にしたいと思っているから、余程のことがないかぎり折り合うところを見つけてくれる。だから、仕事が面白い。そのせいか、以前と比べて仕事に対するストレスを感じなくなりましたね。


鳩山郁子『ミカセ』(青林工藝社)

鳩山郁子『ミカセ』(2004年/青林工藝社)
インタビュー中に触れた箔押し屋さんとの仕事。クリア箔を使ったもので、型押しされたツタの葉が虹色に透けて見える非常に繊細な仕上がりだ
次週、第4話は「一人でやれる範囲でいい」についてうかがいます。

(取材・文:増渕俊之 写真:栗栖誠紀)


坂本志保

[プロフィール]

さかもと・しほ●1960年、三重県生まれ。明治大学文学部独文科卒業。安斉肇氏のアシスタントを経て、85年に独立。岡崎京子、いとうせいこう、ナンシー関、竹中直人、戸梶圭太、中村うさぎなどの書籍装幀、竹中直人、吹越満をはじめとする演劇ポスターやパンフレットなどを多数手がけている。

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