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佐藤詩織と巡るクリエイティブな世界

2023.07.26 Wed

佐藤詩織さんと“クリエイティブな人・コト・モノ”に出会う連載

デザインスタジオが手がける活版印刷所「PRINT + PLANT」へ。リソグラフ印刷の体験も!(前編)

撮影:米山典子 スタイリスト:藤長祥平 ヘアメイク:小原愛奈

欅坂46の元メンバーであり、武蔵野美術大学を卒業された佐藤詩織さんが“クリエイティブな人・コト・モノ”に出会う人気の連載企画。第4回目となる今回は、東京・都立大学に位置するカフェショップ「PRINT + PLANT」へ。こちらは、デザインスタジオが運営し、活版印刷と植物をコンセプトにしたカフェショップ。坂の途中にあるこじんまりとしたお店に足を踏み入れると、ヴィンテージで味わい深い印刷機や植物の標本、バリエーション豊かな印刷見本などが目に飛び込み、思わず心が躍ります。前編では、本ショップのオーナー兼デザイナー、猪飼俊介さんのお話しからアナログな印刷の魅力に迫ります。

後編では、佐藤さんがリソグラフを体験した様子をお届け。7月28日(金)公開予定です。

佐藤さんが思わずたじたじ!?アナログな印刷機を初体験

佐藤 わぁ、印刷所なのに植物がたくさん飾られていますね。カフェスペースもあって、好奇心がくすぐられるすてきな空間です。お店の入り口付近に3台並んでいる小型の機械はなんですか?

猪飼 これは手動の活版印刷機です。活版印刷とは「凸版(とっぱん)印刷」と呼ばれる印刷方法の一種なのですが、版の凸部にインキをつけ、圧力をかけて紙に印刷するものです。ここには、やや小型で手動の活版印刷機と、大型で全自動の活版印刷機がありますが、どちらもローラーでインキを拾って版に塗り広げ、そこに紙を“ぶつける”ことで紙に転写する仕組みになっています。

大型の自動の活版印刷機は、ドイツのハイデルベルグ社の「プラテン」。通称は英語で風車を意味する「ウィンドミル」
製造は1950〜60年代。「いまだにこれ以上いい活版機はない」と猪飼さん。こちらの活版印刷機は鋳物製
ズラリと並ぶ活字。慣れていないと、目的の文字を探すのに一苦労……

佐藤 大きいものはまるで機関車みたい。たたずまいに迫力を感じます。

猪飼 よかったらご自身で動かしてみませんか? このハンドル1本で、車のクラッチのようにギアの動きを制御しているんです。ハンドルを握り、外側に向けて強く倒してみてください。

佐藤 やってみますね。お、重い……! ぐっ……!〈どおぉん!という大きな機械音を伴って印刷機が動き出し、紙がプレスされる〉きゃあっ!!

猪飼 ごめんなさい、驚かせてしまいましたね(笑)。インクを転写する際、紙と版には何トンもの力がかかるのですが、僕も初めて触った時はハンドルの重さや機械音に驚嘆したことを覚えています。鋳物のどっしりとした重厚感や、金属のぶつかる音や振動、紙を捌くために噴射される空気に圧倒されてしますよね。

佐藤 顔に向けて風が勢いよく噴き出してきて、びっくりしました……。

リソグラフの機械。実は小学校や公民館などで昔から使用されている

猪飼 今日扱うのはその奥にあるコピー機のような機械ですから、安心してくださいね。これは理想科学工業の印刷機で、リソグラフを印刷するものなのですが、孔版印刷(こうはんいんさつ)という印刷方法です。原稿をこの機械でスキャンすると、版となるスクリーンに穴が開けられて版が作成されます。その穴にインキが通って紙に転写されるんです。

佐藤 なるほど、シルクスクリーンと同じ仕組みなんですね。活版印刷とリソグラフは、どのように使い分けているんですか?

PRINT + PLANTに置かれた見本。カラフルで見ているだけでも楽しくなる
PRINT + PLANTのショップカードは活版印刷で作られている。画像提供:PRINT + PLANT
PRINT+PLANT独自の「特殊活版」。こちらは、複数のインキが混ざる前に印刷する「ランダム印刷」。画像提供:PRINT + PLANT
版のズレやかすれ、鮮やかな発色はリソグラフならではの醍醐味。画像提供:PRINT + PLANT
リソグラフで制作された、第16回藝大アートプラザ大賞のビジュアル。画像提供:PRINT + PLANT

猪飼 うちの活版印刷機では、普通の活版印刷はもちろんのこと、インキの色をランダムに出現させたたり、雄型と雌型を使って紙に凹面を表現したりとさまざまな工夫をして特殊な印刷方法を開発してきました。この活版印刷機はシンプルな構造で壊れにくいのが特徴ですから、インキに粉や液剤を混ぜたり版を工夫したりするような過酷なチャレンジにも耐えうるんです。一方のリソグラフは、活版のように亜鉛や樹脂製の版や活字などを準備する必要がなく、コピー機を使う感覚ですぐに製版できるので便利ですが、版がズレやすいなどの癖もあります。とはいえインキの発色がほかの印刷機に比べて非常に鮮やかで、特に蛍光色の発色は特別な魅力があると僕は感じています。

佐藤 なるほど、それぞれ得意とすることや表現できることが違うんですね。

デザインスタジオが運営する、活版と植物のカフェショップ

佐藤 猪飼さんは、ずっとアナログな印刷の世界に関わってこられたのですか?

猪飼 いえ、僕はグラフィックデザイナーとして、むしろデジタルな世界に身を置いていました。ただ、活版印刷にはずっと興味があって、ワークショップに参加してからはさらに関心が深くなったんです。デザイナーとして会社に勤務する傍ら手動の活版印刷機を購入したり、閉業される活版印刷店から機械を譲っていただいたりしているうちに設備も充実して、こうして独立してお店を開くまでになりました。

佐藤 そうだったんですね。普通の印刷所ではなくて、植物をたくさん置いているのはどうしてですか。

猪飼 作品作りなど何かを物的に表現するにあたって、植物からの恩恵を受けているという想いが強かったことが理由の一つです。紙も植物で作られているし、リソグラフのインクは大豆や米からできています。家を建てたり、銅像を作る時にも必ず木が必要ですからね。

佐藤 そうした想いは、店内の植物や植物の作品からもうかがえる気がします。カフェも併設されていて、その取り合わせが面白いですね。

猪飼さん自身が採取し制作した「植物標本」。季節に合うものをチョイスしてショップに飾っているそう
水槽にはいくつもの植物が浮かび、眺めているだけで癒される

猪飼 ありがとうございます。カフェを設けたのは、印刷所である以前に交流の場所にしたいという思いがあったからなんです。現代において、活版印刷はもはや必要のない印刷技術と言えますよね。それでも僕はこのアナログな印刷が好きなんです。そんな印刷が生き残るための道は、もはや「かっこいい」とかってことなんだろうなと思うんですよ。かっこいい場所で、面白い人たちが、アナログ印刷で遊んでいれば、見ている人が一緒に加わりたくなって、そこに価値を感じてもらえるんじゃないかなって。

佐藤 そうすると、カフェだけの利用もできますか?

猪飼 ええ、大歓迎です。実際にそういう方もいますよ。

佐藤 印刷機や植物に囲まれてお茶できるなんて、なんだか不思議で楽しい場所ですね。ところで猪飼さんはデザイン事務所の代表でもあるとお伺いしたのですが、こちらのお店との関係性はありますか。

猪飼 組織の構造としては、僕らのデザイン事務所「ALBATRO DESIGN」の中に、アナログ印刷の専門家集団がユニットになった印刷部門のPRINT+PLANTがあるというイメージです。デザインから印刷まで一気通貫で仕上げることができることがクライアントにとって大きな利点になっているのかなとも思っています。

佐藤 ALBATRO DESIGNではどんなことを手がけているのでしょうか。

猪飼 グラフィックデザインを中心に幅広いデザインを請け負っています。僕らが意識しているのは「デジタルとアナログの間を行き来する」こと。例えばデジタルの仕事の依頼でも、活版で刷ってからスキャンを試みたりすることで平面の世界に深みが出したりしていて、そうした試みに特徴があるのかなと感じています。

後編では、佐藤さんがリソグラフを体験した様子をお届け。7月28日(金)公開予定です。

PRINT + PLANT /  SHOP DATA

植物に囲まれた空間で、活版印刷やリソグラフなどの「アナログ印刷」の相談や発注が可能なカフェショップ。独自に開発した「特殊印刷」では、刷るたびに色が変化する「ランダム印刷」や、一枚の原稿におけるインキの厚みを変化させて色の濃淡を表現する「ゴースト印刷」なども人気。定期的に開催しているワークショップでは、子連れや学生、印刷好き、プロまで、幅広い層から高い注目を集めている。

カード自販機を体験中の佐藤さん。果たしてどんなカードが登場するのか……!?
複雑な立体表現ができる「立体活版」という技法を用いたアートカード。なにがでるかはお楽しみ

店内には、活版印刷の魅力を手軽に味わえるカード自販機のほか、植物をガラスの板で閉じ込めた「植物標本」、作品としてそのまま飾れる印刷見本なども販売。カフェのみの利用も可能で、「印刷所に行く感覚ではなく、気軽に行ける場所だと思ってもらえたら嬉しい」と猪飼さん。

DATA

店舗名PRINT + PLANT(プリント プラント)
住所東京都目黒区柿の木坂1-32-17
営業時間11:00〜19:00
定休日   なし(祝日の営業は事前にSNSなどでご確認ください)
アクセス東横線都立大学駅より徒歩5分
問い合わせ070-2675-5090
公式サイトhttps://print-plant.com/
PRINT + PLANT/Instagram(店舗情報)https://www.instagram.com/printplant_official/
ALBATRO DESIGN/Instagram(作例情報)https://www.instagram.com/albatrodesign/

プロフィール

猪飼俊介
ALBATRO DESIGN、PRINT + PLANT代表
1982年、東京生まれ。2008年にロンドン芸術大学を卒業し、09年 Kaikai Kiki デザイナー、ADを経てデザイン会社 ALBATRO DESIGNを設立。15年には、グッドデザイン賞 メコンデザインセレクションを受賞。16年 東京藝術大学 デザイン科 非常勤講師に就任。
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内間あやめ
PRINT + PLANTスタッフ
東京藝術大学大学院美術研究デザイン専攻修了。作家活動の傍ら「PRINT + PLANT」に勤務。
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佐藤詩織
アーティスト
武蔵野美術大学で学びながら、欅坂46でアイドル活動をし2020年にグループを卒業。現在5年間のアイドル時代のダンスや、11年間経験したクラッシックバレエを活かし、自身のグラッフィック制作や個展の開催、衣装制作に映像制作を手掛けるアーティストとして活動。ファンクラブ限定企画で日本の伝統技術を紹介する「SART TV」をスタート。体験取材を公開中。
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