WEBディレクションの極意
文=島元大輔
大阪のWeb制作会社でWebディレクターとして活躍後、(株)キノトロープに入社。数多くの企業Webサイト構築プロジェクトにかかわる。その後、 (株)ライブドアに入社、現在は(株)セシールに在籍。著書として「だから、Webディレクターはやめられない」(ソシム刊)。 url.blog-project.cecile.co.jp/
第10回
Webマスターとエンドユーザーの関係
企業のWebサイトを構築するとき、制作から運用までさまざまな人物がかかわる。その中で、企業側のネット担当者をWebマスターという。ここではWebマスターの立場からWebディレクションに焦点を当てて、Webプロジェクトをスムーズに進めるための方法論を解説していこう。制作会社という受注側の立場も経験し、現在はWebマスターという立場で業務を行っている筆者ならではの見解を述べていく。
■Webマスター × エンドユーザー
エンドユーザーとは?
「エンドユーザー」とはだれを指すのか。ここでいうエンドユーザーとは、Webマスターが運営するクライアント企業のお客さまのことである。正確に言うと、そのWebサイトを使うお客さまだ。当然、クライアント企業によってお客さまは異なってくるが、大きくは対企業(BtoB)、対個人(BtoC)で分けると考えやすいだろう。ECサイトであれば、その商品を買おうとする個人のお客さまがそれに当たり、法人向けサービスを提供するサイトであれば、それに問い合わせをする法人企業がエンドユーザーとなる。
これら、Webサイトを利用するであろうすべてのお客さまのことを「エンドユーザー」と呼び、説明を進めていく。
Webマスターにとって、Web制作会社、システムベンダー、広告代理店、社内などとの関係も非常に重要ではあるが、すべてはこのエンドユーザーに対して最適なサービスを提供するために行っているプロセスにすぎない。Webサイトを構築する目的は、エンドユーザーにどれだけ最適なサービスを提供できるかであり、そこからいかに自身(の会社)に利益をもたらすことができるかである。
そういった面からも、エンドユーザーとの関係はより重要だといえる。
Webマスターとして犯しがちなミス
エンドユーザーに目を向けることが大切なのはおわかりいただけたと思うが、筆者の経験上、Webサイトのプロジェクトがうまくいかない原因に以下のようなことが挙げられる。
1.Webマスター(発注側)が社内(上司)を見すぎている
Webマスターは、自分の上司や周りの人間に最低限の報告や承認を行いながらプロジェクトを進めていかなければならない。しかし周りを気にするあまり、プロジェクトの進捗が遅れ、最後には妥協の産物になってしまうケースがある。
これはWebマスターがある程度の裁量権をもっていなければ難しい問題で、企業によっては役職の位が上がるほど、ITに対する知識が少なく、今やっていることがなかなか理解されないということもあるだろう。しかし、ここは思いきってWebマスターの裁量に任せてもらい、プロジェクトを推進してみてほしい。
その際、受注先のWebディレクターには状況を理解してもらうと同時に、全面的なフォローをお願いすることでお互いの信頼関係を構築することができる。
2.Webマスター(発注側)が予算を削りすぎている
予算とスケジュールのないプロジェクトはない。限られた条件の中でどこまで効果的なアウトプットができるかが、WebマスターやWebディレクター、そのほか制作にかかわる人たちの力量ともいえる。ただ、その場合にも限度はあり、特に予算が削られすぎるとプロジェクトを動かせなくなるということもあるので気をつけたい。
重要なのは、最初のプランニングの段階で、予算、スケジュールとともに無理のない実現可能なプランを立てることだ。
3.Webディレクター(受注側)のスキル不足
プロジェクトがうまくいかない原因としてWebディレクターのスキル不足が指摘されることは多い。スキル不足の内容はさまざまだが、今回のテーマに沿っていえば、Webディレクター(受注側)がWebマスター(発注側)に偏った考え方をしてしまう場合と、逆にエンドユーザー側に偏った考え方をしてしまう場合の2パターンが挙げられる。いずれか極端な考え方をすると、プロジェクトはうまくいかない。よりバランス感覚に優れたWebマスターほど、プロジェクトを成功に導くのである。
Webマスターが行うべきこと
Webマスターがエンドユーザーに対して最適なサービスを提供しようとした場合、どのようなことに気をつけてプロジェクトを進めればよいかを解説しよう。
1.エンドユーザーは“だれか”を確認する
Webサイトを使う人はだれかを知ることから始める。これは、すでにWebサイトを利用している人、または利用してほしい人ということである。
すでにWebサイトを利用している人については、アクセスログから「サイト内検索ワード」「コンテンツごとの訪問者数」などを分析すれば、どのようなことを求めているかがわかる。
これからWebサイトを利用してほしい人については、想定するターゲットに対して「キーワードアドバイスツール」や「ブログ検索」などを使い、その人たちがどういった意識でいるかを知る必要がある。それらを知ったうえで、新たな客層を広げるためにプロモーションやコンテンツ制作を行うのである。
2.エンドユーザー像をプロジェクトメンバーで共有する
Webマスターとしてやらなければならないのは、エンドユーザー像をプロジェクトメンバーと共有することだ。この共有というプロセスは重要なのだが、意外にできていないことが多い。プロジェクトにかかわるメンバーが複数いると、それぞれが心の中で何となく感じていることは当然異なる。せっかくWebマスターがエンドユーザーがだれかを理解していても、それがメンバーに浸透していなければプロジェクトはうまくいかない。
Webマスターは、戦略を立てるスキルの高さだけでなく、それをメンバーと共有するためのプレゼンテーション能力も非常に問われるのである。
3.エンドユーザーに提供すべき事項をピックアップする
エンドユーザー像が明確になったら、次にどういったサービスやコンテンツを提供すべきかを考えなければならない。
ECサイトであれば、商品説明ページが最低限必要で、そこに至るまでの導線設計も行う必要がある。メーカーの場合、分析の結果、商品情報よりもサポートのほうを求められることもある。コールセンターにかかってくる問い合わせ内容を調査し、上位のものをWebサイトに掲載することも必要だろう。ユーザーのニーズを洗い出し、その問題を解決できるコンテンツをリスト化してみよう。
先述したようにプロジェクトにはスケジュールと予算がつきものであるから、それらリストに優先順位をつけて何を優先すべきかを決定、共有することも忘れてはならない。
■エンドユーザーの気持ち
信頼できる情報を知りたい
ここでエンドユーザーの気持ちを検証してみよう【1】。
【1】Webマスターとエンドユーザーの気持ち
WebマスターであれWebディレクターであれ、Webサイト構築にかかわる人もふだんはエンドユーザー側にいる。しかし、サービスを提供する側に立つとその純粋なエンドユーザーとしての気持ちは忘れてしまいがちだ。
クチコミサイトがはやっているが、そこにはエンドユーザーの「信頼できる情報を知りたい」という気持ちが反映している。クチコミ情報に少しでも企業の意向が見えたらエンドユーザーの気持ちは一気に覚めてしまうだろう。サービスを提供する側としてはさまざまな事情があるが、まず、ふだんのエンドユーザーとしての気持ちで物事を考え、そのうえで企画を立案することが重要である。
正しい情報をわかりやすく教えてほしい
伝えたい情報や提供したいサービスをきちんとエンドユーザーに届けることは意外に難しい。
たとえば、サービス説明のページで下のほうに注釈がたくさん書いてあり、結局のところよくわからないというページや、商品説明で企業側が伝えたいことばかりが掲載されていて、それを購入した人にはどのようなベネフィットがあるのかよくわからないというページがある。
この点に関しても、ふだんエンドユーザーとしてさまざまなサービスを利用しているときの気持ちを胸に刻んでおく努力が必要だ。
あぁ、もういいや
Webサイトについて企業にクレームや意見を言ってきてくれるエンドユーザーはありがたいお客さまである。しかし、残念ながらそういう人はほんの一部にすぎず、大半の人がWebサイトに訪れて自分が期待していた情報やサービスと異なれば、「もういいや」と他のサイトへ移動する。これは、Webサイトのアクセスログを見れば一目瞭然だ。サイト滞在時間が5秒以内のユーザが多ければ、こうしたシチュエーションを疑うべきである。
せっかくいいコンテンツをもっていても、訪れたユーザーにプレゼンテーションができなければ意味がない。最初の5秒間が非常に重要なのだ。
本記事は『Web STRATEGY』2007年7-8 vol.10からの転載です
文=島元大輔
大阪のWeb制作会社でWebディレクターとして活躍後、(株)キノトロープに入社。数多くの企業Webサイト構築プロジェクトにかかわる。その後、 (株)ライブドアに入社、現在は(株)セシールに在籍。著書として「だから、Webディレクターはやめられない」(ソシム刊)。 url.blog-project.cecile.co.jp/
第10回
Webマスターとエンドユーザーの関係
企業のWebサイトを構築するとき、制作から運用までさまざまな人物がかかわる。その中で、企業側のネット担当者をWebマスターという。ここではWebマスターの立場からWebディレクションに焦点を当てて、Webプロジェクトをスムーズに進めるための方法論を解説していこう。制作会社という受注側の立場も経験し、現在はWebマスターという立場で業務を行っている筆者ならではの見解を述べていく。
■Webマスター × エンドユーザー
エンドユーザーとは?
「エンドユーザー」とはだれを指すのか。ここでいうエンドユーザーとは、Webマスターが運営するクライアント企業のお客さまのことである。正確に言うと、そのWebサイトを使うお客さまだ。当然、クライアント企業によってお客さまは異なってくるが、大きくは対企業(BtoB)、対個人(BtoC)で分けると考えやすいだろう。ECサイトであれば、その商品を買おうとする個人のお客さまがそれに当たり、法人向けサービスを提供するサイトであれば、それに問い合わせをする法人企業がエンドユーザーとなる。
これら、Webサイトを利用するであろうすべてのお客さまのことを「エンドユーザー」と呼び、説明を進めていく。
Webマスターにとって、Web制作会社、システムベンダー、広告代理店、社内などとの関係も非常に重要ではあるが、すべてはこのエンドユーザーに対して最適なサービスを提供するために行っているプロセスにすぎない。Webサイトを構築する目的は、エンドユーザーにどれだけ最適なサービスを提供できるかであり、そこからいかに自身(の会社)に利益をもたらすことができるかである。
そういった面からも、エンドユーザーとの関係はより重要だといえる。
Webマスターとして犯しがちなミス
エンドユーザーに目を向けることが大切なのはおわかりいただけたと思うが、筆者の経験上、Webサイトのプロジェクトがうまくいかない原因に以下のようなことが挙げられる。
1.Webマスター(発注側)が社内(上司)を見すぎている
Webマスターは、自分の上司や周りの人間に最低限の報告や承認を行いながらプロジェクトを進めていかなければならない。しかし周りを気にするあまり、プロジェクトの進捗が遅れ、最後には妥協の産物になってしまうケースがある。
これはWebマスターがある程度の裁量権をもっていなければ難しい問題で、企業によっては役職の位が上がるほど、ITに対する知識が少なく、今やっていることがなかなか理解されないということもあるだろう。しかし、ここは思いきってWebマスターの裁量に任せてもらい、プロジェクトを推進してみてほしい。
その際、受注先のWebディレクターには状況を理解してもらうと同時に、全面的なフォローをお願いすることでお互いの信頼関係を構築することができる。
2.Webマスター(発注側)が予算を削りすぎている
予算とスケジュールのないプロジェクトはない。限られた条件の中でどこまで効果的なアウトプットができるかが、WebマスターやWebディレクター、そのほか制作にかかわる人たちの力量ともいえる。ただ、その場合にも限度はあり、特に予算が削られすぎるとプロジェクトを動かせなくなるということもあるので気をつけたい。
重要なのは、最初のプランニングの段階で、予算、スケジュールとともに無理のない実現可能なプランを立てることだ。
3.Webディレクター(受注側)のスキル不足
プロジェクトがうまくいかない原因としてWebディレクターのスキル不足が指摘されることは多い。スキル不足の内容はさまざまだが、今回のテーマに沿っていえば、Webディレクター(受注側)がWebマスター(発注側)に偏った考え方をしてしまう場合と、逆にエンドユーザー側に偏った考え方をしてしまう場合の2パターンが挙げられる。いずれか極端な考え方をすると、プロジェクトはうまくいかない。よりバランス感覚に優れたWebマスターほど、プロジェクトを成功に導くのである。
Webマスターが行うべきこと
Webマスターがエンドユーザーに対して最適なサービスを提供しようとした場合、どのようなことに気をつけてプロジェクトを進めればよいかを解説しよう。
1.エンドユーザーは“だれか”を確認する
Webサイトを使う人はだれかを知ることから始める。これは、すでにWebサイトを利用している人、または利用してほしい人ということである。
すでにWebサイトを利用している人については、アクセスログから「サイト内検索ワード」「コンテンツごとの訪問者数」などを分析すれば、どのようなことを求めているかがわかる。
これからWebサイトを利用してほしい人については、想定するターゲットに対して「キーワードアドバイスツール」や「ブログ検索」などを使い、その人たちがどういった意識でいるかを知る必要がある。それらを知ったうえで、新たな客層を広げるためにプロモーションやコンテンツ制作を行うのである。
2.エンドユーザー像をプロジェクトメンバーで共有する
Webマスターとしてやらなければならないのは、エンドユーザー像をプロジェクトメンバーと共有することだ。この共有というプロセスは重要なのだが、意外にできていないことが多い。プロジェクトにかかわるメンバーが複数いると、それぞれが心の中で何となく感じていることは当然異なる。せっかくWebマスターがエンドユーザーがだれかを理解していても、それがメンバーに浸透していなければプロジェクトはうまくいかない。
Webマスターは、戦略を立てるスキルの高さだけでなく、それをメンバーと共有するためのプレゼンテーション能力も非常に問われるのである。
3.エンドユーザーに提供すべき事項をピックアップする
エンドユーザー像が明確になったら、次にどういったサービスやコンテンツを提供すべきかを考えなければならない。
ECサイトであれば、商品説明ページが最低限必要で、そこに至るまでの導線設計も行う必要がある。メーカーの場合、分析の結果、商品情報よりもサポートのほうを求められることもある。コールセンターにかかってくる問い合わせ内容を調査し、上位のものをWebサイトに掲載することも必要だろう。ユーザーのニーズを洗い出し、その問題を解決できるコンテンツをリスト化してみよう。
先述したようにプロジェクトにはスケジュールと予算がつきものであるから、それらリストに優先順位をつけて何を優先すべきかを決定、共有することも忘れてはならない。
■エンドユーザーの気持ち
信頼できる情報を知りたい
ここでエンドユーザーの気持ちを検証してみよう【1】。
【1】Webマスターとエンドユーザーの気持ち
WebマスターであれWebディレクターであれ、Webサイト構築にかかわる人もふだんはエンドユーザー側にいる。しかし、サービスを提供する側に立つとその純粋なエンドユーザーとしての気持ちは忘れてしまいがちだ。
クチコミサイトがはやっているが、そこにはエンドユーザーの「信頼できる情報を知りたい」という気持ちが反映している。クチコミ情報に少しでも企業の意向が見えたらエンドユーザーの気持ちは一気に覚めてしまうだろう。サービスを提供する側としてはさまざまな事情があるが、まず、ふだんのエンドユーザーとしての気持ちで物事を考え、そのうえで企画を立案することが重要である。
正しい情報をわかりやすく教えてほしい
伝えたい情報や提供したいサービスをきちんとエンドユーザーに届けることは意外に難しい。
たとえば、サービス説明のページで下のほうに注釈がたくさん書いてあり、結局のところよくわからないというページや、商品説明で企業側が伝えたいことばかりが掲載されていて、それを購入した人にはどのようなベネフィットがあるのかよくわからないというページがある。
この点に関しても、ふだんエンドユーザーとしてさまざまなサービスを利用しているときの気持ちを胸に刻んでおく努力が必要だ。
あぁ、もういいや
Webサイトについて企業にクレームや意見を言ってきてくれるエンドユーザーはありがたいお客さまである。しかし、残念ながらそういう人はほんの一部にすぎず、大半の人がWebサイトに訪れて自分が期待していた情報やサービスと異なれば、「もういいや」と他のサイトへ移動する。これは、Webサイトのアクセスログを見れば一目瞭然だ。サイト滞在時間が5秒以内のユーザが多ければ、こうしたシチュエーションを疑うべきである。
せっかくいいコンテンツをもっていても、訪れたユーザーにプレゼンテーションができなければ意味がない。最初の5秒間が非常に重要なのだ。
本記事は『Web STRATEGY』2007年7-8 vol.10からの転載です