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「MdNデザイナーズファイル」クリエイターインタビュー

2022.02.21 Mon

「MdNデザイナーズファイル2022」発売記念 クリエイターインタビュー

花原正基さんに聞く「MdNデザイナーズファイル」の装丁デザイン

構成:編集部 文:馬場澄礼

「MdNデザイナーズファイル2022」連動企画、クリエイターインタビュー第三弾は、昨年に引き続き本書の装丁デザインを担当していただいた花原正基さん​​。「人それぞれの多様な未来を想像できるものにしたかった」と語る花原さんですが、2022年版のカバーに込められた意図や制作の背景とは? 現在ニューヨークを拠点に活動されている花原さんに、渡米してからのご自身の変化と合わせてお話しいただきました。

<プロフィール>
クリエイティブディレクター
資生堂で17年間、同社の広告とブランディングを手掛ける。2019年に渡米し、世界88カ国で展開されているグローバルブランドSHISEIDOのCDとして活動。資生堂退社後、’22年1月にニューヨークにて自身のデザインファーム 「SOAR NY(ソアーニューヨーク)」を設立。
主な受賞歴:NY ADC金賞、ONE SHOW金賞、JAGDA新人賞、D&AD New Blood審査員など。
「SOAR NY」Webサイト:https://www.soarnewyork.com/

誰にとっても心地のよいデザインを考える

―― 2019年に渡米されて、今年の1月にはニューヨークにデザインスタジオを開かれたと聞きました。日本でお仕事をされていた頃と比べていかがですか?

花原正基さん(以下、花原):言語の違いはもちろんですが、コロナ禍でリモートワークがメインになったり、僕自身も独立してデザインスタジオを立ち上げたりと、何もかもが大きく変わっています。特に渡米してからは、アメリカで働くということと、日本で働くということの差をすごく感じていますね。

アメリカにはいろんな人が居て、みなさんバックグラウンドや価値観が違うので、「普通はこうだよね」という感覚があまり通じない。仕事を進める上でも、この表現は文化的にOKとかNGとか、見え方が綺麗とか綺麗じゃないとか、捉え方は人それぞれ。答えがないですし、「そういう視点もあったのか」と日々学ぶことが多いです。

―― 資生堂ご在籍中は、グローバルブランドSHISEIDOのCD(クリエイティブ・ディレクター)をされていたそうですが、視野がさらに広がったのでしょうか。

花原:日本で広告やブランディングを手掛けていた頃は、アメリカやイギリス出身の同僚に「こういう表現をすると、欧米人からはこんな反応が返ってくるかも」と意見をもらうようにしていたんです。僕は海外経験が少なかったので、チームメンバーの感覚を頼りにしていました。

花原:アメリカに来てからは、文化的な背景や価値観の違いを生身で感じられるようになったので、「これは不適切だな」とか「アレンジすればもっと刺さりそう」というポイントが掴めてきたし、自分の表現にもより生かせるようになってきたと思います。

―― デザインの現場で、具体的にどのような変化が生まれていますか?

花原:分かりやすい例を挙げるなら、日本ではクリスマスの時期に「メリークリスマス」という表現を使うけど、アメリカ、特にニューヨークではあまり使わないんです。クリスマスはキリスト教のお祝いごとなので、宗教のダイバーシティの観点から「ハッピーホリデーズ」と表現するんですよ。化粧品のギフトボックスのデザインを担当するときなどは、特に気を使います。

―― ダイバーシティを重視しているのですね。

花原:そうですね。使用する色も、「赤や緑はクリスマスに見えるからやめよう」と言う人も居れば、「青は特定の宗教のお祝いごとに結びつくから避けたい」と言う人も居て、何色を選べばいいんだろうと悶々とすることがありました。

花原:僕はそれから冬のジェネリックなもの、ホワイト、シルバー、ゴールドを意図的に使うようにしています。誰もが「雪は白いもの」という共通の認識を持っていますし、冬を連想させるこの三色なら問題なく使えることに気付いたんです。これは、誰にとっても心地のよいコミュニケーションをデザインするために大切なポイントですね。

日本に居た頃と比べて、自分の表現が大きく変わったわけではないのですが、デザインを仕上げる過程には変化が生まれました。

“未来への希望を感じるあいまいな光”を具象化する

―― 「MdNデザイナーズファイル2022」のデザインにも、花原さんご自身の変化が反映されているのでしょうか。

花原:知らず知らずのうちに反映されていると思います。今回は、ブリーフィングの時に編集者さんからいただいた「再出発」や「ぼんやりとした、でも未来への希望を感じるような光」というワードからインスピレーションを受けたので、その感覚をデザインに落とし込むチャレンジをしました。

―― 写真の使い方がとても印象的です。

花原:今年の世相を表すような、見えかけている「あいまいな光」を形にするために、光を感じられる写真を集めて、どうすれば「明るい未来が始まりそうな予感」を抱いてもらえるのかを考えました。

別のデザイン案では、山の向こう側から朝日が昇ってくる写真を使っていたのですが、見る人によっては「これは日本じゃないな」とか「どこの国だろう」と余計な情報を与えてしまう気がして。もっと受け手の想像に委ねる形にしたかったので、大きな写真のごく一部だけを使うことにしました。

今回は「正解」を描くのではなくて、人それぞれの多様な未来を想像できるデザインにしたかったので、抽象的な写真の方がしっくりきたんです。

花原:種明かしをすると、アメリカの断崖絶壁で撮影された朝焼けの写真を「MdN」の文字に合わせてトリミングしています。“M”に使ったのは、崖の上に置かれたガラス瓶に、朝日が射し込んでいる様子を写した作品です。偏光した光が、「あいまいな光」のイメージに合っていると思ったし、虹模様も表現としておもしろいと感じました。

“d”には、朝日に照らされた岩の写真を組み合わせたのですが、この部分は「闇」や「暗がり」を表現しています。人って、影があった方が光を強く感じられるんですよ。写真の組み合わせを検証していた時に、明るい写真だけを使うと全体が締まらないことに気付いたので、光を引き立てるような色を選びました。

“N”に使ったのは空の写真です。どの文字も、単色にならないように、作品のなかで色が混ざり合っている箇所を切り抜きました。

一体感と違和感を演出し、インパクトを残す

―― これまでにないような、大胆な文字の配置にした理由は?

花原:去年も装丁デザインを担当させてもらったのですが、書籍のタイトルをロゴデザインのように作り込んだので、2021年版をアップデートする形で「MdN」の文字を取り出して使いました。「MdNデザイナーズファイル」のバックナンバーを振り返ると、タイトルを大胆に見せているカバーって意外と少なく感じて。これまでのデザインと違いを持たせたかったのと、「MdN」という認知度が高いものを印象的に見せたかったので、タイポグラフィを大きく打ち出すことにしました。

本のカバーは、書店に並んだ時に目立つことも大事なので「手に取りたくなるようなデザインかどうか」という点は意識しましたね。特に“M”は頭文字なので、特徴的なラインにしています。シンプルだけど「あれ?」と思うような。写真を組み合わせて違和感を強調しつつ、カバーの文字の部分には特殊加工を施しました。

エンボス加工によって浮き出した「MdN」の文字

―― 違和感を持たせることで、より目を引くカバーになったのですね。

花原:はい。ただ、カバーの表と裏(編集部注:カバーの表1と表4)のどちらも、写真に潜む色を背景色にしているんです。スポイトツールで取り出した色を使っているので、全体の雰囲気としては一体感があるんじゃないでしょうか。一体感と違和感のバランスが大事ですね。

そして、カバーを外して広げていただくと分かるのですが、表1と表4で文字と写真の配置が天地逆になっているところもポイントです。それぞれの表情の違いをたのしんでもらえたら嬉しいです。

花原:この本って、おそらく辞書のような役割を持っていると思うんです。先頭から読むだけじゃなくて、索引を見て気になるデザイナーのページを開くこともありますよね。そういう意味では、ダブル表紙のようなスタイルにしたことで、「MdNデザイナーズファイル」の性格に合わせられたのかなと思います。

社会のムードや、手に取った人のマインドとリンクさせる

―― ご自身で、昨年のデザインと比較してみていかがですか?

花原:去年はコロナの状況が厳しくて、社会のムードがかなり停滞していたので、編集者さんから「このムードを打破するような、明るい雰囲気を纏ったデザインはどうですか」とご提案いただいたんです。

それで2021年版は、本を手に取った時に心が明るくなるような色使いにしたり、咲き誇る花のようなビジュアルを取り入れたりしました。厳しい環境でも、世の中に彩りを与えようと前を向くデザイナーの存在を花に見立てたんです。

2021年版の「MdNデザイナーズファイル」は、帯を外して「その先」を見たくなるような仕掛けを考えた

花原:今年は、状況が改善して少しずつ社会が前進していると思ったので、その人その人の新しい未来を想像してもらえるような抽象度の高いデザインにしました。パッと見た時の印象としては、去年のカバーの方が明るくて、今年のカバーはややニュートラルに近づいている感じでしょうか。手に取ってくださった方のマインドとも結び付くのではと思います。コンセプトの違いはありつつも「未来を明るく照らしたり、彩ったりするもの」という部分は共通していますね。

―― 最後に、日本とアメリカという遠隔地でのやり取りになりましたが、ご不便はなかったでしょうか?

花原:僕自身は不便を感じなかったですし、このような機会をいただけて嬉しかったです。国際郵便で校正物を送ってもらっていたので「もしかしたら荷物の到着が締め切りに間に合わないかも」とハラハラする場面があって。編集者さんにはご心配をお掛けしたかもしれませんが、作業自体は問題なく進められました。

あとは時差を考慮しながら、打ち合わせの時間帯を調整するくらいでしょうか。もしかしたら、この仕事はリモートにも向いているのかもしれませんね。僕としてもイメージ通りの本に仕上げることができました​。

―― ありがとうございました。

 

「MdNデザイナーズファイル2022」では国内外で活躍するアートディレクター&デザイナー257名の仕事とプロフィールを厳選して紹介しています。先進的な活躍をしている方や、新しい時代の到来を感じさせる若手デザイナーなど、いずれも“ビジュアル表現の今”が感じ取れるポートフォリオになっています。書籍の方もぜひ、お手に取ってご覧ください。 

「MdNデザイナーズファイル2022」  
MdN書籍編集部 編

価格  :4,400円(本体4,000円+税10%)  
発売日 :2022-02-21  
仕様 :A4判/272P  
ISBN :978-4-295-20236-3

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