• はてなブックマーク
  • RSS
  • Line

テクノロジー

当初は実在の人物風に展開 〜AIグラビアアイドル「藤原れい」の写真集発売のニュースで感じたこと〜

2023.11.29 Wed

「I’m AI: AI and Elegance: A Symbiotic Journey」

Web広告の代理店のLes株式会社が、AIグラビアアイドル「藤原れい」の写真集「I’m AI: AI and Elegance: A Symbiotic Journey」を発売しています。同社はサイバーエージェント出身の2名による企業とのこと。「藤原れい」は、当初は “ある理由” からAIで制作されたグラビアアイドルであることを隠して展開されていました。

Instagramで活動を始めた「藤原れい」

「藤原れい」は、2023年5月にInstagramにアカウントを開設して初登場しました。記事の執筆時点で、フォロワーは2.9万人を超えています。Instagramでの最初の投稿は英文で行われ、続いて日本語での投稿が開始されました。

初めはAIモデルであることを隠しており、「藤原れい」は実在の人物であるかのように振る舞いました。つまり、フォロワーや閲覧者のほとんどはAIモデルであることを知らなかった、という構図になっています。同社の発表では「インスタグラマーとしての依頼や芸能事務所からのスカウトも相次いで」いたそうです。

開発は、複数のキャラクターを展開するのではなく、「藤原れい」という同一のキャラクターを続けてAIに学習させることで、より人間に近いクオリティを目指して進められました。「海外進出を目指していること」も特徴で、英語や中国語など外国語での発信にもAI翻訳が駆使されています。

「藤原れい」はLes株式会社が手掛けるスキンケア商品のモデルにも就任予定。同社は9月に独自開発のスキンケア商品「I’s」を発売しており、ブランドイメージキャラクターにはアーティストのwataboku氏が起用されています

 “本物” を見極めることが難しい時代

初期のInstagramの投稿への閲覧者からの返信を見ると、たしかにAIアイドルであると見抜いている人たちは少なそうです。ただ、最初の投稿への返信で、「藤原れい」の名前を調べても検索結果が出てこないことを指摘しているユーザーは見られました。

X(旧Twitter)のほうでの反応を見ると、かなり初期の段階で既に「どう見てもAI生成ですよね?」という指摘が見られます。また、AIアイドルであることが公開された後には、「AIって分かる」「言われてみるとAIにしか見えない」といった反応も見られます。そもそもX(旧Twitter)では、それほど話題になっている印象は受けません。

実際に「藤原れい」の画像を見ると、画像によって「人間らしさ」のクオリティにはややバラつきがあるように感じます。とはいえ、その感想も「もうAIアイドルであることを知っている」という前提によるもので、先入観が働いているのかもしれません。

最近では、「まるでAIのよう」と称されるような美しい実在のモデルもいます。また、実在の人間を被写体としていても、加工によって不自然な部分が生まれてしまっている画像も少なくありません。「藤原れい」の事例も、確実な見分けの難しさを象徴するケースであることは間違いないでしょう。

AIアイドルであることを明かした理由

「藤原れい」がAIアイドルであることを隠し、さらにあえてAIアイドルであることを発表した理由には、「『社会への警鐘』という側面」があると語られています。同社は「『騙されるという危険性』も伝えていかなければいけないというメッセージも込めて、あえてAIであることを隠した発信」や、その後の “ネタばらし” を展開したそうです。

昨今では「メディアリテラシー」はもちろん、メディアを対象としたものだけに限らず「リテラシー」の重要性がさまざまな場面で説かれています。それはとても大切なことで、同社の「社会への警鐘」という説明にも賛同できる部分がありました。

とはいえ、1つ大きく気になったのは、今回の写真集発売に伴うプレスリリースが “「騙された」の声が続出?! 1か月半で1万フォロワー超の美女は実はAIだった!” というタイトルで、本文の内容も非常に大袈裟な、いわゆる “自分アゲ” のスタイルのものであったことです。 「騙された」の声が続出!ではなく “?” を付けた見出しは、まさに「リテラシー」が求められるような手法で、「社会への警鐘」を掲げる企業のプレスリリースにはそぐわないとても残念なものに感じました。

生成AIによってフェイク画像が多発していることは、たしかに現代における大きな問題となっています。同時に、“釣りタイトル” や “バズることのみを狙う構造” や “自分をいかに大きく見せるか” が蔓延していることも深刻です。

注目を集めることは大切だけれど、それが本当に社会にとって意義のあることなのか。誰かを騙すものになってはいないか。メディアとしても、あらためて自らの姿勢を問いただすきっかけとなるような一件でした。

* * * * * * * * * *

現代では、メディアに限らず誰でも簡単に世界への広い発信ができるようになり、そこから金銭的な報酬を得ることも容易くなっています。「ビジネスと社会的意義」のバランスについては、メディアのみならず1人1人がしっかりと考えてほしいと願います。

同時に、やはり現代は「本当と嘘」の見分けが非常に困難であることを痛感しました。さまざまな場面で「リテラシー」の重要性は語られているものの、結局は「信じたいものだけを盲目的に信じ、信じたくないものだけを徹底的に疑う」という結論ありきの事象も非常に多いです。

そもそも「本当」の物事など、この世に存在するのかという哲学的な考えまで湧いてきます。「藤原れい」は、「社会への警鐘」として機能しているか否かは別としても、さまざまなことを考えるきっかけとなるコンテンツだと感じました。

Les株式会社
URL:https://www.les.jp/
2023/11/29

テクノロジーの他の記事

一覧を見る

読込中...

逆引き辞典逆引き辞典