第9回 Webマスターと社内の関係 | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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WEBディレクションの極意


文=島元大輔文=島元大輔
大阪のWeb制作会社でWebディレクターとして活躍後、(株)キノトロープに入社。数多くの企業Webサイト構築プロジェクトにかかわる。その後、 (株)ライブドアに入社、現在は(株)
セシールに在籍。著書として「だから、Webディレクターはやめられない」(ソシム刊)。 url.blog-project.cecile.co.jp/



第9回
Webマスターと社内の関係

企業のWebサイトを構築するとき、制作から運用までさまざまな人物がかかわる。その中で、企業側のネット担当者をWebマスターという。ここではWebマスターの立場からWebディレクションに焦点を当てて、Webプロジェクトをスムーズに進めるための方法論を解説していこう。制作会社という受注側の立場も経験し、現在はWebマスターという立場で業務を行っている筆者ならではの見解を述べていく。


Webマスター × 社内

Webのプロジェクトを推進するとき、大きな障害となり得るのが実は社内の人間である。筆者のこれまでの経験からも、「敵は内側に居た!」というオチは数多くある。

現在、筆者は発注側に立つ人間であるが、なぜそういったことが起こり得るのか、どうすればそれは回避できるのかをこれまでの経験を交えて解説していきたい。

社内とは?

「社内」とはだれを指すのかというと、クライアントといわれる発注側の社内の人間のことである。

Webプロジェクトを推進する際、その会社の窓口を、Web事業部が存在する会社の場合はその事業部の人間が担う。会社によっては、Web事業部が存在しないため、マーケティング部、広報部、システム部の人間がそれらを兼務していることも少なくない。たとえWeb事業部があったとしても、企業のWebサイトはその企業の顔となるため、かかわってくる部署は多い。

たとえば、営業を担当している部署、広報を担当している部署、商品開発を行っている部署、経営企画活動を行っている部署、環境活動を行っている部署、サポート業務を行っている部署など、これらすべての部署がWebを活用し得る立場にある。ここでは、こうした社内の各部署を総称して「社内」と呼び、説明を進めることとする。

なぜ、社内が障害となるのか?

社内の人間が障害となる理由として、次の3つが考えられる【1】。

【1】社内が障害となり得る原因
【1】社内が障害となり得る原因

1.全社におけるWebへの理解度が低い
世間では毎日のようにインターネットビジネス関連の派手なニュースが飛び込んでくる。しかし、インターネットをビジネスにすることはそう簡単ではない。成功している企業はほんの一部だ。一方的に、テレビや新聞、雑誌、ラジオなど、既存のメディアはもうダメでこれからはインターネットだという見解は大きなまちがいである。周知のようにメディアごとに向き不向きがあるため、それぞれの特長を知り、各メディアに合った施策を展開していくことが重要である。

もし、社内に「ネット以外はダメだ」という短絡的な考え方があるのだとすれば、非常に危険なことである。この意識を変革する必要があるだろう。

2.かかわる部署が多い
先にも説明したように、企業のWebサイトにかかわる部署は非常に多い。それぞれの部署がWebを使って目的を達成しようと考えるが、各部署の目指す方向が異なるため、それらを調整するには窓口となるWeb事業部の負担が非常に大きくなる。

企業としてWebサイトをどのような方針で構築・運営していくのか、という明確な方向性を打ち出し、各部署の調整を図ることが必要である。

3.Web事業部(担当者)の権限が弱い
Webに対する周りの理解度が低い中、かかわる部署も多く、やるべきことはたくさんあるWeb事業部(担当者)だが、その人数は限られていることが多い。それに加えて大きな問題として挙げられるのが、Web事業部(担当者)の権限が弱いということである。責任と権限はセットだと言われるが、企業のWeb担当者の場合、責任だけは多くあるのに権限はあまりないという状況がよく見られる。企業のWebに対する意識がまだまだ低いということは否めない事実である。

Webマスターとしてできること

社内のWebサイトに問題があるとすれば、それを解決できるのはWebマスターだ。もちろん、一人で解決できないこともあるだろう。必要に応じて外部の力を借りることも考えられる。ここでは、Webマスターが社内の問題に対してどのように対処すれば、いい方向へ向かっていけるのかを提案してみたい【2】。

【2】Webマスターとしてできること
【2】Webマスターとしてできること

1.実績を示す
やはり、インターネットに対する意識が低い中であれをやりたい、これをやろうといっても理解を得られないことは明白である。どれだけ小さなことでもかまわないから実績を示すことがいちばんの方法だろう。しかし、人数も予算も限られた中で実績を示すにはどうすればいいのだろうか。

筆者はブログを書くことをお勧めしたい。ブログであれば無料でつくれるし、ある程度のログも見ることができる。たとえば、毎日記事を書き続けて、まったくゼロの状況からアクセス数を稼ぐことや、検索エンジンで特定のキーワードからアクセスされる状況を見せるだけでも、インターネットの力を理解してもらえるのではないだろうか。地道ではあるが、ふだんから社内でインターネットについての知識を普及し続けることが重要である。

2.他社の事例を示す
これは、自分の首を絞めることにもなりかねないのだが、インターネットに対する意識を少しでも高めてもらうために、インターネットを活用して成功している他の会社の事例を紹介することも忘れてはならない。できれば同業他社がいいだろう。しかし、期待ばかりが先行しないように気をつけなければならない。

3.外部の力を借りる
インターネットなどの専門的な知識は、社内の人間があれこれ言うよりも社外の人間の発言のほうが説得力をもつ場合がある。場合によっては、Web制作会社などの外部の力を借りることも選択肢のひとつだろう。お金がかかることを懸念されるかもしれないが、やりたいことが明確であれば、初期提案の範囲内でプレゼンテーションまでを行ってくれるところもあるので、そういった会社を選定するといいだろう。その際に気をつけなければいけないのがWeb担当者の意思である。外部業者へ丸投げするのではなく、明確な意思をもったうえで外部に手伝ってもらうという姿勢が大切だ。


社内の人たちのホンネ

次に、社内の人たちのホンネについて考えてみよう。現在、発注側の企業に在籍している筆者が、Webマスターとして感じ取れる社内の人間の気持ちを挙げてみる【3】。

【3】Webマスターと社内の人たちのホンネ
【3】Webマスターと社内の人たちのホンネ

インターネットはスゴイらしいが……

正直に言うと、社内のインターネットに対するリテラシーはバラバラである。たとえば、会社を挙げてインターネット戦略に取り組んでいないところであっても、リテラシーの高い社員はたくさんいるし、その逆もしかり。ふだんから個人でインターネットに接し、ブログやアフィリエイトの活動を行っている人などはリテラシーが高く、問題がないのだが、年齢が上がるに従い(あるいは、地位が上がるに従い)、リテラシーは下がる傾向にある。ただし、それらのリテラシーが低い人であっても、インターネットは便利“らしい”、スゴイことができる“らしい”というのは理解されているようだ。

何もしてくれない

毎日のように報道されるインターネットに関するニュースに接していると、そこから得た情報を踏まえて、自身の会社にも導入すればいいのに……という気持ちをもつ人が実は多い。しかし、インターネットのことはあまり詳しくないし、果たして自分の会社で実際に導入できるかどうかはわからないと感じている。Webマスターとしては、そういった社内の意見をできるだけ吸い上げ、実現可能かどうかを模索することが重要だ。

もっとこうしたらいいのに……

「Webマスターは難しい話ばかりして、自分たちにとって有益なものなのに思いどおりに動いてくれない」「ある提案をしてもなかなか受け入れてもらえない」「提案が受け入れられたとしても違った形で採用され、満足のいく結果が得られない」というような意見が耳に入ることもあるだろう。これはコミュニケーション不足が原因であることが多いが、企業のWebサイトが複数の部署にかかわる以上、一部署の言うことばかり聞いていられないのも事実だ。その場合、現状を伝えたうえで優先順位をつけながらWebプロジェクトを進める必要がある。


以上、Webマスターの社内における立場と役割を書いてきたが、まだWebマスターの地位が低く、責任と権限のバランスがとれていない企業も多い。しかし、その状況に悲観的になっても何も変わらない。Webマスターになった以上、その状況を少しでも改善しようとする働きかけが重要なのではないだろうか。


本記事は『Web STRATEGY』2007年5-6 vol.9からの転載です
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