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名画の読解力 教養のある人は西洋美術のどこを楽しんでいるのか!?

2020.02.10 Mon

[名画の読解力]派手で力強い美術が特徴─バロック

本書で取り上げるのは、「物語を紡ぐ絵画」です。つまり、作品の背後に語られる物語があり、描かれた人物やモティーフに意味が託され、メッセージが込められている。わたしたちはそこに紡がれる物語を読み解いていくことを求められています。こうした絵画の見方を習得するのは少々やっかいで、時間のかかるものかもしれません。けれども、ひとたび、読み方を習得するならば、絵画作品はもっと深くわたしたちに語りかけ、知的な喜びと興奮を与えてくれます。

光の効果でドラマチックに仕上げるカラヴァッジョ

16世紀末~17世紀のヨーロッパ芸術を総称してバロックと呼びます。バロックとはポルトガル語で「歪んだ真珠」を意味する言葉で、長らく奇異で風変りなものとして否定的な意味合いで18世紀頃から呼ばれ始めました。

どのあたりが奇妙なのでしょうか。基準となるのはやはり盛期ルネサンス期の美術様式です。正確な人体比例や、人間的でありながらそれを超越した美しい人物像、幾何学的秩序に基づいた構成……盛期ルネサンス期の美術様式こそ優れたものであり、規範でした。それに比べてバロックの美術は、自由な構成や強い躍動感、作為的なポーズなど、盛期ルネサンス期からはかなり逸脱したものだったのでしょう。規則から外れた美術を指す蔑称がバロックだったのです。

バロック美術は「観る者に強く訴えかけるようなドラマチックさが特徴」といわれることがよくあります。なぜこの時代に人々の感情に訴えるような作品が多く残されたのでしょうか。その理由のひとつに宗教戦争が挙げられます。

ルターの宗教改革から端を発したカトリックとプロテスタントの宗教対立は17世紀に入っても収束するどころか激化していました。プロテスタントが宗教美術を禁止したのに対して、カトリックは信仰のために宗教美術を積極的に利用しました。それは信者の信仰心を煽るため、感情に強く訴えかけるような美術様式へと変容していったのです。これがバロック美術にドラマチックな作品が多い理由のひとつです。

バロック最大の画家といえば、イタリアの画家ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョです。カラヴァッジョの初めての大作であり、その名を世間に知らしめた出世作でもある《聖マタイの召命》(図1)は、カラヴァッジョらしさ、バロックらしさがつまった作品といえるでしょう。ここで描かれているのは、イエス・キリストが徴税人をしていたマタイに声をかけ、自分に付きそうように誘う場面です。一見すると宗教画ではなく、場末の居酒屋で酒を飲んでいる男性たちを描いた風俗画のように感じるかもしれません。宗教的な主題を日常の場面に託して描くのはカラヴァッジョ独自の作風です。

図1◆ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョ《聖マタイの召命》 1599~1600年[サン・ルイジ・デイ・フランチェージ教会]
図1◆ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョ《聖マタイの召命》
1599~1600年[サン・ルイジ・デイ・フランチェージ教会]

作品をよく眺めると、向かって右の人物には光輪(ニンブス)が描かれています。このことから、彼が聖人であり、イエス・キリストであることがわかります。イエスの背後から差し込む光に誘われて、目線を左へと移すと、左端には若い男性がコインをいじるように座っています。

長い間、指を指す身振りをしたひげの男がマタイだと考えられてきましたが、実はこの若い男性こそがマタイなのです。マタイはひげの男が支払ったお金を数えているのでしょうか。ただ次の瞬間には、イエスのもとに駆け寄るであろう緊張感が本作には漂っています。このように劇的な光の効果による明暗法が目を引く《聖マタイの召命》は、新しい美術様式・バロックの開幕を告げる記念碑的作品といえるでしょう。

ちなみに、カラヴァッジョは静物画の先駆者でもあります。古代ローマの壁画などに描かれていた果物などの静物画は、「美術=キリスト教の教えを広めるためのもの」だった中世、ルネサンス期では描かれることはなく、忘れ去られた存在でした。そうした中でカラヴァッジョは徹底したレアリスムで静物画に挑みました。代表作のひとつ《果物籠》は比較的初期の作品で、静物画が宗教画と同じぐらい力強いものであることを知らしめた一枚です。 

次回の[名画の読解力]は、「理想美に異を唱え、見えたままに再現する─写実主義」。ギュスターヴ・クールベ《オルナンの埋葬》、ジャン=フランソワ・ミレー《落穂拾い》などに秘められた物語を読み解きます。

>>>[名画の読解力]記事一覧はこちら

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名画の読解力 教養のある人は西洋美術のどこを楽しんでいるのか!?

監修:田中 久美子
定価:本体1,600円+税
四六判・272ページ

 

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