第5回 他社にはない強みを掘り下げて伝えなさい! | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-

第5回 他社にはない強みを掘り下げて伝えなさい!

2024.5.17 FRI

【サイトリニューアル!】新サイトはこちらMdNについて
中堅、中小企業のサイトでも使えるWeb企画
ビジネスを助けるサイト運営のノウハウ

加藤洋一
(株)ユニークセリング・プロポジション
url : www.katoyoichi.com
mail : info@katoyoichi.com
広告制作会社専門コンサルタント、ブランディングブログアソシエーション主宰。Web制作会社を経営した経験をもつ。自らが実践した下請けに一切頼らない経営ノウハウをコンサルティング。業績を大幅アップさせている。


第5回
他社にはない強みを掘り下げて伝えなさい!
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Webサイトを成功に導くにあたって、
小手先のテクニックの追求より、見込み客への本質的なアプローチが重要だ。
今回は、ありそうでなかった「強みを掘り下げるテクニック」を紹介する。
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小手先のテクニックより他社にはない強みをアピール

SEO、SEMも大事ではあるが……
SEO、SEM、RSS、セカンドライフ……。次から次へと新しい手法が出てきている。無理もない。ネットの世界は、一般より技術革新が圧倒的に早いため、技術や考え方の陳腐化するスピードも速くなるからだろう。

広告制作会社としては、このような新しいものを取り入れてクライアントに提案していくことは確かに大切なことである。私自身もそうしているつもりだし、それが義務であるとも思う。

しかし最近の傾向を見ていると、いささか行き過ぎのような思いがあるのは私だけだろうか? 本稿では新しいものばかりに惑わされずに、本来やらなければならない重要なことを伝えていくつもりだ。

ある経営者の疑問
先日あった実際の質問である。大阪で美容室を経営されている方からだった。

「業者の人にSEO対策が重要だといわれてやってきた。確かに大阪+○○というキーワードで上位に出ているが、来店に今ひとつつながっているとは思えない。もっと来店数を増やすようにリニューアルをしたい」との相談である。

私はその相談に対して、早速彼の運用しているWebサイトを拝見させてもらった。確かに「大阪+○○」で検索上位に出ている。そこからの導線を意識してWebサイトのトップページを見たところ、一目で理由がわかった。見込み客に対して浸透させて牽引する力が弱いのである。したがって、これらを強めなければならないとアドバイスしたのだ。

Webサイトにおける浸透率と牽引率
浸透率とは、広告活動を行って見込み客の頭にどの程度浸透したか? ということを表す指標である。牽引率とは、その浸透したメッセージが製品やサービスのほうへ引き寄せているか? の指標である(ロッサー・リーブス著「宣伝術」より引用)。

このふたつの指標をわかりやすいTVCMの例で説明すると、浸透率はさしづめ「あのCM見たことある」、牽引率は「あのCMを見たので購入した」という性質のものであろう。たとえば浸透率は、100人の視聴者がいて80人が「見たこと(記憶している状態)がある」とすると80%。そのうち見たことがあると答えた人の中の20人が購入したとすると牽引率25%ということになる。

中小企業には、このような調査をすることは難しいかもしれないが、このような力学があるということを覚えておくだけでも役立つことだろう。もちろんWebサイトの場合もTVCMと違って能動的な媒体ではあるが、他の広告媒体と同様、このような力学が働いていると私は考えるのだ。

制作会社としていちばんやらなければならない重要なこと
極端な話、SEOやSEM、あらゆる施策で引っ張ってきても、浸透率が乏しく牽引率が0というのでは話にならない。実際のところWebサイトに限らずこのような広告が数多いのが現状だ。

では、いったいどうすればよいのか? 結論から言うと、浸透率と牽引率を共に引き上げる施策としては、「他社にはない強みを掘り下げて伝える」ほかないと私は考える。以前、私はこの連載の第3回で「他社にはない強みをひと言で伝える」方法を説明した。今回は、このひと言をさらに深く掘って見込み客に伝えることを説明したい。

本稿の内容を単独で使っていただいてもよいし、セットで使ってもらってもよいと思う。セットで使えばかなり強力になるはずだ。いずれにおいても浸透率と牽引率を大幅にアップする施策となり得る。

これこそ私が主張する、広告制作会社の人に行ってもらいたいもっとも重要なことなのである。


他社にはない強みの掘り下げ方と伝え方

Webサイトの具体例
それでは実際に、他社にはない強みを掘り下げて伝えているWebサイトの事例を見ていただこう【1】。この美容院は名古屋地区の激戦区で後発参入にもかかわらず、客足が絶えない。しかも料金は周りの店より高額である。そしてこのWebサイトのアクセスログ解析、来店した方のリサーチを行ってみても浸透率および牽引率が高いことがわかった。

【1】美容室「Lian」Webサイト(www.lian-nagoya.com/)
【1】美容室「Lian」Webサイト(www.lian-nagoya.com/


前述した「他社にはない強みをひと言で伝える」に相当するのは、「90日間来店不要! 南青山『PHASE』元店長のなせる技」としてある。その下に「その秘密は?」とクリックボタンがある。そして別ウインドウで開かれたページに「他社にはない強みを掘り下げて伝える」文章がある【2】【3】。

【2】美容室「Lian」の他社にはない強みを伝えるポップアップページ
【2】美容室「Lian」の他社にはない強みを伝えるポップアップページ

【3】美容室「Lian」の他社にはない強みを掘り下げた原稿。(c)2007 U.S.P, INC & Yoichi kato All Rights Reserved.
【3】美容室「Lian」の他社にはない強みを掘り下げた原稿。(c)2007 U.S.P, INC & Yoichi kato All Rights Reserved.
【3】美容室「Lian」の他社にはない強みを掘り下げた原稿。(c)2007 U.S.P, INC & Yoichi kato All Rights Reserved.
【3】美容室「Lian」の他社にはない強みを掘り下げた原稿。(c)2007 U.S.P, INC & Yoichi kato All Rights Reserved.
【3】美容室「Lian」の他社にはない強みを掘り下げた原稿
(c)2007 U.S.P, INC & Yoichi kato All Rights Reserved.


読者の方にも浸透度をイメージしてもらいたいので一度読んでみてもらいたい。そのうえで、次のような質問をしてもらいたいのだ。「頭に残った訴求点は?」。恐らく読んだ皆さんはかなりの確率でこの美容院の「他社にはない強み」が浸透し、恐らく見込み客である方は高い確率で行ってみようかな? と牽引される文章になっていると思う。

強みに焦点を当てるインタビュースキル
「他社にはない強みを掘り下げて伝える」のイメージはつかんでいただけただろうか? それでは、実際にこの文章を起こすやり方について説明したい。大まかに段階を分けると次の6ステップとなる。

0.他社にはない強みを探す
1.インタビューシートをつくる
2.インタビューを行う
3.文字起こしを行う
4.編集を行う
5.Webサイトに設置する


それでは、ステップごとにやり方を説明していこう。「他社にはない強みをひと言で伝える」の詳細は、第3回で説明した「USP穴埋め式作成法TM」を参照していただきたい。それによってステップ0では、他社にはない強みがどこにあるのかを精査してもらいたいのである。

ステップ1は、0で抽出した強み部分をインタビューシートのように当てはめてもらい、質問の切り口をあらかじめ準備しておくのである【4】。この時点で質問の内容にそれほど神経質になる必要はない。あくまでもスムーズに質問が出せる程度のものという位置づけで十分だ。

【4】強みを掘り下げる「インタビューシート」 (c)2007 U.S.P, INC & Yoichi kato All Rights Reserved.
【4】強みを掘り下げる「インタビューシート」
(c)2007 U.S.P, INC & Yoichi kato All Rights Reserved.


続いてステップ2では、実際にインタビューを行ってもらうわけだが、ポイントとしては、電話でインタビューを行うことである。なぜならば対面式だとボディランゲージなどによる非言語コミュニケーションが入る可能性があるので、文章に起こした際に読者に伝わりにくいからだ。

もうひとつの重要なポイントがある。インタビューする相手は、強みを当たり前だと思っているので抽象的にしかとらえられていない。この点をインタビュアーが掘り下げていかなければならない。【5】をご覧いただきたい。この図は強みに対しての抽象度と具体度を梯子(はしご)を使って表したものである。いちばん上の「7.美容業界の一般的なカット技術」から掘り下げていって、いちばん下の「髪のシェイプの仕方」という抽象度の低いところまで聞き出している。

【5】強みを掘り下げる「抽象の梯子」(「抽象の梯子」は、岩波書店発行S.I.ハヤカワ著『思考と行動における言語』より引用) (c)2007 U.S.P, INC & Yoichi kato All Rights Reserved.
【5】強みを掘り下げる「抽象の梯子」(「抽象の梯子」は、岩波書店発行S.I.ハヤカワ著『思考と行動における言語』より引用)
(c)2007 U.S.P, INC & Yoichi kato All Rights Reserved.


実際に編集後の文章【3】と【5】を照らし合わせながらよく見ていただきたい。ここがもっとも重要なところである。インタビュースキルはトレーニングを繰り返すしかないが、この具体的な強みを顕在化することがとても重要なのだ。【5】をつねにイメージしてインタビューに挑んでもらいたい。

そして掘り下げるための質問のコツは、「たとえば?」「具体的には?」という抽象度を下げる質問を繰り返すことである。この質問こそが【5】でいうところの、階段を下りていく作業に相当するのだ。この作業をたとえるならば、ダイバーが海に潜って真珠を見つけるようなものであり、それを大事にもってきて磨き上げるのに似ている。あとは反復によるトレーニングしかないのでぜひ行動に移してもらいたい。

ステップ3は簡単だ。インタビューを電話で行う際に、あらかじめICレコーダーや録音機能を使っていただきたい。その録音したものを文字起こしすればOKだ。

ステップ4は、見出しとリズムを考えて編集してもらいたい。また文章を補完する図版、写真などのイメージも挿入していけばOKである。

ステップ5、最後にHTML化してもらい、トップからの導線【1】【2】のように意識して設置すれば完了である。

できた文章のチェック方法
浸透率と牽引率を本当の意味で調査するには、莫大な予算を使ってリサーチする大手広告代理店レベルでしかできないだろう。しかし中小企業においても、できた文章を見込み客に近い人を対象に数十人程度に読んでもらって、訴求したい部分を覚えているかどうか? は実行できるはずだ。これだけでもやるとやらないでは大きな違いがある。慣れてくると浸透と牽引という力学のある程度の精査はできるはずだ。ぜひ試してみてもらいたい。

繰り返すが広告制作会社の人には、クライアントのもっている本質に焦点を当ててあげてほしい。今回説明した強みを掘り下げるスキルは、そんなときに必ず役立つはずである。ぜひとも「他社にはない強みを掘り下げて伝える」を実現してほしい。

本記事は『Web STRATEGY』2007年11-12 vol.12からの転載です
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