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デザインの基本とメソッド+ちょこっと流行り

2025.01.14 Tue

【特集】デザインの守破離

カイシトモヤさんに聞く、デザインと色の「守破離」

著者:小林 功二 編著 イラスト:コニコ(カヤヒロヤ+高橋由季)

守破離+α]特殊加工の実験印刷
カイシトモヤさんに聞くオリジナルポスター制作の裏話

ここまでデザインの「守破離」のルールやセオリーを紹介してきましたが、ここからは実践編です。「守破離」をモチーフに、特殊なシルバーやゴールドインキを掛け合わせたり、特別な構図を組み込んだり、カイシさんがB1サイズの2種類の特大ポスターを自主制作しました。そこで「守破離」オリジナルポスターを制作するに至った経緯やデザインの意図・狙いについて話を伺いました。(聞き手:編集部) 

design-A
design-B

Q. まず、この「守破離」のポスターを制作したきっかけを教えてください
A.もともと何かのインスピレーションやきっかけがあれば、習作を作りたい欲求やその習慣があります。あとは普段の仕事ではたくさんの与件(条件)の中で仕事をするので、ときおりそのリミッターを外したくなるのも理由の1つです。今回、自分のデザインの方法論を著者の小林さんに言語的に引き出していただいたので、再び回帰的に表現として落とし込みたかったのです。

そして、なぜポスターをよく作るのかというと、自分にとってデザインの憧れの故郷は2つあって1つは音楽(CDジャケット)のデザイン、もう1つがポスターなのだと思います。前者は信藤三雄さん、後者は福田繁雄さんや亀倉雄策さんが自分にとって「デザインのめざめ」となっていて、僕に限らず多くの人が影響を受けている、みなさんデザイン史に殿堂入りしているクリエイターです。

Q. このポスターのコンセプトを教えてもらえますでしょうか
A. 拙著「たのしごとデザイン論 完全版」(エムディエヌコーポレーション)などで、グラフィックデザインは要素の関係性を定義する仕事だと伝えてきました。とりわけレイアウトはデザインという行為が象徴的に反映された仕事だと思います。決められた版面に「写真」「造形」「文字」「色」など、さまざまな要素を配置して関係性をつくりあげていくこと。今回はシンプルな文字や造形、写真などを組み合わせて、自分のデザインでどうしても滲み出てしまう「好き」の要素を追いかけてみようと思いました。これは自分を知るための習作とも言えますね。

Q. 実物のポスターでは、特殊なシルバーやゴールドを掛け合わせるなど、各所に趣向を凝らしていますが、その中でもこだわりのポイントを教えてください
A. まず「しゅ・は・り」という3要素の文字を主体に構成を考えました(図1)。画面の中に三角形を作る方法は「三角構図」と呼ばれ、絵画や写真でも広く応用されている基本の型です。「しゅ」「は」「り」それぞれの要素でも個性的なまとまりをつくりつつ、それらが画面の中で三角形の関係性をつくっていく。このまとまりのことを「ゲシュタルト(形態質)」と呼んだりします。

図1「しゅ」「は」「り」という文字を1つの固まり(要素)と捉えて構成design-A)

グラフィックデザインは平面の表現ですが、人の目の錯覚を利用して前後関係をつくることができます(図2)。複雑に入り組んだ線を脳内で簡潔に整理した結果、前後関係をつくることでシンプルな線の集まりとしてとらえるのです。これを「プレグナンツの法則」といいます。大きな面と小さな面(=細い線)の関係では協力な前後関係が生まれます(図3)。当たり前だろうと思われるかもしれませんが、これが錯覚であることにも気づかないレベルで、都合よくものを見るのが人の視覚の面白いところです。

図2 平面上に前後関係を定義して見てしまう(design-A)
図3 不安定な形は上の層に見られやすい(design-B)

写真では少し面白い試みをしています。印刷するときに「線数」という版の解像度を指定することができるのですが、牛の写真ではゴールドを47線、ブラックを175線と極端に異なる線数で指定しています(図4)。逆に木の写真ではシルバーを175線、ブラックを47線にしています。ダブルトーンと呼ばれる2版を使った写真表現でふつうは各色の線数を変えることはないのですが、実験として面白い効果が生まれています(図5)。

図4 牛の写真の線数design-A)
図5 木の写真の線数design- B)

ポスターはマクロでダイナミックな構図をつくるのも楽しいですが、ミクロに視点を変えることができるのも魅力です。亀倉雄策がデザインした1964年のオリンピックエンブレムは赤い大円の下に5輪マークが配置されていますが、これは大円の直径のおよそ100分の1、ギリギリまで近接した構成になっています。この近接による緊張感の演出は、昔も今も変わらず印刷物のビジュアルにおける大きな武器だと感じています。このポスターでの円と「り」の近接もそんな緊張感を意識しています(図6)。

図6 「り」と円の接写(design-B)

最後におまけですが、MdNロゴの配置について。なんとなく企業ロゴは4隅のどこかに置くものという先入観がありませんでしょうか。企業ロゴの配置をうまく使うと画面を効果的に見せることができます。今回はMdNロゴにもポスターの大切な構成要因として一役担ってもらいました。

ロゴの位置に注目。左側の中央上付近に設定(design-A)
通常の4隅とは別の位置に配置(design-B)

Q. このポスターを制作していて、悩んだところや迷った部分がありましたら教えてください
A. 余白が多くシンプルなデザインなので、「これで良い」と自分の目を信じることが難しかったです。あれこれやりすぎず手を止める勇気が必要だと思いました。

Q. 製版の仕組みがどうなっているか、このポスターの分版データを教えてもらえますでしょうか
A. 写真以外は基本的にベタ(インク100%)で印刷していて、3色が互いに重ならないように(ノックアウト)しています。写真だけ少し変わった分版をしていて、ゴールド版とシルバー版をネガポジ反転させて重ねています。それが違和感や幻想的な雰囲気を生まれています。

Q. 今回のポスター制作で、失敗から得た学びや新たな発見を教えてもらえますか
A. ゴールド、シルバー、ブラックと自分の中で安定して使える色を選択したのですが、色的な新しさの探索ができませんでした。もっと意外性のある色を組み合わせてもよかったかもしれません。

かなりいつも勉強になるのは、用紙とインクとの関係性です。最終的には印刷物として仕上げるのがグラフィックデザイナーの仕事なので、画面表示ではわからないことも多いので、これも知見としての学びがありました。

Q. デザイナーを目指す、もしくは続けていく上で「これはやっておいた方がいい」「経験しておいた方がいい」ということはなんでしょうか
A. とくにこれからは専門以外の経験値が大切だと思います。デザイナーだとデザインを軸足にして、他の興味や学びをどこに置いておくか。それらの掛け算によって自分のレアリティや個性を確保することが大切です。特にデザインはいろんな世界を横断して、関係性を紡いでいくことが大切だと考えています。

▶︎ 最後に、これからデザイナーを目指す人や若手のデザイナーに対して、何かアドバイスをお願いします

「好きだけじゃやっていけない」という人には「好きじゃないとやってられない」と返してあげましょう。「つくることが好き」が一生、あなたの駆動力になりますから。


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デザインの守破離 自分だけのデザインでひとつ上へ行く
 小林 功二 編著

●著者について
小林 功二 編著
編集者/合同会社ランプライターズレーベル共同代表。2000年からワークスコーポレーション発行のDTP専門誌『DTPWORLD』編集に関わり、同誌編集長を務めたほか、工藤強勝『デザイン解体新書』の編集・聞き書きを担当。2006年、毎日コミュニケーションズ(マイナビ出版)発行のデザイン・DTP専門誌『+DESIGNING』に創刊より参加し、現在も企画、編集、執筆を担当する。共著本にグラフィック社発行『書体のよこがお』がある。2014年、合同会社ランプライターズレーベルを設立。雑誌、書籍、写真集、カタログ、パンフレット等エディトリアル全般の企画・編集・制作および企業のプロモーションツールの企画・制作、プランニングを行う。
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