元欅坂46のメンバーで、武蔵美卒の佐藤詩織さんと、“クリエイティブな人・コト・モノ”に出会う連載企画。第1回は、製本会社「ITO BINDERY」の作る、「ドローイングパッド」と「メモブロック」に注目しました。デザイナー、建築家、書道家など、数多くのクリエイターたちが愛用し、日本だけでなく海外からも高い評価を得ているアイテムです。その魅力を探るため、ITO BINDERYの伊藤雅樹社長のもとへ。
さらに今回は、ITO BINDERYのアイテムを使用して、佐藤詩織さんが作品を制作。最後のスマホの壁紙プレゼントとあわせて、作品もチェックしてみてくださいね。
“紙”を熟知したプロフェッショナル、ITO BINDERY
1938年、ノートの製本会社として、東京・江戸川区で創業したITO BINDERY。戦後の高度経済成長と共に事業を拡大するも、インターネットの登場に危機感を覚えた現社長の伊藤雅樹さんが、2008年、オリジナル製品の開発を決意しました。
プランナーの松田朋春さん、グラフィックデザイナーの則武弥さん、プロダクトデザイナーの真喜志奈美さんからなる「典型プロジェクト」に相談し誕生したのが、「ドローイングパッド」と「メモブロック」です。同製品は2009年に発売され、2010年にグッドデザイン賞を受賞しています。
現在は、「LIVING MOTIF」や「CIBONE」などでの取り扱いのほか、直営のオンラインショップには海外からのオーダーも届いているそう。そして、2023年3月、墨田区本所にある工場内にショップをオープンさせました。
「ITO BINDERYのアイテムは、シンプルで無駄がなくかっこいいというのが第一印象。鉛筆でもペンでも、文字でもイラストでも、とにかく書きやすい。紙の綴じ方やページを切り離すときもスルッとなめらかで感動しました」と佐藤詩織さん。
実際に、デザイナー、建築家、料理家など、さまざまなクリエイターたちに愛される、ITO BINDERYの紙製品。その秘密はどこにあるのか、佐藤詩織さんとともに、伊藤社長に話を聞きました。
製本会社の文化を追求し生まれた、象徴的なメモブロック
佐藤 さっそくショップの店頭で試し書きをしてみましたが、手触りと書き心地が違いますね。紙質のよさに本当に驚きました。
伊藤 ありがとうございます。佐藤さんは、普段なにかを手で書くことは多いですか?
佐藤 はい、作品作りのアイデアを考えるときは、メモパッドなどに手描きします。ただ「これがいいかも」と思っても、メモだと下描きのような印象になってしまう。だからと言って、いざ新しい紙に描き写すと、ひらめいたときのニュアンスが失われてしまうんですよね。でもITO BINDERYのドローイングパッドやメモブロックに描くと、一枚一枚がまるで作品のよう。そのまま額装してもいいかもしれないと思ったくらいでした。そもそもなぜ、オリジナルの紙製品を作り始めたのでしょうか?
伊藤 実は、最初からメモ帳を作ろうと考えていた訳ではありませんでした。典型プロジェクトの方々に、印刷物を作る工程で出てしまう紙くずを再利用して作るメモ帳を、“製本会社の文化だ”と見つけてもらったのがきっかけです。それは我々に限らず、どの製本会社でも昔からやっていたことでしたが、「その文化を追究して、例えば辞書でメモと引くと挿絵で載っているような、象徴的、典型的なものをつくりましょう」と、商品の開発が始まったんです。
それまでは長年、製本会社として印刷物を扱う仕事をしてきましたが、自社製品を手掛けるようになったからこそ、アーティストやデザイナー、建築家のようなクリエイティブな仕事に携わる方々と出会うことができました。特にデザインの要素は、工場においてもとても大切で勉強になります。
佐藤 グラフィックやプロダクトデザインのプロである、典型プロジェクトの方々と仕事をされて、どんなことが印象に残っていますか?
伊藤 試作を重ねる中、工場で働いている現場のスタッフとデザイナーの間で、意見がぶつかることも多々ありました。けれど、議論を交わしながら、本当はなにがしたいのか、なにを作りたいのかを考え、コミュニケーションを重ねていくと、お互いの仕事へのリスペクトが生まれていくんです。これがものづくりなんだなと実感しましたね。
また、デザインは単なる見た目の話ではないというのはもちろんのこと、デザイナー自身の社会への眼差しや視点、考えがとても大切ですね。アートやデザインの仕事をしている方々の細部への感度やこだわりにも驚きました。
価値を理解されているからこそ。世界から愛される名品に
佐藤 売上の半分以上が海外というほど、世界のクリエイターの方々が愛用していているそうですね。
伊藤 はい。デザインイベント「DESIGNTIDE TOKYO」への出展をきっかけに、国内外のバイヤーやデザイナーの方の目に触れる機会が増え、インテリア業界のパリコレとも評される見本市「メゾン・エ・オブジェ・パリ」には、2012年から2019年まで出展していました。海外での価格は割高になりますし、送料も加算されますが、デザイン性や機能性などの価値を理解して選んでいただけることがうれしいです。
佐藤 デザイン性と機能性をここまでのレベルで兼ね備えているメモって、実はとても珍しいのかもしれません。いくらデザインがよくても、紙質が悪いとか、切り離した端の処理が美しくないとか……。低価格であることを優先するのもひとつの考え方ですが、使われている素材や工程、その本質を知ると、価格の理由や妥当性にも納得できます。紙選びもこだわりがあると思うのですが、どのように選んでいるのでしょうか?
伊藤 使っている用紙は、世の中で一般的に流通しているもので、全国各地の製紙工場で作られています。ただ、この製品に使うのはこの工場のものだけと決めているんです。実は、同じメーカーで同じ品番の真っ白な紙でも、大量に束ねてみると作られた工場ごとで本当に微細な色の違いがあるんですよ。とはいえ、さまざまな工場で、安定して高品質の紙を製造できるのは見事な技術だと思います。
デザイナーのバランス感覚と、職人だからこそ成せる技
佐藤 あらためて、ドローイングパッドとメモブロックは、それぞれどんな工程を経て商品が完成するのか教えてください。
伊藤 ドローイングパッドは、まず、製紙メーカーより仕入れた大判の用紙を切り分け、専用機械で切取ミシン加工を行います。その後、台紙と重ねた紙束を針金で綴じ、最終的に断裁機でカットして仕上げます。
サイズはA4、A5、A6の3種類、加えてB4、A3サイズは、アメリカとショップ限定で販売しています。色展開は、白とクラフトを最初に発売して、グレー、黒が加わりました。台紙やヘッダーなどに使っている厚さ2mmの板状の紙は上製本、いわゆるハードカバーの書籍で、表紙や裏表紙に芯材として使われているものです。普段は隠れてしまう素材ですが、表に出して使っています。このアイデア、実は試作品を作った職人が考えたもので、そのまま採用になったんですよ。
佐藤 そうだったのですね。強度がしっかりとあって、とても使いやすいです。クラフトがあるところも素敵です。先ほど、工場内で断裁機で作業されている様子を見学させていただきましたが、本当に技術が必要とされる繊細なお仕事ですね。「季節や、その日の天候と湿度によっても紙のコンディションが違うから、最後の微調整は長年の感覚で」という話には驚きました。
伊藤 そうですね、特に黒のアイテムを断裁機で仕上げるときは、側面に傷がつかないよう、必ず包丁を研磨したてのものに替え、細心の注意を払って作業しています。
メモブロックを作るときは、紙の束一つひとつを丁寧に糊付けすることと、端をきれいに断裁することが製品のポイントで、やはりどちらも現場の職人たちの技術が欠かせません。B5サイズを3分割したS、M、Lの3サイズですが、典型プロジェクトのメンバーであるグラフィックデザイナーの則武弥さんが、打ち合わせのときに手書きで仕様をささっと提案してくれ、「どれも紙は350枚、高さは42mmで、8mmの台座を付けること」と指定がありました。カラー展開は、白、グレー、黒、Sサイズは赤もあります。
ちなみに、メモブロックの台紙を8mmの厚みにする仕様は、当初、断裁機が壊れてしまうので無理だろうと頭を抱えました。けれど、デザイナーは重ねる枚数は減らせないと……。ただ、難しいことだと思っていても、職人の方たちは挑戦してくれるんですよね。試行錯誤し実現できたとき、8mmの厚みにこだわるデザインの意味を理解できました。
佐藤 そのような経緯があったとは。側面から見たときの色の組み合わせやバランスが美しく、色違いをいくつか重ねて置いても素敵です。側面の触り心地や、すっときれいに紙を切り離せるのも、職人技が為せる技だったのですね。
アイテムとの世界観も統一。工場内に誕生したショップ
佐藤 ITO BINDERYのこちらのショップは2023年3月に開店されたそうですが、工場内にショップをオープンした理由を教えてください。
伊藤 実は以前から、海外のバイヤーやユーザーの方が、買いたいと直接訪ねてくることがあったので、ここをお店にしたら、お客様とよりコミュニケーションがとれるのではと考えていたんです。今回も典型プロジェクトの方々に相談して、外から機械や工場の様子が見えるような内装と、ここに合う什器をオリジナルで製作してもらいました。
佐藤 だから世界観が統一されているんですね。外観やアイテムが整然と並んだ様子が素敵です。プロダクトがかっこいいと、誰がどんな風に作っているのかもっと裏側まで知りたくなりますし、お店を訪ねて作られている様子を見ながら購入できるのはうれしいです。
伊藤 ありがとうございます。今後は、この場所をギャラリーの様に活用したり、地元の方を招いてワークショップを開催してみたり、いろいろなクリエイターの方と一緒になにかできたらと考えています。
佐藤 それは楽しみです。今日はありがとうございました。
聞き手:Naomi
ITO BINDERYのアイテムで制作した作品
《momentary and forever》× ドローイングパッド A4(上質紙・グレー)
佐藤 メモパッドのデザインのかわいさと白い大きな画面が描きたいものとマッチすると思って選びました。大きい白い画面に鉛筆で描くという、「予備校時代を思い出すような描き方ができれば!」と思って、道具は鉛筆をセレクト。やはり、白い画面と鉛筆との相性は言わずもがなよかったです。普通の紙に書くよりも決まるな、かっこいいなと思いました。テーマですが、偉大で美しいものは儚さと隣り合わせだなと痛感した、坂本龍一さんの美しく儚い瞬間を絵にしました。どうかいつまでも、この瞬間が残り続けてほしいです。
《my dog》× ドローイングパッド A5(クラフト紙)
佐藤 この紙質がメモになって出回っているところにあまり出会ったことがなく、描いてみたらどうなるのだろう?と興味があり選んでみました。ペンはオレンジ色にすることで、より紙とマッチするのではないかと思い、この色で描いています。選ぶペンの種類によっては滲んだりしてしまう紙質かな?と思っていたのですが、インクとの紙なじみがよく、こちらも描きやすかったです。そして、最近飼い始めた愛犬を描きました!この絵をもって、愛犬の絵は“初描き、デビュー”です。かわいすぎる!と連呼しながら描き終えました。
《flower》× メモブロック M(ブラック)
佐藤 黒のメモブロックはなかなか出会ったことがなく珍しかったのと、ひとつのメモブロックとしてもかっこよかったので選びました。普段花のペン画を描くことがいちばん多いです。今まで、白い紙、iPad……、いろいろなもので描いたことがありましたが、黒い紙に白いペンで描いたことはまだなかったので、初めての体験になりました。黒の紙に白いペンで描くことで、“普通に花を描くよりもあうのでは?”と思って使用してみたのですが、白いペンと細い線が映える紙質でとても描きやすかったです。
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DATA
店舗名 | ITO BINDERY(ショップ) |
住所 | 東京都墨田区本所2-16-9 |
営業時間 | 平日10:00〜17:00 ※12:00〜12:50は昼休憩 |
定休日 | 土日祝 |
アクセス | 東京メトロ銀座線「浅草駅」より徒歩5分 都営地下鉄浅草線「浅草駅」または「本所吾妻橋駅」より徒歩5分 都営地下鉄大江戸線「蔵前駅」より徒歩10分 |
問い合わせ | 03-3622-8865 |
公式サイト | https://ito-bindery.co.jp/ |
2023.04.21 Fri