第5話 やりたいことは口に出そう | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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様々なジャンルで活躍するデザイナーの来歴をたどるシリーズ、第5回は書籍装幀編。岡崎京子、いとうせいこう、ナンシー関など、有名作家のブックデザインを数多く手がけている坂本志保さんに話をうかがい、本への愛情たっぷりの仕事+演劇方面での活躍ぶりを振り返ってみよう。

第5話 やりたいことは口に出そう


坂本志保さん

デザインに「正しい、正しくない」はない


――演劇の仕事ではポスター、チラシが中心ですが、パンフレットもよく手がけていますね?

坂本●最初に携わったラジカル・カジベリビンバ・システムがパンフに力を入れてて、その頃の経験がいまに繋がっています。芝居の場合、予算的に厳しいこともありますが、その予算範囲内では、自由度が高い。大枠の予算をオーバーしないかぎりは、一般書籍と異なる仕様の冒険ができるから楽しいですね。


ラジカル・ガジベリビンバ・システム『亜熱帯の人』パンフレット
ラジカル・ガジベリビンバ・システム VOL.12
『亜熱帯の人』パンフレット(1987年)
師匠・安斎肇氏に「棺桶に納められる作品ができたじゃん」と褒められたそうだ








――もし、予算はオーバーするけれど「どうしてもこれはやりたい!」という場合は?

坂本●本の定価と一緒で、無理は言いませんよ。……あ、でもずいぶん前、予算ではなくて技術的なことで、写真の粒子を荒らして、その粒子ひと粒ずつエンボスをやろうとして。印刷屋さんが「できない」って言うから「失敗したら金型代ぐらいは出すからやって」と頼んだことがありました。

――侠気ありますね(笑)。

坂本●結局、無事できましたけどね。

――現在、仕事はどれぐらいのペースですか?
坂本●年によって色々なんですが、今年後半は演劇関係が多いですね。秋にケラリーノ・サンドロヴィッチさん演出の『漂う電球』で、芝居と書籍を同時にできたのがうれしかった。白根ゆたんぽさんに両方イラストお願いして。

『ウディ・アレンの漂う電球』(白水社)
『ウディ・アレンの漂う電球』
(白水社/2006年)
原作の脚本集。装画は白根ゆたんぽ氏

『漂う電球』公演パンフレット(オリガト・プラスティコ)












同舞台版の公演パンフレット
(オリガト・プラスティコ/2006年)
出演者紹介、解説の他、付録など豪華作

??あるいは宮崎吐夢さんのDVDブックのように、坂本さんの中の「好きなもの」が合体して提示できるような仕事もありますね。

坂本●だから、本と芝居だけということでもないんです。竹中さんの映画なら、ポスターからDVDパッケージまでやってますし。結局、どんなジャンルでもよい仕事というのって作家とか担当者と方向性が合った時に生まれる。デザインって、“正しい正しくない”がないと思うんです。好きか嫌いか、合うか合わないか……になる。だからこそ、意思の疎通を一番大事にしてる部分があります。


宮崎吐夢『今夜で店じまい』(講談社)
宮崎吐夢『今夜で店じまい』
(講談社/2004年)
マッチ箱を模したボックス仕様のDVDブック

竹中直人監督作品『サヨナラCOLOR』(ハピネット・ピクチャーズ)










竹中直人監督作品『サヨナラCOLOR』
(ハピネット・ピクチャーズ/2004年)
映画のDVDパッケージ。レンチキュラの3Dボックス仕様

装幀は“家”に近い


――これから装幀を目指す人にアドバイスを。

坂本●私にされても困るでしょうが(笑)……本が好きだったら、できると思う。あと、とにかく人に言うことですね。やりたいことは口に出したほうがいい。そうしたら意外と実現するものなんですよ。

――平面的なデザインだけではなく、触感や立体物としての存在感など、総合的なものを求められますよね?

坂本●そうですね。だから “家”に近い。帯が門で、カバーという全体の外観があって、表紙は家本体で。別丁扉の玄関を入って、本文組が暮らしやすくて使い勝手がいい住まいの内部……という感じ。

――バランス感覚も必要?

坂本●もちろん必要だと思います。でも、自分の考えるバランスと他人のバランスの感覚が同じだとも言えない。そのへんが難しいというか出会いというか……自分がしっくりくると思う“家”を、同じように住みやすいと感じてくれる人たちと一緒に作っていくもの。そういう意味では、オーダー建築と似ているのかも。そこに住む人を考えることです。

――キャリアを積まないと、なかなか難しいかもしれませんね。

坂本●でも、何事も好きだったら大丈夫。好きが一番。キャリアとか余り関係ないですよ。あとは他力本願ですが、好きなことができるように才能がある人を周りに作ることかな(笑)。

――交友関係も大切だ、と。

坂本●それはどんなジャンルのデザインも一緒ですが、イラストレーターや写真家とも連携しなくてはならないし。いろんな人と出会うことですね。私の場合、若い頃に知り合った方々から広がって仕事が成り立っているし。面白い人は面白い人と仲間だったりするから、面白い仕事をこれまで続けてこられたと思っています。


竹中直人の匙かげん2『そう。』チラシ
坂本さんが手がけた最新の演劇仕事・その1
竹中直人の匙かげん2『そう。』チラシ

フキコシ・ソロ・アクト・ライヴ『X V I I I』ポスター










最新の演劇仕事・その2
フキコシ・ソロ・アクト・ライヴ
『X V I I I』ポスター

「これがデザイナーへの道」第5回・坂本志保さんのインタビューは今回で終了です。次週からはサイレントグラフィックスのお話を掲載します。

(取材・文:増渕俊之 写真:栗栖誠紀)


坂本志保

[プロフィール]

さかもと・しほ●1960年、三重県生まれ。明治大学文学部独文科卒業。安斉肇氏のアシスタントを経て、85年に独立。岡崎京子、いとうせいこう、ナンシー関、竹中直人、戸梶圭太、中村うさぎなどの書籍装幀、竹中直人、吹越満をはじめとする演劇ポスターやパンフレットなどを多数手がけている。

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