第1話 大学受験に失敗、専門学校へ | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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様々なジャンルで活躍するデザイナーの来歴をたどるシリーズ。今回はグラフィックデザイナーの仕事と並行しながら、文筆家としても多数の著作を発表している素樹文生さんを取材し、今日までの紆余曲折な足跡をたどります


第1話 大学受験に失敗、専門学校へ



素樹文生さん

ブックデザインも手がけた自著『クミコハウス』を手に、素樹文生さん


とにかく手に職をつけたかった



──そもそも、デザイナーになろうと思ったきっかけは?

素樹●大学受験に失敗して、どうやって食べていこうか考えたときですね。家のトラブルとかもあって、全然勉強するような状態ではなかったんです。で、どうしようか……と浪人の間、ずっと考えて。もう一流企業に入る道がほとんどなくなるから、とにかく手に職をつけないとならない。でも、クリエイティブなことをやりたいとは思っていました。

──どんなことを?

素樹●まず最初に写真をやろうとして、知り合いのカメラマンのアシスタントをちょっと経験しました。だけど、カメラマンの世界は厳しい。まだ上下関係みたいなものが激しい頃で、アシスタントは給料もない状態で踏んだり蹴ったり。こういう世界で自分はやっていけないんじゃないか……と。早くフリーになれたらいいんだけど、それまでに持ちこたえられそうになかった。

──もともと何か表現するのは好きだったのですか?

素樹●ええ。掘り下げると音楽ですね。家の近所にあった音大の幼稚園に通ってて、木琴とか他の子に比べてうまかったらしいんです。自分が褒められた最初の思い出が木琴ですよ(笑)。で、この子は音感があると親がピアノをやらせたら、また先生が褒める。絶対音感があるんですね。その後、物心ついてからバンドをやったりしてたんだけど……やっぱり作曲するとなると、全然できないことに気づいて。

──プレイヤーとしては?

素樹●そっちもダメ。練習を真面目にやらないから、よく「もったいない」と言われてました。高校の部活もブラバンで、指揮とかまとめる役をやっていたんです。でも、プロとは全然かけ離れているから……。で、卒業後は音楽以外のことをやろうと。

──美術的なことは?

素樹●そっちは何にもなかった。ただ、自分で撮った写真を組み合わせたり、そこに文字を入れたりするのが好きだったんです。高校時代、ちゃんと美大とかを調べてデザイナーのことをよく知っていれば、その方面の進路に向かうこともあったかもしれないけど……そういうのが全然なかったから、普通高校から普通大学の受験に失敗して挫折を味わっちゃったんですね。

──カメラマンをあきらめた後は?

素樹●結局、お茶の水美術専門学校に入りました。そこはブラバンの友人が先に通っていたところなんです。で、課題の作品とかを見るじゃないですか。ロットリングで線を引いたり、素材を貼り付けたり、シルクスクリーンで名刺を作ったり……そういうものも見せられて「毎日こんなことやってるの? 面白いじゃん!」って。

──そこで目覚めた、と。

素樹●いまならDTPで簡単なんだけど、当時は「すごい!」って。


『イケナイ宝箱〜ようこそ鬱の世界へ』『ストロベリーショート』
素樹さんの著作より
左:『イケナイ宝箱〜ようこそ鬱の世界へ』
(アメーバブックス/2006年)
アジア放浪の紀行文で作家稼業を始めて10余年。内なる過去へと“旅”し、10代の鬱体験を赤裸々に綴った一冊。祖父江慎氏によるディープな装幀も一見
右:『ストロベリーショート』(メディアファクトリー/2006年)
雑誌『ダ・ヴィンチ』に連載されたショートショート小説集。イラストは長崎訓子さん、装幀=木庭貴信氏


デザインはアートと違う


──学校での専攻はグラフィック?

素樹●ええ。入学した後、プロダクトとテキスタイルとグラフィックに分かれて、自分に合ったものを選ぶ。最初はプロダクトも気になっていたのですが、就職のことを考えるとグラフィックだろうなと。

──そこで基礎を叩き込まれて?

素樹●うーん……基礎なのかな? やっぱり学校だから実践とは違う。先生も第一線のプロというより芸術肌だったし。たとえば何かのパッケージを作ろうという授業でも、そのデザインがカッコいいか、カッコ悪いかだけで、商品として際立たせないとならないデザインは何か?……というような、実践に大事なことは教えてくれなかったから。

──でも勉強しているうちに、デザイン方面で食べていこうと決めて?

素樹●うん。だって、もう就職しないとダメだったし。割と成績はよかったんです。結局、真似したりするのがウマイのね。どこかから素材を引っ張ってきて、自分のオリジナルではないんだけど“形にしちゃう。だから、その頃から「デザインはアートと違う」と気づいてました。でも、気づいてない人が一杯いるわけじゃないですか。

──当時は、どんなテイストが好きでした?

素樹●誰それのデザイン……というのはなくて、アメリカン・デザインが好きだった。何か作品を作るとき、英語のフォントが見出しでバーンと入ると見栄えがいいじゃないですか。日本語だとカッコ悪いから、とにかく書体見本帳から英語のタイポを拾って。で、その頃の作品がこのタバコのパッケージ↓。


架空のタバコ・パッケージ 専門学生時代の作品より、
架空のタバコ「49er's」のパッケージ。
学校のオフセット台を使用して、
かなり本気で作っている“課題”だ。
フツーに本物に見える……ということがコンセプト?
技法面では“実践”を学んでいた証。


で、こういうものをいまも大切に取っておく気持ち、わかります。

素樹●……もろアメリカンでしょ? 印紙は現物をそのまま貼って、絵はいろんな素材を組み合わせて筆を加えたり。で、最後に実際に組み立てて、はがした外装ビニールを巻いて「はい、オリジナルのタバコです」って(笑)。

──ハハハ。いかにも課題制作っぽいですね。

素樹●うん。そういうほうが完成度が高いから、受けがいいんだよね。

次週、第2話は「就職、転職、そして旅へ」を掲載します。

(取材・文:増渕俊之 写真:FuGee)

素樹文生さん

[プロフィール]

もとぎ・ふみお●1964年、ニューヨーク生まれ。制作プロダクション〜広告代理店勤務を経て、アジア放浪の旅へ。95年、その体験を綴った『上海の西、デリーの東』で作家デビュー。その後も紀行文、エッセイ、小説など、文筆家として著書を発表するとともに、グラフィックデザイナーとしての仕事も継続している。現在、有限会社Headroomに在籍。また近年、ゴルフの世界にのめり込み、雑誌連載とブログで活躍中




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