第2回 Webの閲覧環境とアクセシビリティ | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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第2回 Webの閲覧環境とアクセシビリティ


第2回目は、Webの閲覧環境についてです。一般的な閲覧環境に加えて、視覚障害者がWebサイトにアクセスする際、どのようなソフトウェアを使用して情報を得ているかを解説していきます。

障害者のコンピュータへのアクセスを支援するソフトウェアやハードウェアを、支援技術(Assistive Technology)といいます。これには、後述する「スクリーン・リーダー」や「音声ブラウザ」、画面に表示された内容を点字で出力する「点字ディスプレイ」や、画面拡大を行うソフトウェアやハードウェアも含まれます。

(解説:辻 勝利)


[プロフィール]
つじ・かつとし●株式会社ミツエーリンクス アクセシビリティ・エンジニア。先天性の全盲で、インターネットをライフラインとして日常的に使用する。2001年よりWebアクセシビリティに関わる仕事に従事し、数多くの企業や自治体のWebサイトの音声読み上げ環境での検証を行う。現在は、アクセシビリティBlogでの情報発信や講演を通して、Webアクセシビリティの更なる普及・啓蒙活動を行っている。


一般的なWebの閲覧環境について


すでにご存知の通りWebサイトにアクセスし情報を得るためには、通常Webブラウザを使用します。なかでもMicrosoft Internet ExplorerやNetscape、Mozilla FirefoxやOperaがよく利用されるブラウザとして有名です。また最近では、家庭用ゲーム機やテレビ、携帯電話にもWebブラウザが搭載されており、さまざまな環境でWebサイトにアクセスできるようになりました。

これらのWebブラウザの中には、Webサイトで表示される情報を拡大表示する機能を持ったものもあり、小さい文字が見えにくい高齢者や弱視者にとってのアクセシビリティ対応がなされているといえるでしょう。

このように、障害者や高齢者が使用するための特別な機能として提供されてきたアクセシビリティ関連の機能が、一般的なブラウザに搭載されるようになったことは、Webアクセシビリティをより身近なものと考えるきっかけになるのではないでしょうか。

各ブラウザでページを拡大表示したスクリーン・ショット
Opera 9.10とInternet Explorer 7で、表示をそれぞれ100%から200%に拡大。テキストだけではなく画像を含めた全体が拡大表示される

文字情報のみを表示するテキストブラウザ


「テキストブラウザ」は、Webサイトの情報のうちテキスト情報を閲覧することに特化したソフトウェアです。テキスト情報だけを取り扱うため、画像を表示できる一般的なブラウザに比べて高速にページを表示できる特徴を持っています。以前は低速の回線でWebサイトを閲覧する際に利用されていました。現在では、画像を表示させない状態でもそのWebサイトから情報を得られるかを確認する、アクセシビリティ検証の手段として用いることも多いようです。

なかでもカンザス大学で開発された「Lynx」(リンクス)は、多くのオペレーティングシステム上で動作するテキストブラウザとして有名です。

Lynxでページを表示させたスクリーン・ショット
LynxでWebサイトを表示させたスクリーン・ショット。青い字で表示されている部分はリンク項目を示している

テキスト情報を声で伝える音声ブラウザ


次に、筆者のように画面情報を見ることができない視覚障害者が利用している「音声ブラウザ」を紹介します。

このブラウザはWebサイトの閲覧に特化したソフトウェアで、画面上に表示されたテキスト情報を合成音声に変換して利用者に伝えるものです。国内では日本アイ・ビー・エムから発売されている「ホームページ・リーダー」や、アメディアから発売されている「ボイスサーフィン」が代表的です。Webサイト上の通常の文章(本文)を男性音で読み上げ、リンク項目は女性音で読み上げるなど、ページの内容によって読み方に変化をつけることで利用者にその違いを知らせる点が特徴です。

さまざまなアプリケーションを音声化するスクリーン・リーダー


音声ブラウザが、Webサイト上の情報の読み上げに特化したソフトウェアであるのに対し、「スクリーン・リーダー」はオペレーティングシステムの操作全般の情報を、音声や点字で出力するソフトウェアです。デスクトップ上に表示されるテキストやアイコンなどを、音声や点字で出力します。これにより、画面を見ることのできない筆者であっても、文書作成や電子メールの送受信など、さまざまな作業を行うことができます。

国内では、システムソリューションセンターとちぎから発売されている「95Reader」、高知システム開発から発売されている「PC-Talker」、エクストラから発売されている「JAWS for Windows日本語版」などが有名です。

なかでもJAWS for Windowsは、世界的に有名なスクリーン・リーダーのひとつで、Microsoft Officeなどの主要アプリケーションのほか、Internet ExplorerやMozilla Firefoxを操作するのに用いることができます。

下記の2種類の音声ファイルは、JAWS for Windowsを用いてWebページの内容を音声で読ませたものです。リンクにアクセスすると音声ファイルの再生が始まります。

このように、Webサイトには一般的なWebブラウザを通じてだけではなく、さまざまな環境から多くの利用者がアクセスしてくる可能性があるのです。特定の閲覧環境に依存した情報発信を行わないのが、Webアクセシビリティに取り組む上での基本的な考え方であるといえます。また、支援技術を用いてアクセスした場合に、利用者が必要とする情報に問題なくアクセスできるかということも、常に意識して情報発信を行う必要があります。

次回はWebアクセシビリティに関するガイドラインについて紹介していきます。


次回につづく
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