【UIUX Labに学ぶゲーム設計術】
テレビリモコンってこのままでいいの?
ゲームUIで考える、進化を促進するデザインとは
テレビリモコンってこのままでいいの?
ゲームUIで考える、進化を促進するデザインとは
皆様こんにちは。UIUX Lab代表の鷲山です。ゲームUI/UXの魅力をお伝えする連載第四回目は、一度ゲームの世界を飛び出して日常のプロダクトに目を向けてみたいと思います。ユーザーに分かりやすいUI設計についてはこれまでにも述べてきましたが、それはゲームに限ったことではありません。使いやすいUI作りの重要性はすべてのプロダクトに言えることです。
利用シーンが違えばゲームとは違う答えが導き出されることもありますが、ゲームUIで読み解くことで日常のプロダクトをもっと便利にすることはできないか? 今回はそんな視点で身近な家電製品のUIについて考えていきます。
2019年8月16日
解説:UIUX Lab代表 鷲山優作 TEXT:編集部
利用シーンが違えばゲームとは違う答えが導き出されることもありますが、ゲームUIで読み解くことで日常のプロダクトをもっと便利にすることはできないか? 今回はそんな視点で身近な家電製品のUIについて考えていきます。
2019年8月16日
解説:UIUX Lab代表 鷲山優作 TEXT:編集部
便利とは、使いやすいとはどういうことか
▶ そもそもゲームとは?
私たちはゲーム作りの現場で、日々少しでも解りやすくユーザーを迷わせない、ストレスを与えないUIづくりに取り組んでいます。
逆説的に聞こえるかもしれませんが、ゲームの条件とはストレスを与える事。障害を意図的に用意して、クリアできたときにそれに見合った快感を用意するというのがゲームの本質です。だからこそ我々はゲーム性以外の部分でユーザーにストレスを与えないよう、常に高いモチベーションでUI設計に向き合っています。ゲームの本質的な価値をユーザーに届けるためには、必然的にそこに磨きをかけることになる――という環境に置かれています。
そんな日々を過ごしているせいか、日常のプロダクトに対しても「もっとこうしたら使いやすいのに」とつい設計者視点で考えてしまうことがあります。家電製品しかり、銀行のATMや駅の券売機などもすんなり目的に辿り着けずに戻ったり諦めたりすることがあるので、そんな時は改善の余地があるのではないかと考えてしまいます。
私たちはゲーム作りの現場で、日々少しでも解りやすくユーザーを迷わせない、ストレスを与えないUIづくりに取り組んでいます。
逆説的に聞こえるかもしれませんが、ゲームの条件とはストレスを与える事。障害を意図的に用意して、クリアできたときにそれに見合った快感を用意するというのがゲームの本質です。だからこそ我々はゲーム性以外の部分でユーザーにストレスを与えないよう、常に高いモチベーションでUI設計に向き合っています。ゲームの本質的な価値をユーザーに届けるためには、必然的にそこに磨きをかけることになる――という環境に置かれています。
そんな日々を過ごしているせいか、日常のプロダクトに対しても「もっとこうしたら使いやすいのに」とつい設計者視点で考えてしまうことがあります。家電製品しかり、銀行のATMや駅の券売機などもすんなり目的に辿り着けずに戻ったり諦めたりすることがあるので、そんな時は改善の余地があるのではないかと考えてしまいます。
▶ テレビリモコンをゲームUIで読み解く
例えば、4K8Kの普及に伴い、最近のテレビはまるで現実世界が飛び出したかのような美しい映像が見られます。インターネット接続、Netflix、Amazonプライム、AbemaTVといった動画配信サービス(VOD)への対応など多機能化も進んでおり、これからはますます充実した製品が私たちの元に届けられる――そんな未来が待っているに違いありません。
しかしテレビリモコンを改めて見てみると、その変化に対応しうる設計になっていないのではないか? と疑問に思います。
ではゲームの場合はどうなっているかというと――
例えば、据え置きゲーム機ではコントローラとソフトウェア(ゲーム)は完全に分離した別のものです。ボタンも厳選されていて、ゲーム会社は限られたボタンを効果的に使ってゲーム体験を成立させる努力をしていきます。
しかしテレビの場合は機能をブラッシュアップすることが最優先で、コントローラを含む操作性やユーザビリティの部分は少し置き去りになっているように感じます。よく見られるテレビリモコンは、機能の充実によってボタンの数が増え、どこにどの機能が割り当てられているかをぱっと見で理解するのは難しいのではないでしょうか。
テレビリモコンはテレビ本体の機能に合わせてボタンを追加したり、割り当てたりするのではなく、画面内UIを操作するためのコントローラとしてとらえてもいいと思います。私が使っているテレビのリモコンには50個以上のボタンがついていますが、この考え方に基づいて設計していけば、今の10分の1のボタンがあれば十分事足りるはずです。
例えば、4K8Kの普及に伴い、最近のテレビはまるで現実世界が飛び出したかのような美しい映像が見られます。インターネット接続、Netflix、Amazonプライム、AbemaTVといった動画配信サービス(VOD)への対応など多機能化も進んでおり、これからはますます充実した製品が私たちの元に届けられる――そんな未来が待っているに違いありません。
しかしテレビリモコンを改めて見てみると、その変化に対応しうる設計になっていないのではないか? と疑問に思います。
ではゲームの場合はどうなっているかというと――
例えば、据え置きゲーム機ではコントローラとソフトウェア(ゲーム)は完全に分離した別のものです。ボタンも厳選されていて、ゲーム会社は限られたボタンを効果的に使ってゲーム体験を成立させる努力をしていきます。
しかしテレビの場合は機能をブラッシュアップすることが最優先で、コントローラを含む操作性やユーザビリティの部分は少し置き去りになっているように感じます。よく見られるテレビリモコンは、機能の充実によってボタンの数が増え、どこにどの機能が割り当てられているかをぱっと見で理解するのは難しいのではないでしょうか。
テレビリモコンはテレビ本体の機能に合わせてボタンを追加したり、割り当てたりするのではなく、画面内UIを操作するためのコントローラとしてとらえてもいいと思います。私が使っているテレビのリモコンには50個以上のボタンがついていますが、この考え方に基づいて設計していけば、今の10分の1のボタンがあれば十分事足りるはずです。
リモコンというプロダクト単体の使い勝手をよりシビアに追及する
では、具体的にどのようにするべきか。どんな機能も受け入れられる汎用性の高いリモコンをイメージしてみましょう。
私は極論、テレビリモコンのボタンは十字キー(上・下・右・左)と決定ボタン、キャンセルボタン、この3種があれば事足りるのではないかと思っています。50個以上あったボタンの機能を、3種6ボタンでまかなうとなると、操作の回数が増えて大変になると思われるかもしれません。
でも、操作回数は増えてもよいのです。選択肢が多ければ多いほど人は迷います。そして多くの要素を一度に選ばせるということはユーザーに大きなストレスを与えます。大切なのはユーザーが迷わず操作できるということ。そのためには必要なタイミングで必要な選択肢をテンポよく提示してあげることができれば、操作回数が増えることはそれほど苦にならないはずです。
私は極論、テレビリモコンのボタンは十字キー(上・下・右・左)と決定ボタン、キャンセルボタン、この3種があれば事足りるのではないかと思っています。50個以上あったボタンの機能を、3種6ボタンでまかなうとなると、操作の回数が増えて大変になると思われるかもしれません。
でも、操作回数は増えてもよいのです。選択肢が多ければ多いほど人は迷います。そして多くの要素を一度に選ばせるということはユーザーに大きなストレスを与えます。大切なのはユーザーが迷わず操作できるということ。そのためには必要なタイミングで必要な選択肢をテンポよく提示してあげることができれば、操作回数が増えることはそれほど苦にならないはずです。
もう一つ重要なのは、今使わないボタンは目の前にない方がよいということ。いつかは使うボタン、○○する時だけ使うボタンは、排除した方が使い勝手が良くなるはずです。ゲームコントローラのボタンの位置を、いちいち目で確認しながら操作する人はいませんが、テレビリモコンの場合、ほとんどの人が手元と画面を見比べながらテレビを操作しています。
テレビが内包する様々な便利機能に素早くアクセスできるように、ボタンを設置していった結果、大量の物理ボタンから目当ての1つを見つけ出す時間が増え、それでもわからないから画面内に説明書きを入れて、テレビ画面とリモコンの双方を見ながらでないとテレビをコントロールできなくなってしまっているように感じられます。
テレビが内包する様々な便利機能に素早くアクセスできるように、ボタンを設置していった結果、大量の物理ボタンから目当ての1つを見つけ出す時間が増え、それでもわからないから画面内に説明書きを入れて、テレビ画面とリモコンの双方を見ながらでないとテレビをコントロールできなくなってしまっているように感じられます。
▶ 物理ボタンを減らすと、画面もシンプルになる
実はボタンを減らすと、画面内のUIもシンプルになります。例えば、あるメーカーのテレビでは、録画した番組を再生する時、(録画一覧から見たい番組を選んだ状態で)① 決定ボタン、または再生ボタン[▶]を押すことで録画映像が再生されます。一方、② 黄色のボタンを押すと消去メニューへ、③ 青のボタンを押すと複数選択可能に、④ 緑のボタンでチャプター一覧を表示、さらに⑤ サブメニュー[S]ボタンから「プロテクト設定」や「ダビング」メニューなどへ進めるようになっています。
実はボタンを減らすと、画面内のUIもシンプルになります。例えば、あるメーカーのテレビでは、録画した番組を再生する時、(録画一覧から見たい番組を選んだ状態で)① 決定ボタン、または再生ボタン[▶]を押すことで録画映像が再生されます。一方、② 黄色のボタンを押すと消去メニューへ、③ 青のボタンを押すと複数選択可能に、④ 緑のボタンでチャプター一覧を表示、さらに⑤ サブメニュー[S]ボタンから「プロテクト設定」や「ダビング」メニューなどへ進めるようになっています。
では、3種6ボタンしかないゲームコントローラーのようなリモコンで同じ操作をするためのUIを考えてみましょう。専用ボタンを排除したことで、元はリモコンが担っていた機能説明を画面上のUIが担うようになっているはずですが、先ほどよりずっとシンプルなアプローチができています。
決定ボタンを押したときに「再生」「消去」「プロテクトON/OFF」「ダビング」の4つの選択肢を表示して、そこから選んでもらうだけ。用途を考えると他の2つは一つ下の階層に下げてもよさそうです。
決定ボタンを押したときに「再生」「消去」「プロテクトON/OFF」「ダビング」の4つの選択肢を表示して、そこから選んでもらうだけ。用途を考えると他の2つは一つ下の階層に下げてもよさそうです。
この方が、テレビにどのような機能が内蔵されているのかを明示しながらも、選択時のストレスが極めて少ないUIになっているのではないでしょうか。
これからの時代、見られるチャンネルも増えていくでしょうし、SNSやインターネット、ゲームとのメディアミックスが進んで、様々な体験が可能になっていくでしょう。テレビが対応しなければならないカテゴリもどんどん増えてきます。その進化に対応するためにも、まずはテレビリモコンをボタンの呪縛から解き放つ必要があるのではないかと思います。
これからの時代、見られるチャンネルも増えていくでしょうし、SNSやインターネット、ゲームとのメディアミックスが進んで、様々な体験が可能になっていくでしょう。テレビが対応しなければならないカテゴリもどんどん増えてきます。その進化に対応するためにも、まずはテレビリモコンをボタンの呪縛から解き放つ必要があるのではないかと思います。
シンプルになった未来のリモコン
ここまで読んでいただいた方の中には、Fire TVなどのシンプルなリモコンを思い出されている方も多いのではないでしょうか。画面内のメニューをコントロールする上下左右のキーと、絞り込まれたいくつかの特殊キー。3種のボタンとまではいきませんが、とてもシンプルです。
ただ、これは進化の第一段階で、シンプルになった先に、さらなる未来が待っているのではないかと思います。そんな未来を感じさせてくれるリモコンの一つがApple TVに付属する「Siri Remote」。Apple TVのリモコンはもともと十字キーを含む3種6ボタン式の、まさに先に挙げたリモコン改良案のような姿をしていましたが、2015年に十字キーすら排除した現在の姿になりました。
中央左には音声アシスタントのSiriボタン、上半分にはタッチサーフェイスを内蔵してシームレスなカーソル移動を実現しています。内部にはモーションセンサを備え、Wiiリモコンのような体感ゲームにも対応できるようになっています。
「Siri Remote」はApple TVのためのリモコンなので、他のテレビでは使えませんが、こういうリモコン(コントローラ)がスタンダードになっていけば、画面内のUIとの掛け算で無限の使い方が見出せるようになるでしょう。
このような汎用性のあるデザインをベースに、自由にコンテンツを作れる環境ができれば、ソフトウェア側でも、Webやアプリ、ゲーム業界と同じようにサードパーティーの参入が容易になります。そうやって、テレビを介した文化が活気づいていくと良いと思います。
「Siri Remote」はApple TVのためのリモコンなので、他のテレビでは使えませんが、こういうリモコン(コントローラ)がスタンダードになっていけば、画面内のUIとの掛け算で無限の使い方が見出せるようになるでしょう。
このような汎用性のあるデザインをベースに、自由にコンテンツを作れる環境ができれば、ソフトウェア側でも、Webやアプリ、ゲーム業界と同じようにサードパーティーの参入が容易になります。そうやって、テレビを介した文化が活気づいていくと良いと思います。
[筆者プロフィール]
鷲山 優作(わしやま ゆうさく)
紙媒体のデザイン、webデザイナーを経て2011年にサイバーエージェント子会社の株式会社グレンジに入社。コミュニケーションアプリから始まりブラウザーゲーム、ネイティブゲームアプリなどのアプリ開発に従事。現在グレンジ取締役CCOを務めるとともに、2016年にサイバー エージェントが設立した、スマートフォン向けゲームに最適なUI/ UX研究をする専門組織「UIUX Lab」の代表も務める。
鷲山 優作(わしやま ゆうさく)
紙媒体のデザイン、webデザイナーを経て2011年にサイバーエージェント子会社の株式会社グレンジに入社。コミュニケーションアプリから始まりブラウザーゲーム、ネイティブゲームアプリなどのアプリ開発に従事。現在グレンジ取締役CCOを務めるとともに、2016年にサイバー
『UIUX Lab』
https://creator.game.cyberagent.co.jp/uiuxlab/
サイバーエージェントのスマートフォン向けゲームに最適なUI/ UXを研究をする専門組織。アドバイザーとして「ゲームニクス」提唱者のサイトウアキヒロ氏を招聘し、「スマートフォンで”夢中”を体感させるゲーム作り」をモットーに、ユーザーにとって使いやすく、楽しめるゲーム開発の強化とクリエイティブ力の向上に取り組んでいる。
https://creator.game.cyberagent.co.jp/uiuxlab/
サイバーエージェントのスマートフォン向けゲームに最適なUI/