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名画の読解力 教養のある人は西洋美術のどこを楽しんでいるのか!?

2020.02.03 Mon

[名画の読解力]北方特有の細密さが素晴らしい美術─北方ルネサンス

本書で取り上げるのは、「物語を紡ぐ絵画」です。つまり、作品の背後に語られる物語があり、描かれた人物やモティーフに意味が託され、メッセージが込められている。わたしたちはそこに紡がれる物語を読み解いていくことを求められています。こうした絵画の見方を習得するのは少々やっかいで、時間のかかるものかもしれません。けれども、ひとたび、読み方を習得するならば、絵画作品はもっと深くわたしたちに語りかけ、知的な喜びと興奮を与えてくれます。

油絵の発祥の地・北方らしい細かな描写

イタリアから興ったルネサンスと時を同じくして、北方でも新しい芸術が始まりました。15世紀に花開いたことから「北方ルネサンス」と呼びますが、「古代復興」という動きがこの地に起こったわけではありませんので、イタリアのルネサンスとはまったく異なる新しい芸術だと考えていいでしょう。

北方とは、今のオランダ、ベルギー、ルクセンブルクにあたる地域のネーデルラントやドイツといったアルプス以北を指します。北方ルネサンスは油絵の発祥地ということもあり、早々に油絵での細密描写が発達しました。

初期ネーデルラント絵画の第一世代、ヤン・ファン・エイクの《アルノルフィーニ夫妻像》(図1)は、服のドレープから、顔のシワ、女性の頭を覆ったヴェールのフリルなど、細密な描写に長けています。本作はそうした細部に様々な意味を託したシンボリズムが隠されています。この作者のヤン・ファン・エイクは、油絵の技法を完成させた立役者のひとりとしても有名です。

図1◆ヤン・ファン・エイク《アルノルフィーニ夫妻像》 1434年[ロンドン・ナショナル・ギャラリー]
図1◆ヤン・ファン・エイク《アルノルフィーニ夫妻像》
1434年[ロンドン・ナショナル・ギャラリー]

おなじくネーデルラントを代表する画家を挙げるとすると、その怪奇的で幻想的な作風から、一度見たら忘れられないほどの印象を残すヒエロニムス・ボスは外せません。ボスの作品のほとんどは宗教画ではありますが、それらの多くに怪奇的で悪魔的な生き物が登場し、人間の愚行を批判するような視点から描かれています。

ボスの代表作である《快楽の園》(図2)は、大勢の裸の男女が快楽を貪っている様子が描かれています。目を凝らすと、異種混交の鳥獣がいたり、不気味な植物を見つけることができるでしょう。三連祭壇画の中央に位置する本作は、「堕落した人々に対する戒め」と読むことができますが、そうした意図はなく、婚礼を表す水浴図の伝統に属するものだという研究者もいます。

図2◆ヒエロニムス・ボス《快楽の園》(中央部) 1505~16年[プラド美術館]
図2◆ヒエロニムス・ボス《快楽の園》(中央部)
1505~16年[プラド美術館]

この《快楽の園》は三連祭壇で、左翼にはエデンの園のアダムとエヴァ、右翼には地獄が展開されています。伝統的なキリスト教の三連祭壇は、左右翼はボスと同じですが、中央部は「聖母子」や「キリストの受難」などが描かれることが多いので、その点からみても、本作が特異なものであることがわかります。

初期ネーデルラント画家の最後の巨匠といえば、「農民画家」とも呼ばれるピーテル・ブリューゲルです。一家で工房を営み、同名の息子も画家として活躍したので、区別するため名前の最後に「(父)」と表記されることが多々あります。

彼の作品で特筆すべき点は、次の時代につながるような風俗画、風景画というものを描いたことにあります。農民たちの姿を描いたり、その土地に伝わる諺を絵画の中に反映させたりするなど、風俗画のはしりといえるでしょう。また、聖書の物語や、人々の暮らしの情景の中に教訓やユーモアを盛り込んだものが多々あります。《ネーデルラントの諺》(図3)は、100余りの諺と格言が表現されており、鑑賞者に図の読解を要求する謎解きのような一面もあるブリューゲルらしい作品です。

図3◆ピーテル・ブリューゲル《ネーデルラントの諺》 1559年[ベルリン国立美術館]
図3◆ピーテル・ブリューゲル《ネーデルラントの諺》
1559年[ベルリン国立美術館]

ブリューゲルの《バベルの塔》(図4)が2017年に日本に上陸したことで話題になりましたが、実際の絵を前にすると、その細かい描写に驚いた方も多くいたかと思います。《バベルの塔》は旧約聖書の中に登場するエピソードで、一般に「天まで届くほど高い塔を建てようとした人間の傲慢さに怒った神が言葉をバラバラにしてしまい、意思疎通ができなくなった人々が混乱に陥った」と解釈されている話です。

ブリューゲルはこのバベルの塔を、傾斜路のついたスケールの大きな建物として描き、ディティールにこだわりました。ブリューゲルは《バベルの塔》を二枚描きましたが、本書で紹介している作品は二枚目にあたります。建築中と思われる塔には当時のクレーンなどが正確に描かれ、画面向かって右下の港にはリアルな船が浮かんでいます。また、左下には、農民の情景を細密なタッチで描いています。こうした見事な描写が、今なおブリューゲル人気が衰えない理由のひとつです。

図4◆ピーテル・ブリューゲル《バベルの塔》 1568年[ボイマンス美術館]
図4◆ピーテル・ブリューゲル《バベルの塔》
1568年[ボイマンス美術館]

次回の[名画の読解力]は、「派手で力強い美術が特徴─バロック」。ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョ《聖マタイの召命》に秘められた物語を読み解きます。

>>>[名画の読解力]記事一覧はこちら

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監修:田中 久美子
定価:本体1,600円+税
四六判・272ページ

 

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