本書で取り上げるのは、「物語を紡ぐ絵画」です。つまり、作品の背後に語られる物語があり、描かれた人物やモティーフに意味が託され、メッセージが込められている。わたしたちはそこに紡がれる物語を読み解いていくことを求められています。こうした絵画の見方を習得するのは少々やっかいで、時間のかかるものかもしれません。けれども、ひとたび、読み方を習得するならば、絵画作品はもっと深くわたしたちに語りかけ、知的な喜びと興奮を与えてくれます。
豪華で煌びやかなゴシック建築
12世紀中頃にフランスで発祥したゴシック美術は、ヨーロッパ全土に広がりました。地方の修道院から発展したのがロマネスク美術だとすると、ゴシック美術は都市に築かれた大聖堂を中心に発達したといえます。ロマネスク期の修道院がこぢんまりとした質実剛健な印象を受けるのに対して、ゴシック教会は、壁一面をステンドグラスにするなど、とにかく煌びやかであることが特徴です。また、建築技術の発達にともない高層化し、都市のシンボルとしても機能するようになりました。
こうした建築をルネサンス期では「野蛮な」「蛮族の」と軽蔑的にいわれていたことから、「ゴート人(ゲルマン人の民族のひとつ)の=ゴシック」と呼ばれるようになりました。ゴシック絵画では、壁画ではなく、ステンドグラスが主流になり、文字の読めない人々のために、キリスト教の教義や聖書の内容を伝える役割を担いました。
大型化したステンドグラス越しの神秘的な光により、大聖堂は荘厳な雰囲気に仕上がり、神の存在が威厳に満ちたものになったのです。また、聖堂内外の彫刻作品も、“ビジュアル版聖書”のような機能を果たしました。このように中世の美術はキリスト教への信仰心を高めるためのものといえるでしょう。
優美で豪奢な国際ゴシック
ゴシックの後期である1400年代になると、ヨーロッパ各地で優美な作風が特徴の絵画が見られるようになります。この時代様式を「普遍化したゴシック性」という意味で「国際ゴシック」と呼び、その傑作が、『ベリー公のいとも豪華なる時禱書』です。
時禱書とは、日々の祈りのための手引きであり、祈禱文や聖歌、暦などから構成され、内容に合わせた挿絵がつけられています。なかでもこの『ベリー公のいとも豪華なる時禱書』は世界で最も美しい本とも名高く、原色を積極的に使った鮮やかな色遣いや、装飾的で精緻な筆遣いなどが特徴的です。また、冒頭に配された暦の6月(図1)の背景には、ゴシック建築のサント・シャペル聖堂が描かれているなど、随所にゴシック美術の様式を見ることができます。
次回の[名画の読解力]は、「北方特有の細密さが素晴らしい美術─北方ルネサンス」。ヤン・ファン・エイク《アルノルフィーニ夫妻像》、ヒエロニムス・ボス《快楽の園》、ピーテル・ブリューゲル《ネーデルラントの諺》《バベルの塔》などに秘められた物語を読み解きます。
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2020.01.27 Mon