第4話 一人でやれる範囲でいい | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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様々なジャンルで活躍するデザイナーの来歴をたどるシリーズ、第5回は書籍装幀編。岡崎京子、いとうせいこう、ナンシー関など、有名作家のブックデザインを数多く手がけている坂本志保さんに話をうかがい、本への愛情たっぷりの仕事+演劇方面での活躍ぶりを振り返ってみよう。

第4話 一人でやれる範囲でいい


坂本志保さん

画面上ではバランスがとれない


――DTPを導入した時期は?

坂本●1999年ですね。装幀では不便を感じてなかったもので。でも、他の仕事のとき、担当者に「Macじゃないんですか?」と、すごく呆れられたんです。それがくやしくて(笑)一式買いました。しばらくは置いてあるだけでしたけど。

――切り替えはスムーズに?

坂本●一瞬、デザイナーを辞めようと思いました(笑)。それまで手で切ったり張ったりしていた作業が画面上のものになって、どうも慣れなくて……。最初の頃はデータで作ったものを出力して、版下にしてからトレペを張って入稿してました。

――そういう人、意外に多いですよ。

坂本●あ、ほんとに。でも装幀の場合、本文は全部DTPというわけではなく、文字ものは指定入稿のことが多いですね。全ページデザインの時は、InDesignを使ってます。

――書き文字は?

坂本●最初に手で書いて、整えたものを取り込んでから修正します。あと、逆に写植を取り込んで削ったり足したり。そういうとき、Illustratorは便利だと思いますが……。どうも私、画面上ではバランスがとれないんです。書き文字のバランスだけは直にやらないとダメ。

――感覚的なものがあるのでしょうね。

本●ええ。たぶん一生抜けない。もうちょっと遅く生まれてDTPしかなかったら、デザイナーになっていない自信はあります(笑)。


内田樹『子どもは判ってくれない』(洋泉社)
内田樹『子どもは判ってくれない』(2003年/洋泉社)の装幀。単行本では思想書の雰囲気を持たせ、映画『大人は判ってくれない』のタイポグラフィをモチーフとしている

内田樹『子どもは判ってくれない』(文春文庫)










同書文庫版(文春文庫)ではエッセイ集に近い感覚で、映画『大人は判ってくれない』のシーンをモチーフとしている。イラストは安斎肇氏

このままの感じで行ければいいな


――最初、編集者になりたかったと言ってましたが、いま装幀の仕事に携わるのは同じ感覚がありますか?

坂本●同じというのではないですが、好きなものだからこそ、編集者と一緒に作り上げていくという気持ちが大事になっていると思います。

――文庫の装幀も多いですね。

坂本●文庫は各社フォーマットが決まっているからカバーは表1だけですが、シリーズものが多いから結構面白いですよ。たとえばナンシー関さんは、角川文庫と文春文庫のふたつのシリーズを違う考え方でやってます。角川のほうは毎回、似顔絵を大きくして顔に特色を使う。あと、いつも別丁で工作ページをつけているんです。

――文庫でも、そうした遊び心があると楽しいですね。

坂本●毎回、一所懸命アイデアを考えているから、誰か作ってくれているといいのですが……。文春のほうは単行本の流れを引き継いで、シンプルなデザインで統一してます。


ナンシー関『何が何だか』(角川文庫)
ナンシー関・角川文庫シリーズより『何が何だか』。消しゴム版画の似顔絵と特色の取り合わせが、迫力ありつつクラシカル

ナンシー関『雨天順延 テレビ消灯時間5』(文春文庫)










ナンシー関・文春文庫シリーズより『雨天順延 テレビ消灯時間5』。オーソドックスで飽きのこないシンプルさ


――坂本さんの個人的な書棚を見ると貴重な洋書が多いですが、ヨーロッパっぽいテイストがお好きなようですね。

坂本●あ、それはアメリカが嫌いなだけ(笑)。大学の卒論のテーマがダダイズムだったんですよ。だからロシア構成主義とか、結構そのへんから離れられない。若い頃に見たものは強烈ですからね。でも最近は、昔ほど美術書やデザイン本を買わなくなりました。それよりは、自分が読むものを仕事と関係なく買うことが多い。時代小説の文庫とかよく買うんですよ。でも、読む時カバーを捨てちゃう。装幀家にあるまじき行為ですね(笑)。

――ちなみに、いま音楽CDなどの仕事は?

坂本●20代の頃、本と芝居以外の仕事を受けないようにしようと決心した時期がありました。思ったことをすぐ口に出しちゃう性格で、みんなにまた言ってしまって……。今は知り合いとかに頼まれたときにやるくらいですね。

――初めて手がけた装幀から20年、いまの状況はどうですか?

坂本●その“やらない宣言”を機に「このままな感じで行ければいいな」という思いでいます。同時に「私はこれをやりたいけどできない、プー!」というのもなくなった。取り巻く状況がよかったせいもありますが。それで、ここまでやってこれてますからね。

――忙しすぎず、ヒマすぎず?

坂本●そうですね。一人でやれる範囲がいいかなって。

次週、第5話は「やりたいことは口に出そう」についてうかがいます。

(取材・文:増渕俊之 写真:栗栖誠紀)


坂本志保

[プロフィール]

さかもと・しほ●1960年、三重県生まれ。明治大学文学部独文科卒業。安斉肇氏のアシスタントを経て、85年に独立。岡崎京子、いとうせいこう、ナンシー関、竹中直人、戸梶圭太、中村うさぎなどの書籍装幀、竹中直人、吹越満をはじめとする演劇ポスターやパンフレットなどを多数手がけている。

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