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物語のある、ニューフェイスな文房具

2021.06.16 Wed

18番目の物語

デザイナーの遊び心と活版刷りの魅力が融合した紙雑貨「AUI-AŌ Design」

取材・文:沼田佳乃 撮影:YUKO CHIBA

今回は、神奈川・大磯のデザイン事務所「AUI-AŌ Design」のペーパーアイテムを紹介します。使い手の想像力を膨らませるような一捻り効いた紙の雑貨は、活版印刷ならではの温かみ、思わず手書きしたくなるデザインがたまりません。

誰かに送りたい!楽しくてセンスあふれる活版印刷の紙雑貨

画像提供:AUI-AŌ Design

神奈川の大磯に拠点を置き、2011年創業のデザイン事務所「AUI-AŌ Design(アウイアオ デザイン)」が作るペーパーアイテム。「手書きの文化を継承したい」という思いから制作される品々は、一捻り効かせたクリエイターらしいこだわりが詰まっています。なかでも、活版印刷による凸凹感や印刷のかすれをデザインに取り入れたアイテムは、まるでペーパークラフトのよう。懐かしさやユーモアが感じられて、眺めているだけでワクワクします。購入は公式オンラインショップから。

故郷の大磯で立ち上げた、ユニークな名前のデザイン事務所

まめメモ帳ブローチ

大磯に拠点をかまえるデザイン事務所「AUI-AŌ Design」によるペーパーアイテムの開発ストーリーについて、デザイナーの佐藤一樹さんに話を聞きました。

──「AUI-AŌ Design」は、どのような経緯で誕生したのですか?
佐藤 もともと僕はグラフィックデザインをしていて、2011年の3月に仲間と起業したんです。けれど、東日本大震災の影響で仕事が無くなってしまい、会社ごと閉じることになって……。そんなときに、僕の地元の大磯で開かれる「大磯市」というクラフトと食のマーケットが再び開催されるということを聞きつけ、クラフト雑貨を作って出すのも面白いかもしれないなと思ったんです。それに向け「AUI-AŌ Design」という屋号も取得しました。

──「AUI-AŌ Design」という名前にはどのような意味が込められているのでしょうか?
佐藤 デザイン事務所って屋号に名前を付けるところが多いのですが、あまり本人主体になるのが嫌だったので、KAZUKI SATŌの母音をローマ字読みにして付けました。おじいちゃんとかには「アイウエオ」って言われることもあるのですが、それはそれでよいかなと(笑)。

──夫婦でのユニットと聞いていますが、役割分担はどのように?
佐藤 もともとは妻が工業高校出身でシルク印刷が出来たので、ペーパーアイテムは2人で作っていました。その2年後くらいに活版印刷を導入した後は、ブランディング、デザイン業務、紙雑貨は僕が主軸でやるようになり、パタンナー志望だった妻は「AUI-AŌ Design」が立ち上げたアパレルブランド「福月洋装店」をメインにやりながらペーパーアイテムも手掛けています。

手書きの文化を継承したい。デザイナー発信のアイテム

キモチモツナガルカード

──ペーパーアイテム制作とデザイン業の関係性はありますか……?
佐藤 それで言うと、ペーパーアイテムはいわば名刺代わり。僕ら発信のものとして自由に作り、それを見た方から依頼が来る。これらのペーパーアイテムを作っているところだから頼みたいと言ってもらえるので、仕事もスムーズに運ぶ。特に活版業界は狭いので、手紙社さん主催の「紙博」、ロフトのイベントなどに出ると、「AUI-AŌ Design」のアイテムを目掛けて来てくれる人もいます。

──デザイン事務所によるペーパーアイテムというのが面白いですよね。コンセプトを教えてください。
佐藤 まさにデザイン事務所が作る紙雑貨ということで、一捻り効かせたい。今ってSNSが主流ですが、手書きの文化を残したいという思いがあって。僕のアイテムはどこかしらに”手で描き入れる“ところがある。といっても、ガッツリ文字を書くのではなく、サッと描いて様になるようデザインしています。作品数はトータルで250を超えているかも!

あとは、大磯という田舎でやっていることもウリだと思っています。ポートランドにアーティストやクリエイターが集まるように、環境のいいところで仕事をするといいものが生み出せる。豊かな暮らしをしながら、いいものを一つひとつ。そんな視点で物作りがしたい。

──すべてご自身でデザインしているのでしょうか?
佐藤 基本、デザインは僕1人です。印刷に関しては一部外注もしています。というのも、もともと活版印刷を始めたきっかけが文化継承に意義を感じたからなので、受注が増えてきたら積極的に職人さんにお願いしているんですよ。

──活版印刷を選ばれた理由も気になります……。
佐藤 実は僕、文字オタクなんです。デザインの要素って写真とテキストと図案とイラストくらいですが、その中でも、文字のフォントを選ぶのはデザイナーの仕事だったりしますよね。フォント一つでニュアンスが結構変わってくる。そういうのが昔から好きで、文字の印刷などを調べていくうちに、活版印刷に手動式があるのを知りました。ちょうど紙雑貨も印刷しているし、個人店のブランディングにも活用できそうなので購入しました。

活版の知識を受け継ぎながら、新しいデザインへの挑戦も

白ヤギレターと黒ヤギレター

──それでは、ズバリ活版印刷の面白さを教えてください。
佐藤 一つは紙を自由に扱えること。手差しが出来るので、工業製品だと難しい紙の厚さだったり、耳付き和紙なんかも使えます。印刷のかすれも大きな武器になる。あえて汚く印刷するって、テクノロジーが進んでいる今、なかなか出来ないことなんです。そこに一点物の価値がある。あとは凸凹が出ることでの存在感、表現の自由がありますね。

──逆に、活版印刷ならではの難しい点はありますか?
佐藤 僕が心掛けているのは、活版印刷の文化の間違った継承をしないこと。今って活版印刷は凸凹としたイメージが強い。でも、これって職人さんから言わせれば汚いものなんです。もともと印刷機がない時代に活版印刷が目指していたのは、凸凹がなく文字をいかにきれいに印刷をするか。圧力を掛けずにどれくらいきれいな文字を出せるのかっていうこと。それをわざわざボコボコにすると嫌がる職人さんもいるんです。だから僕の場合は、「貸出カード」のように古いデザインを意識したものはあまり凹まさず、当時に忠実に近付けているんです。

一方で、新しいものとして凸凹だからできるデザインも取り入れたい。今は活版印刷も技術が進歩していてイラストも簡単に印刷出来る。たとえば「コーヒーフィルターカード」(メイン画像、ギャラリー画像を参照)は、豆の膨らみを出すイメージで凹凸を強めに刷っています。しかも、わざとかすれさせて、6回ほど印刷を重ねることでコーヒー豆の焙煎感みたいなものを出している。そうすると、濃いところがあったり、薄いところがあったりと、1枚1枚ちょっとずつ表情が違う。そういう細かいところまで、せっかくなので楽しみたいですね。

そういう意味で、活版印刷はわりと自由なんです。僕の中では半プロダクト。凸凹が出せるから表現できることの幅が広い。事務所の壁に僕がデザインした「コンセントカード」を貼っているのですが、この間、職人さんが一生懸命そこにコードを差そうとしてて。ポストカードとわかり困惑してました(笑)。

──子どものいたずらみたいですね(笑)。ほかにも代表的なアイテムはありますか?

佐藤 ロングセラーは「白ヤギレター」です。新局紙という紙を使用しているのですが、「おいしそうな紙だな」と思ったところに着想を得て。紙を食べるといえば、童謡「やぎさん郵便」だよなと。シロヤギが食べたイメージで便箋の角をちぎっているんですが、畳んだときに噛み口がちょうど封筒にもあう。

──「白やぎレター」をはじめ、「貸出カード」「活版メッセージトランプ」など、本当にどれもユニークなペーパーアイテムですね。今後の展開はなにか考えていますか?

佐藤 「AUI-AŌ Design」でいうと、実は今年から事務所併設の雑貨屋で本屋さんをやる方向で改装しているのですが、その延長で出版社も始めてみたい。編集も含め、活版印刷も取り入れながら“本屋さんがやる地方にある出版社”をイメージしています。ゆくゆくはプロダクトにも落ちていくとよりおもしろいと思っています。

──それでは最後に。直近でイベントなどに出展する予定があれば教えてください。

佐藤 大磯になりますが、7月頃に「印刷とTシャツ」をテーマにした「AUI-AŌ Design」と「福月洋装店」のコラボ展を開催予定。事務所に小さなギャラリーがあり、そこで開催の予定です。生まれ育った場所というのもあるけれど、大磯は自然豊かで本当にいいところ。僕は大磯に恩返ししたい気持ちもあるので、今後も大磯を広めることも基軸にやっていきたいです。

文房具ギャラリー

紙ふたシール(左)
昔懐かし牛乳瓶のふたをイメージしたレトロなシール。「シロヤギ乳、黒ヤギコーヒー乳、フツーノ牛乳の3種があって、フツーノ牛乳をみんな“フルーツ牛乳”って読むだろうなと思っていて。それがウケて3つ買ってもらえたらいいですね(笑)」と佐藤さん。右はインタビューに登場した「コーヒーフィルターカード」。

貸出カード
好きな漫画や小説の題名を書きたくなる「貸出カード」。「まさにその辺が着想点でした。貸出カードはかつて活版印刷で刷られていたんです。最近は、バーコードになってしまいあまり見かけないですが、本好きの人は好きだと思います。本の貸し借りでメッセージカード代わりに挟んだらおしゃれですよね」(同上)

文字の贈り物 ろうそく(右)
人気のバースデーカード。「相手の年の数だけろうそくを塗ってもらい、100本あるので100歳目指しましょうというのがコンセプト。一つひとつ塗り方を変えたり、おばあちゃんにあげて1枚額に入れて毎年1つずつ塗っていたりする人も。手書きの文化を残したいのでバースデーカードを作りたいけど、文字書くのって大変。これなら塗るだけで、ありがとうが伝わるじゃないですか。似たようなアイテムで、限られた文字数しか書けない文字数限定一筆箋というのもあります」(同上)。左は線路が繋がる「トレインコースター 白」。

活版メッセージトランプ
手書きの文化継承を残したいという思いが込められら「活版メッセージトランプ」。「キングとクイーンの2種類で、普通のトランプの場合武器を持っているけれど、こちらは鉛筆と丸まっている紙になっています。手書きへの思いを込めました」(同)

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