第3回 他社にはない強みをひと言で伝える | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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中堅、中小企業のサイトでも使えるWeb企画
ビジネスを助けるサイト運営のノウハウ

加藤洋一
(株)ユニークセリング・プロポジション
url : www.katoyoichi.com
mail : info@katoyoichi.com
広告制作会社専門コンサルタント、ブランディングブログアソシエーション主宰。Web制作会社を経営した経験をもつ。自らが実践した下請けに一切頼らない経営ノウハウをコンサルティング。業績を大幅アップさせている。


第3回
他社にはない強みをひと言で伝える
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この連載では、大企業と違ってWebサイトにかける潤沢な予算がない中堅・中小の会社でも、
独自の強みを生かしたWebサイトの使い方をすれば十分に勝負できることを、
実践的な手法を交えて紹介していく。
今回のテーマは、「他社との違いは必ずある。そこに光を当てることこそWebサイトの役割である」
ということについて解説する。
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数あるサイトの中から選ばれるには?

他社にはない強みを徹底的に掘り下げなければならない

この稿を読んでいるあなたに質問がある。クライアント企業のWeb制作を請け負うにあたって、次の3つの質問に対する答えを引き出せているだろうか?

1.クライアント企業の「強み」を理解しているか?
2.1の内容に加えて「他社にはない強み」を理解しているか?
3.2までに答えられた内容を、顧客に「わかりやすく」「簡単」に伝えることができているか?


近年のようなインターネット普及による情報化社会で、Webサイトが購買行動に及ぼす影響がますます強くなってきているのは言うまでもない。そして顧客の購買行動のプロセスが、「AIDMA」※1から「AISCEAS」※2に変遷してきていると言われはじめている。

その際、顧客の行動をクライアント企業の購買に結び付けるには、先ほどの3つの質問に答えたものをWebサイトで伝える必要性がある。「強みを掘り下げる」考えてみれば当たり前のことなのだが、残念なことにすでにある情報を寄せ集めて制作されたWebサイトがいまだに多く、クライアント企業がもっている他社にはない強みまで掘り下げて訴求しているものは、まだまだ少ないのが現状だと私は感じている。


※1 「AIDMA」
顧客が購買までに起こす行動の頭文字をとったもので次のことを指す。「Attention(注意)」→「Interest(関心)」→「Desire(欲する)」→「Memory(記憶)」→「Action(購入)」

※2 「AISCEAS」
顧客が購買までに起こす行動の頭文字をとったもので次のことを指す。「Attention(注意)」→「Interest(関心)」→「Search(検索)」→「Comparison(比較)」→「Examination(検討)」→「Action(購入)」→「Share(共有)」


他社にはない強みをひと言で伝えるには?
冒頭に説明した3つの質問に答えてほしいと説明した。質問の内容を裏返せば、次の3つが重要な要素だと理解しておくことである。

1.顧客に向かって主張すべき点がなければならない。言葉を並べるだけ、言い広めるだけ、またショーウインドー的な広告、このようなことではいけない。読者にこう呼びかけるべきだ。「この企業からお買いなさい。そうすれば、あなたはこんな便益を得ることになるはずだ」。2.その主張は競合が主張していないものか、それとも主張しようとしてもできないことでなければならない。3.その主張はパワフルであり、多くの顧客をクライアント企業のほうへ引き寄せるものでなければならない。これら3つの要素を兼ね備えることによって、「他社にはない強みを伝える」ことになる。

頭に刻印させるには?
そしてこの3つを兼ね備えたことをひと言で伝えなければならない。さらにその理由も述べる。そうすればWebサイトを閲覧しに来た「見込み客」や「既存客」に強烈にインパクトを残し、他社に比べてその企業で購入する理由ができる。つまり顧客の頭にクライアント企業から製品やサービスを買う理由を刻印させることができるのである。Webサイトのコンテンツで最重要なものであると筆者は考えるのである。


クライアント企業の強みと顧客便益を結び付ける

クライアント企業の強みを知るには業務をブレイクダウンする
冒頭に掲げた3つ目の質問ともなると、たいていの場合、わからないという答えが返ってくる。実際にクライアント企業にヒアリングをしても、なかなか出てこないことが多いだろう。しかし、そこであきらめてはいけない。どんな企業にでも他社にはない強みが内包されているのだ。そうでなければ既存の顧客が買う理由がないからである。

その際に見つけるヒントとして私は【1】のように業務をブレイクダウンして強みを探すことを奨励する。実際にブレイクダウンしていくことで「ここが他社にはない強みだな」とわかることが多々あるのである。そこが見つかればしめたものだ。あとはそれをわかりやすく伝えればよい。

【1】事業を形成する価値活動とバリューチェーン(価値連鎖)(出典:「競争優位の戦略」マイケル・ポーター著・ダイヤモンド社)
【1】事業を形成する価値活動とバリューチェーン(価値連鎖)(出典:「競争優位の戦略」マイケル・ポーター著・ダイヤモンド社)


顧客便益を知るためには人間の欲求を知っておこう
他社にはない強みを伝えたところでその部分が顧客にとっての便益につながっていなければ意味がない。

クライアント企業の顧客にとっての「便益」ということは、人間の欲求を考えなければならない。消費は「欲求」を得るための手段であり、それこそが顧客が「便益」を手に入れることにほかならないからだ。人間の欲求というとこれだけでひとつの学問になるからきりがない。しかし代表的なものだけでも覚えておいてほしい。これを知っておくだけでもWeb制作時に役立つはずだからだ。

「マズローの欲求5段階説」を聞いたことがあるだろうか【2】。5段階に分類され、「階層説」とも呼ばれる。下位の欲求が充足されることにより、上位の階層へ移行するものとした考えである。「生理的欲求」から「自我(自尊)の欲求」までの4階層に動機づけられた欲求を「欠乏欲求」とし、「自己実現の欲求」に動機づけられた欲求を「成長欲求」としている。

【2】マズローの欲求5段階説(出典:Wikipedia)
【2】マズローの欲求5段階説(出典:Wikipedia)


家などの高額製品は、1.2.3.4.のほとんどの欲求を満たす製品であることがわかる。クライアント企業の製品・サービスがどの欲求を満たしているのかをぜひ考えてみていただきたい。「クライアント企業の強み」と「顧客便益」を掘り下げることによって、初めてクライアント企業の「他社にはない強み」を伝えることができるようになるのだ。


「他社にはない強み」をうまく伝えているWebサイト事例

有名なメーカーの事例
ご存じの方もいると思うが、掃除機メーカーの「ダイソン」である。日本市場においてこの企業は後発で参入し、成熟商品で価格競争が厳しいカテゴリであるのにもかかわらず、大きな成功を収めている。他の掃除機の倍近い小売価格であるにもかかわらず売れまくっている。

ダイソンの「他社にはない強み」は、使い続けても吸引力の変わらないルートサイクロンテクノロジーだ。このことを訴えるコピーを継続的にあらゆる媒体で伝えている。実際にWebサイトのトップページではFlashで使用している。現状の掃除機の問題点指摘から解決方法を伝えて、最後にこのコピーで締めている【3】。

【3】ダイソンWebサイト(www.dyson.co.jp/)
【3】ダイソンWebサイト(www.dyson.co.jp/


中小企業の事例
それでは、実際に中小企業が他社にはない強みをWebサイトで伝えているケースを紹介したい。

1. 機械メーカー
「大手にまねのできない技術とアフターサービス小ロット・短納期のニーズにおこたえします」
「特許を取得した技術を生かした、『省エネ』・『長持ち』・『手間いらず』の三拍子揃ったパーツフィーダです」
「半導体設備から自動車生産設備まで! 多種多様に取り揃え、ニーズに合わせて設計可能のクランプエレメントです」

2. カーオーディオショップ
「日本最高峰のカーオーディオコンテストでつねに上位入賞の腕」

3. エクステリア企業
「創業35年 大手ハウスメーカー地元建築店も信頼するデザインと設計力」

4. リフォーム企業
「他社とは違う! Nホーム(企業名)はこだわりの自社施工」

5. ワインショップ
「自然派ワイン在庫数中部地区No.1ワインショップ」

6. 会計事務所
「T会計事務所は、『未来を計算する』管理会計を行います」

7. 工務店
「北向きの家でも光が入る設計力」

いずれも他社にはない強みを浮き彫りにし、顧客の便益につなげてある。このようなコピーやそれを説明するコンテンツを配置することによって、顧客の頭に刻印することに成功しているのだ。

実際に4のリフォーム企業の事例を説明しよう。リフォーム業界は競争が激しい。現在の集客方法はほとんどが似たようなスタイルのチラシを配布している。これを消費者の視点から見てみると、どのリフォーム会社が良いのか違いがよくわからないのが現状だ。

そこで、「AISCEAS」でいうところの「Attention(注意)」→「Interest(関心)」部分は主としてチラシにその役割を譲り、「Search(検索)」→「Comparison(比較)」部分からWebサイトに誘引し、4の「他社にはない強み」を補完するコンテンツを読ませることに注力をしている。そして他社との違いを明確に顧客に伝えているのである。これにより顧客の頭に刻印させ、「Examination(検討)」→「Action(購入)」→「Share(共有)」部分を有利に運んでいるのである。


他社にはない強みのつくり方

だれでも簡単にできる穴埋め式ツール
クライアント企業の他社にはない強みを伝えることは重要である。しかし実際にやってみてもらうとこれが難しい。そこでだれでも比較的簡単にできるツールを用意したので説明したい。このツールは3つのSTEPからなっている。順に説明していこう。

STEP 1 …… 穴埋め作業
STEP 2 …… 編集作業
STEP 3 …… 仕上げ作業


STEP 1の穴埋め作業は、まず【4】の文脈に沿って穴埋めをする。

【4】USP穴埋め式作成法TM ※USP穴埋め式作成法TMは(株)ユニークセリング・プロポジションの正式承認を得て転載したものです。 Copyright(C) 2006 U.S.P , INC. & Yoichi Kato All Rights Reserved.

【4】USP穴埋め式作成法TM ※USP穴埋め式作成法TMは(株)ユニークセリング・プロポジションの正式承認を得て転載したものです
Copyright(C) 2006 U.S.P , INC. & Yoichi Kato All Rights Reserved.


STEP 2の編集作業は、STEP1で抽出した文脈の要点を残して「短く」「簡潔」「伝わりやすく」絞る(例:△△といった強みがあるので、□□を得ることになる。それは、◇◇だからだ)

STEP 3の仕上げ作業は、「語を置き換える」「順序を入れ替える」「リズム」など体裁を整え、キャッチーに仕立て上げる。

以上のような簡単な3つのSTEPである。実際にクライアント企業に試してほしい。

穴埋め式ツールを生かす切り口
いくら簡単にしてあるといっても最初は苦労することがあるだろう。そこで、STEP1.穴埋め作業に参考になる切り口を用意したので活用してほしい【5】。

【5】穴埋め式ツールを生かす切り口 Copyright(C) 2006 U.S.P , INC. & Yoichi Kato All Rights Reserved.
【5】穴埋め式ツールを生かす切り口
Copyright(C) 2006 U.S.P , INC. & Yoichi Kato All Rights Reserved.


それでは、実際に「7.工務店」の事例を元に、どうやって強みをつくっていったかを解説しよう。この工務店の強みは採光率をあげる設計力にあることがヒアリングによりわかったとしよう。これを【4】に埋めてみる。「この工務店で家を建てなさい~~」だれでも明るい家に住みたいわけだから便益としてはオッケーだ。しかしデザインや設計といったものは、総じて抽象的である。そこで他社にはないというところを浮き彫りにするために【5】でいうところの相対的比較を利用したのである。

実際に何度も繰り返すことによって、強みに焦点を当てるコツがわかるようになるだろう。あとは編集していき、クライアントのWebサイトに配置するだけである。


まとめ

今回説明した3つの質問に答えたものをマーケティング用語で「USP=unique selling proposition」という。1961年にアメリカにおける広告の巨匠ロッサー・リーブスがまとめたものであり、辞書にも掲載されている。何も新しい技法ではなく、古くからある広告に利用する概念であり技法なのである。このUSPの意味を私なりに解釈すると、「顧客に便益を約束すること」といえるだろう。

今回説明したUSP的な要素をぜひ、クライアント企業のWebサイト制作時に落とし込んであげてほしい。必ず結果につながるはずだ。


本記事は『Web STRATEGY』2007年7-8 vol.10からの転載です
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