• はてなブックマーク
  • RSS
  • Line

物語のある、ニューフェイスな文房具

2022.01.27 Thu

最上のミニマル雑貨!新発想×削ぐで生まれる、プロダクトデザイン会社発の「SOGU」

取材・文:沼田佳乃 撮影:YUKO CHIBA

大阪を拠点とする少数精鋭のプロダクトデザイン会社「Y」が、ユニークな発想で生み出すデザイナー向けの雑貨ブランド「SOGU」。「こんなものがあればいいのに」というアイデアを基点に一切の装飾を削ぎ落としたプロダクトは、あって然るべきというほどの完璧な脇役として洗練された空間へとアップデートしてくれます。

プロダクトデザイン会社が手がけるミニマルな雑貨

「DESIGN , MAKE , MARKET」をテーマにしたプロダクトデザイン会社「Y」。長らく大手家電メーカーでデザインを手がけてきた三宅喜之氏を筆頭に、2018年、デザイン雑貨ブランド「SOGU」をスタート。「デザイン事務所で使って欲しい雑貨たち」をコンセプトに、空間を美しく見せるための“超脇役”に徹するプロダクトを展開しています。極小で資料の邪魔をしないマグネット、線のようにスリムなフック、折り畳めるシリコン製のハンガーなど、「まさにこんなものが欲しかった!」というアイテムがそろい、所有欲が止まりません!

潔くムダのないプロダクトで空間をクリエイティブに

FORMLESS HANGER

Yの代表でプロダクトデザイナーの三宅喜之さんに話しを伺いました。

──まず初めにYという会社について教えてください。企業理念に「DESIGN , MAKE , MARKET」とありますが、普段はどのような業務をしているのでしょうか?

三宅 雑貨から家具ぐらいのサイズまで、消費者向けのプロダクトをよくデザインしています。「かたちを作ってください」と言われるより、「どんな商品を作りましょうか」から関与することが多いですね。

いちばんの特徴は、デザイン、製造、小売、すべてやるところ。デザインだけをしても流通がわからなかったら役立てなかったり、メーカーの難しさを理解していないと話ができなかったりする。僕は大手の電機メーカーに18年ほどいたのですが、デザインセンターという役割の中での仕事ばかり見ていたので、商品企画とか、調達とか、自分でやってみるとリアリティがある。SOGUを始めたおかげで、失敗と成功を踏まえ、自社ブランドを立ち上げる人の伴走者としても話ができるようになった。お手伝いしたい会社さんが「自社商品を作りたい”」と考えたとき、どんな悩みが出てくるのかがわかるところもYの特別なところの気がします。


──それでは、SOGUを立ち上げたきっかけを教えてください。デザイン事務所向けとは、なかなかニッチですよね。

三宅 起業して8年目ですが、最初は販路開拓も何も知らずに作ってました。鞄、ハンガー、一輪挿し……、展示会にでるとそれなりに売れる。誌面で取り上げてもらったり、有名なセレクトショップで取り扱ってもらえたり。けれど、店に頑張って売ってもらっても次に繋がらない。僕らが思いつきで作っても卸先のためにならないなとわかったんです。

ちょうどその頃に鞄の不良品を出してしまう。鞄はホックの外れにくさとか品質要求の設定が難しくて。品質目標と言うんですが、それはメーカーさんが何年もかけて作り上げるもの。僕は、メーカーのコアは発想でも製造でもなく品質管理能力だと思っているんですが、僕らにその力がなかった。

そのときに卸先の社長が叱ってくれた。「不良品を買った店に客はもう二度と戻ってこない。俺らが顧客失ったことをお前わかっとんのか!」と。涙が出るほど悔しくて。彼らは商品を届けてくれる仲間なのにと。

そこから、よくわからない商品を作るのが怖くなったんです。制作側の僕らが商品のこと、市場のニーズ、扱う店まで知り尽くし、「こういうところが大切なんです」とバイヤーさんより熱く語れないと。そうなったときに僕ら自身のことならわかる。それで理想顧客をデザイナーにしたんです。結局、自分たちがほしいものを作るのがいちばんだなと。

──コンセプトとネーミングの由来も教えてください。

三宅 僕自身が新発想・新地点が得意な人間なので、「こんな考え方の商品なかった、でもほしい」という商品ポジショニングを見つけて、その代表商品を作ることがやりたいことで。あるジャンルを話題にするときに象徴な存在を簡単に描くじゃないですか。それです。それには削ぎ落としていった方がいい。「どれだけ真似されてもこれが基本系」というところまで削いでいくのが好きで、そのスタイルをSOGUという名前に込めました。

デザイン事務所って特徴のある業界で、センスを見られるからダサいものが置けないんです。傘立てを探すのに3日間かかったり……。そういうことばかりやっていると、デザイン事務所の価値を下げないものが自然とわかってくる。マグネットがめちゃくちゃ小さいから資料の邪魔をしないとか、打合せするときの用紙がすごく整列してるとか、ハンガーに生活感がないとか、紐状のシェルフがクリエイティブに見えるとか(笑)。

主張しない控えめな存在で空間を整えてくれるから、「ほしい!ほしい!」となる。存在を主張する付け加えたようなデザインだと「この事務所はこんなデザイン好きなんだ」と伝わってしまうことがある。だから僕らが選ぶのは超脇役に徹するもの。目立たないけれど、デザイン事務所の人たちならわかる。それを作るのがSOGUのコンセプトです。

素材へのこだわりはありません。形を作るのは手段であって、アイデアの方がもっと強いと思っているので。お金がないから金型のいらない板金を曲げただけとか、紐も切ればいいし。ただ、それがフィットしている。何もやらないことを価値としている理想顧客だし、何もやらないことが自社的にもありがたい。その辺はかなり戦略的に考えて、道筋が通るところを歩いています。

ブランドの奥行きを演出するアートなパッケージ

──商品自体はミニマルですが、パッケージはまた違ったデザイン性があります。

三宅 無味無臭なプロダクトなので、そこは捻りをいれて。アート写真を撮ってくださいとオーダーしています。店頭に並んで美しいパッケージであることも意識していますね。あるバイヤーさんから「ストック感がいいね」と言われて、いい言葉だなと(笑)。

──パッケージも自分たちでデザインされているのでしょうか?

三宅 パッケージの立体形状や構造などは自分たちで考えていますが、平面のグラフィックは信頼できるグラフィックデザイナーとの協業で行っています。SOGUの立ち上げに際して、使ってもらいたい目の肥えたデザイナー方々に惚れられるレベルにするには自分たちで力不足だと感じたので。パッケージで世界観が変わるじゃないですか。SOGUは、使用事例の写真は静かにして、イメージ写真はキャッチーな背景を使用している。そこでブランドの奥行きというか、「こいつらアートも好きなんだろうな」と感じてもらう。その辺りがミュージアムショップに入れてもらえる理由だと思います。そのずらし方も理想顧客が自分たちだからわかる。

ブラッシュアップ=削ぐことで新しい製品が生まれる

5° SHELF

──雑貨や文房具はどのように発想して、生まれるのでしょう?専任の担当者がいるのですか?

三宅 アイデア出しからブラッシュアップまで社員3人でやっていますね。同じスキルを持った人間の集まりなので。

──意見がぶつかったりはしませんか?

三宅 むしろ効率的です。3人いてさらに“削げる”ことに気づく。それは、SOGUというコンセプトがあるから。付け加える方向だと意見があわない。

──かなり無駄のないミニマルなデザインが特徴ですが、こだわりを教えてください。

三宅 破綻がないこと。「やりたかったけど、できなかったんだろうな」というのが僕らデザイナーは大嫌い。例えば、ペンを置く「5° SHELF」はくすぐるポイントがあって世の中の板金製品は塗装するときに吊るための穴が空いているんです。これってデザイナーの意図があるわけではなく、製造工程やコストダウンのために仕方なく存在する。これをSOGUがしてしまうとファンが減る。穴が空いていたら100円でしか買わないけど、穴がないから1000円で買う。値段より破綻がないことを選ぶ。そういう人たちに向けて作っています。

デザイナーを惹きつける、“存在感”を隠すプロダクト

PAPER SERVER A4

──思い入れのある商品を教えてください。

三宅 自分が使っていて嬉しいアイテムは「PAPER SERVER A4」。紙を紙の塊としてしか認識していない。こういう空間がいいですよね。最初、白紙を入れることを想定して100枚程度を収納できる商品を発売したんですが、「コピーの裏紙を入れたい」と言われて、250枚程度入るバージョンも追加しました。「500枚は?」って聞かれたんですが、それは景色が綺麗じゃなくなるからとお断りして(笑)。

φ4.5 MAGNET

「φ4.5 MAGNET」は、最もSOGUらしいアイテム。こだわりは資料の邪魔をしないこと。小さいマグネットが欲しいけど透明樹脂が余計だったり、極小でも取手がなくて外しにくかったり。それなら取手をマグネットの内側に入れてしまおうと気づいたんです。3年以上の試行錯誤の後、ネジを活用することに気がついたんですが、満足のいくサイズがなくて特注にしたのですがそれがよかった。マグネットを忘れるくらいの存在感になってくれました。

SOFT LOOP SHELF

ぶっ飛んでいるのは「SOFT LOOP SHELF」。うちの物袋卓也というデザイナーが、棚を見ていて、棚を構成するには何が必要かを考えて思いつきました。ある日、事務所に行ったら本が壁に置いてあって(笑)。おもしろくて作っていますが、これがSOGUの発想の幅をみせてくれてる。「紐ですよね」って言われるけど、「紐」です(笑)。あの幅でちゃんと接着するのが難しい。これが空間をクリエイティブにみせてくれます。


──今回取材させていただいたのも、デザイン事務所「TSUGI」の新山さんが別の企画でアイテムを推薦していたことがきっかけです。実際に商品を使われたデザイン事務所の方々からの声があれば教えてください。

三宅 「存在感がないのが価値だよね」と言われましたね。ありがたいことに理想顧客が友人たちなので、こんなのほしいなって気軽に言ってくれるのが嬉しいです。あと、デザイナー向けと言っていますが、それに共感する人は当然いて。でも言い切るのがおもしろい。ちょっと挑戦状を叩きつけているんです。展示会で「デザイナー向けの商品を作っています」って宣伝すると、「あん?俺デザイナーやけど?」と話を聞きにくるんです。話終わる頃には、「確かにな」って仲良くなってる(笑)。調査に来た人たちが楽しんで帰ってくれますね。

掛橋のようにプロダクトに繋がりを持たせて……

──新商品の予定はありますか?

三宅 何十案も検討していますが、ほとんどはボツになってますね。SOGUとして出したいと思えるものに達するのが難しいんです。うちのブランド論ですが、ブランドは思い込み。SOGUで求められてるのは、どれだけ今までになかったか、これ以上削げないってところまでいけてるか。その両方がないと新商品として出したくないんです。

──なるほど。今後やりたいことはありますか?

三宅 繋がりのあるものを増やしていくこと。これも卸先の方から教えてもらったんですが、「おもしろいピン芸人はいっぱいいるけど特徴が違いすぎる。好きなピン芸人を見に劇場に行ったら、ほかのピン芸人もおもしろかったっていう方がいい」と。確かにそう。見に行ったら好きなものに出会う方がいいし、あれこれそろえてだんだん自分の空間が好きになる方が幸せで。それが少ない店でできた方がいい。その辺りを意識して、離れ小島ばかり作らず、島と島の間に橋をかけようか。もう少し埋め立てようかと、そんな感覚です。あと、最近、クラファンを始めたのですが、これがおもしろい。やれることが広がりそうです。

読込中...

Follow us!

SNSで最新情報をCheck!

Photoshop、Ilustratorなどのアプリの
使いこなし技や、HTML、CSSの入門から応用まで!
現役デザイナーはもちろん、デザイナーを目指す人、
デザインをしなくてはならない人にも役に立つ
最新情報をいち早くお届け!

  • Instagram