第15回 “特別な配慮”から次のステップへ
本連載ではこれまで、Webアクセシビリティを高めていくために必要なさまざまな事柄について解説してきました。おそらく読者のみなさんは、Webアクセシビリティといったときに対象となるのはPCで閲覧するサイト、閲覧できるコンテンツを思い浮かべてきたのではないでしょうか。
もちろん、PC向けに提供されるコンテンツをアクセシブルにすることは重要ですが、今後は同じくらい、携帯電話を含めたさまざまな利用環境で閲覧可能なコンテンツについても考慮していく必要があります。そこで、連載の最後となる今回は、携帯電話向けコンテンツを閲覧できる音声読み上げ環境についてご紹介し、閲覧環境に依存しない理想的なWebのカタチを考えてみたいと思います。
(解説:辻 勝利)
[プロフィール] つじ・かつとし●株式会社ミツエーリンクス アクセシビリティ・エンジニア。先天性の全盲で、インターネットをライフラインとして日常的に使用する。2001年よりWebアクセシビリティに関わる仕事に従事し、数多くの企業や自治体のWebサイトの音声読み上げ環境での検証を行う。現在は、アクセシビリティBlogでの情報発信や講演を通して、Webアクセシビリティの更なる普及・啓蒙活動を行っている。 |
携帯向けコンテンツを閲覧できる音声読み上げ環境
昨今、Webサイトの情報を閲覧する方法として、PC以外にも携帯電話やテレビ、ゲーム機など、多くの環境が登場しています。こうしたことから、本連載の第2回でも触れましたが、特定の閲覧環境に依存しないWebコンテンツを提供することがますます重要になってきています。
筆者は5年ほど前から、携帯電話向けコンテンツの読み上げができる端末を日常的に使用し、外出先での情報収集を行っています。このような電話機は、種類は少ないものの徐々に機能追加が行われており、多くの視覚障害者に利用されています。
近い将来、PCの代替としてではなく、携帯電話だけを利用してWebサイトにアクセスする利用者も増加する可能性があることから、携帯電話向けコンテンツを提供している方は、今のうちからWebアクセシビリティについても意識していく必要があるでしょう。
もちろんそれは、何か特別な配慮をするという意味ではなく、携帯電話向けコンテンツの利用者の中にも、音声読み上げ環境を含めたさまざまな利用者がいるということを意識していただきたいということです。
一方、先にも述べたとおり携帯電話向けコンテンツの読み上げができる端末の種類は非常に少なく、現状では機能も十分とはいえません。
筆者が使用している端末では、シンプルなコンテンツの内容を読むことはできるものの、入力フォーム中のコンボボックスが識別できなかったり、どのラジオボタンが押されているのかがわからなかったりと、Webサイト上で情報を送信したり、作業するには不便を感じることが多くあります。さらに、コンテンツ内で使用されている技術によっては、ページを開いてもまったく内容が読み上げられないようなケースもあります。
コンテンツのアクセシビリティを高めていくことは重要ですが、それ以上に支援技術を含めた閲覧環境の機能改善が必要です。
アクセシビリティのいらない未来を目指して
今回は携帯電話向けのコンテンツを取り上げて書いてきましたが、ここでもう一度考えてほしいことがあります。特定の閲覧環境に特化したコンテンツというのは、本当に必要なのでしょうか?
同じコンテンツをどのような環境で閲覧しても、目的の情報を効率よく入手できるようにすることが、Webサイトの理想的なカタチだと筆者は考えます。それにより、閲覧環境に合わせて複数のコンテンツを制作する必要がなくなり、コストパフォーマンスが向上する面もあるでしょう。
それでは、こうした“特別な配慮”――Webアクセシビリティのいらない未来を実現するためには、何が必要なのでしょうか?
- アクセシビリティは特別な配慮で高めるのでなく、標準的な技術を用いてWebサイトを作成する
- 特定の閲覧環境に依存しないコンテンツを作成する
- 標準的な技術を用いて制作されたコンテンツを適切に解釈できるよう、支援技術を含むユーザーエージェントの機能を向上させる
- 自身の目的とする情報をより効率よく入手できるよう、利用者自身もスキルアップを心がける
このように、誰か特定の立場にある人がではなく、Webにかかわるすべての人が努力を重ねた結果、Webアクセシビリティのいらない未来が実現できると筆者は考えます。
現在はまだWebの理想像としてしか語ることができないかもしれませんが、情報の垣根のない社会を実現するために、Web制作に携わる者として、そして日常的にWebを必要としている支援技術利用者として、今後も努力を続けていきます。
読者の皆さんにもこの連載を、時代に流されないWebアクセシビリティ=Webの本来あるべき姿を実現するきっかけにしていただけたら幸いです。Webアクセシビリティを“特別な配慮”で補う時代はもう終わったのです。いっしょに次のステップに進みませんか? (了)