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物語のある、ニューフェイスな文房具

2021.08.27 Fri

19番目の物語

老舗工房×デザイン事務所!廃棄野菜から生まれた紙の文房具ブランド「Food Paper」

取材・文:沼田佳乃 撮影:YUKO CHIBA

越前和紙の老舗工房が、まだ食べられるのに捨てられてしまう野菜や果物を生まれ変わらせた「Food Paper」。和紙の原料問題に向き合い、新発想から生み出された紙の文房具ブランドは、アップサイクルな視点が時代の空気感にぴったりマッチします。

アップサイクルな視点から生まれた野菜×和紙の文房具

2020年に福井県で誕生した「Food Paper」。創業100年を誇る越前和紙の老舗工房「五十嵐製紙」の伝統工芸士・五十嵐匡美さんと、福井県鯖江市を拠点に産地の未来を醸成するプロジェクトに携わってきたデザイン事務所TSUGIの新山直広さんがタッグを組んだ紙の文房具ブランド。捨てられてしまう運命の野菜や果物を再利用し、アップサイクルな視点で作り上げた「Food Paper」は、見た目の面白さもさることながら、私たちの生活意識を変えるような可能性を秘めています。ラインナップは、カード、ノート、サコッシュ、小物入れ、ストッカー。日々の徒然を書き留めるノートにしたり、大切な人へのギフトにカードを添えたり、旬の野菜や果物で作られる紙文具を日々の生活に取り入れてみて。

和紙業界の問題に向き合うことで見えてきたものとは?

画像提供:Food Paper
画像提供:Food Paper

「五十嵐製紙」の伝統工芸士・五十嵐さんと、「TSUGI」の新山直広さんにお話しを伺いました。

──「Food Paper」は、越前和紙の老舗工房「五十嵐製紙」が手がける紙の文房具ブランドということですが、どのような経緯で誕生したのでしょうか?

五十嵐 五十嵐製紙は、ふすま紙や壁紙をメインにすいている越前和紙のメーカーです。しかし、昔ほど需要がなくなってきているのが現状で、新たなチャレンジをしたいと思っていました。そんなとき、TSUGIの新山くんとお仕事をご一緒することがあり、デザインの相談をしたんです。

新山 五十嵐製紙さんとは僕らのイベントに出店いただくなどもともと面識がありました。中川政七商店が福井県で開催した「経営とブランディング講座」で再会したとき、プログラムのひとつにデザイナーとメーカーがタッグを組んで商品を発表するというものがあり、改めて何をすべきか一緒に考えてみることにしたんです。

リサーチしていく中で、注目したのが五十嵐さんの既存商品の珪藻土やホタテをすき込んだふすま紙でした。発想がユニークだし、珪藻土は吸湿性がアップし、ホタテはシックハウス症候群を軽減するなど、何かをすき込むことで新しい機能性を持たせられるのは和紙の可能性だと感じたんです。

そんな僕を見て、五十嵐さんが引っ張り出してきてくれたのが、次男・優翔くんの自由研究でした。土の中で育つ野菜で紙を漉くという研究テーマのもと、キャベツ、にんじん、ピーナッツの皮など色んな野菜で空いた紙がずらり。これが本当に、鳥肌が立つほど凄くて!松葉は短繊維で紙がボロボロになりやすいとか、逆に里芋の茎は強繊維で紙として成立するとか、書きやすさや耐水性も調べていて、震えるわけですよ。これしかないと。

この研究をブラッシュアップしたのが「Food Paper」です。“廃棄野菜で作る”というアップサイクルの視点が今の時代に響いたのか、セミナーで最優秀賞をいただき、2020年2月に開催された中川政七商店主催「大日本市」でも注目を集め、いろんなメディアに載せていただけるようになりました。

野菜と果物からできたサコッシュ(茶)

──それでは改めて、「Food Paper」のブランドのコンセプトを教えてください。

新山 “廃棄される野菜や果物から作られた紙文具ブランド”です。と言っても、最初は“課題をどう解決するか”という走り出しでした。和紙業界をリサーチしていて、いちばん問題だと思ったのが原料でした。和紙の主原料であるコウゾ、ミツマタ、ガンピという木の皮の産出量が全盛期の1.2%まで落ち込み、トロロアオイという繊維と繊維をからみ合わせる材料も茨城が一大生産地なのですが廃業寸前という……。自分の問題意識としては五十嵐製紙さんのブランディングよりも、製造体制をどう確立させるか、材料調達をどう解決するかをやらないと……と思った次第です。

循環型未来に向けて。紙作りもサステナブルな新時代へ

──アイテムについても教えてください。商品自体のデザインは、新山さんが考えているのですか?

新山 商品設計は五十嵐さんと僕で協働で行っています。僕の役割は、コンセプトやネーミング、ロゴを考えるなど、ブランディングのコントロールをすることです。なるべくシンプルにしたいという思いから、ネーミング、ロゴ辺りはド直球な感じにしました。

五十嵐 やっぱり、ブランドのロゴマークにしても、新山くんがいいものを作ってくれたので、まずそこから目に入ってもらえて、ストーリーを説明していくとすごいっていってもらえる。うちの技術だけでは「Food Paper」は成り立たなかった。本当に彼の力のおかげです。

新山 いや、僕が頑張ったのは見つけたことです。優翔くんが取り組んだことを見つけられた。本当に鳥肌が立ちましたから。

野菜と果物からできたノート(左がにんじん、右がみかん)

──さまざまな野菜や果物で、紙のアイテムを作られていますが、どのように野菜や果物を選んで和紙にしているのでしょうか。

新山 コマーシャル的には「旬の紙ができました!」というのが面白いなと思っていて。春だったら新玉ねぎ、秋はぶどう、冬ならみかん……、そのとき採れるものから作ろうと商品計画し、それぞれの季節の野菜や果物から紙に適したものを絞っていきました。

五十嵐 実際にスタートしてみたら、カット野菜工場にはいつでも同じ素材が出ることがわかって通年になりましたが、ぶどうやみかんは旬の時期に量産するようにしています。

──野菜や果物を使い和紙にする上で、通常の和紙との製作工程の違いや、大変な部分、こだわりなどありますか?

新山 端から見ていると配分量の調整が非常に難しいのではないかと思います。例えば、にんじんだったら100あるうちの何%を配合すれば紙として成立するのか……。素材によって繊維の長さも特性も違うので、絶妙な配合でやってのけるのは五十嵐さんの経験値なのだと思います。

五十嵐 確かに、仕上がり感の調整が難しいのはありますね。実は、同じ玉ねぎでも、ノートとメッセージカードとでは刻む大きさをちょっと変えているんです。紙の厚さも全然違ったりする。ストッカーはある程度分厚くないとへたってしうし、メッセージカードに玉ねぎのゴロゴロとした大きなカットがあると気になるので細かくする。機能に対していちばん適切な厚さを選ぶなど、見え方として入れる量を判断しています。そこは工夫しているポイントですね。

野菜と果物からできたメッセージカード(手前からごぼう、キャベツ、ぶどう)

──具体的に、アイテムについて教えてください。

新山 ラインナップは、野菜&果物が9種。メッセージカード、ノート、サコッシュ、小物入れ、ストッカーの5アイテムで展開しています。反応がいいのは、玉ねぎ、お茶、ごぼうですね。ぶどうがいちばん人気ですが、生産量が決まっているので欠品しがちなんです。

五十嵐 アイテムとしては、ノートとメッセージカードがよく売れますね。それぞれ特徴があり、ノートはギフトで買われる方も多く、おじいちゃんやおばあちゃんがお孫さんに買われるシーンもよく見られます。メッセージカードはインクジェットプリンターも通るので名刺にもできて汎用性が高いのが魅力です。

ライフスタイルに寄り添う存在に。和紙の新たな可能性

野菜と果物からできたストッカー(じゃがいも)

──今後の展開について教えてください。

五十嵐 新作として予定しているのがレターセットとポチ袋です。試作用の紙はすき上がっていて、サンプルを製作中。年内には販売できたらと思っています。

新山 あとは、OEMですね。実は週1〜2のペースでいろんな企業からコラボの問い合わせがあります。富山県に隈研吾さんが設計した「ヘルジアン・ウッド」という施設があるのですが、その内装材で彼らが育てているハーブを使ったパーテーションを納品したこともあります。あとは、大阪に「かはん」というお菓子屋さんがあって、お茶の葉っぱをすき込んでパッケージにしたりもしています。自社ブランドだけで売ることのも大事ですが、OEMを通して、こういう紙の可能性があるということを世間に広めつつ、いろんなコラボにつなげていきたいですね。

それから、このプロジェクトの課題だった原料問題についても、究極は野菜がコウゾに取って代わる可能性もないことはない。里芋なんかいいと思うんですがどうですか?

五十嵐 そうですね。里芋は100%でいけると思います。丈夫だし、艶やかというかフラットな感じで、和紙と遜色ない仕上がりになります。

わたしは、見た目の面白さも大事だと思っていて、「Food Paper」を見たり触ったりすることで季節を感じてもらったり、廃棄するものを入れることで食材の買い方を考えてもらったり、その人たちの生活も少しずつ変えていけるような存在になれたらいいなと思っています。

新山 あと、僕の野望で……、世の中の紙って洋紙と和紙のふたつしかないのですが、第3の紙みたいになるといいなと思っていて。実際、LIMEXという石灰石からできた紙が第3の紙と言われているんですが、それと同じポジションまで引き上げられるんじゃないかという希望を持っています。

そして、究極は食べることができたらいいなと(笑)。紙を食べるなんて変な話ですが、フリーズドライみたいな感じで、お湯をかけたらオクラ味とか。紙なのか野菜なのかわからないくらいの領域まで持っていけると面白いですよね。

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