第5回 理想的なWebのカタチ | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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第5回 理想的なWebのカタチ


前回解説したWebアクセシビリティの現状を踏まえ、「どうすればWebサイトが理想的な形に近づくか」を考えていきます。

Webサイトの理想的な形――すべての人にとってアクセシブルな状態――は、サイトを運営・制作する側の働きかけだけで、実現できるものなのでしょうか?

(解説:辻 勝利)


[プロフィール]
つじ・かつとし●株式会社ミツエーリンクス アクセシビリティ・エンジニア。先天性の全盲で、インターネットをライフラインとして日常的に使用する。2001年よりWebアクセシビリティに関わる仕事に従事し、数多くの企業や自治体のWebサイトの音声読み上げ環境での検証を行う。現在は、アクセシビリティBlogでの情報発信や講演を通して、Webアクセシビリティの更なる普及・啓蒙活動を行っている。


アクセシビリティは「誰が」実現するのか


アクセシブルなサイトは、誰がどのようにして作り上げるものでしょうか?

多くの人の一般的な考えは、Webアクセシビリティを実現するためには、「コンテンツ制作者が」何らかの配慮をしなければならない、というものでしょう。

しかし、アクセシブルなWebサイトは、サイトの運営者や、デザイナー、プログラマーといった制作者など、ある特定の立場にいる人だけで作るものではありません。ユーザーも含めたWebに関わる人すべてが、「アクセシブルなWebサイト」を意識し、努力する必要があります。

なぜなら、Webはもはや、コンテンツの提供者が一方的に情報を流し続けるだけの媒体ではなく、発信する側と利用者、双方向のコミュニケーションツールとなっているからです。情報を発信する(運営者・制作者)側が一方通行でメッセージを届ける状態では、Webという媒体は十全に機能を発揮しているといえません。

ここでは、Webに関わる人を役割によって、次の5つに大別して考えていきます。何らかの情報を発信しようとする情報提供者。情報提供者の意図に従いコンテンツを作成する制作者。制作者が(X)HTMLのマークアップなどに用いるオーサリングツールの開発者。Web上の情報をユーザーに通知するユーザーエージェントの開発者。そして、情報にアクセスする利用者です。

情報提供者、コンテンツ制作者、オーサリングツールの開発者、ユーザーエージェントの開発者、利用者すべてが、Webに関わっている状況を表したイメージ
多くの人にアクセシブルな状態を実現するには、Webに関わるすべての人々が、それぞれの立場から協力し合う必要がある

それぞれが担う役割


さて、先ほどアクセシブルなサイトの実現には、Webに関わるすべての人の意識と努力が必要と述べましたが、では、それぞれが役割を果たす上で、どういったことが求められるのでしょうか? アクセシビリティ・エンジニアとして筆者が感じる個々の問題点とともに考えてみたいと思います。

情報提供者

発信しようとする情報がどのような利用者に向けてのものなのか、情報を伝えるターゲットを検討する。また、発信された情報を更新する場合には、情報がそれを必要としている人に効率よく届けられているか、についても考慮する。

最初に情報を発信した際にWebアクセシビリティに考慮していても、それらを更新する段階になるとアクセシビリティが軽視されるケースがよく見受けられます。前回ページ内リンクの項で述べた、設定されているページ内リンクが機能しないという例は、そのような背景から起こりうる問題といえるでしょう。

コンテンツ制作者

情報提供者の意図に従って利用者が情報を入手できるよう、(X)HTMLを中心とした技術を用いてコンテンツを制作する。その際、オーサリングツールを適切に使用する。

サイトの中には、(X)HTMLで十分に利用者へ情報を伝えられるにもかかわらず、見た目のよさを重視するあまり、必要のない高度なテクニックを用いるケースがあります。その結果、同じ内容を音声読み上げ環境の利用者に伝えるために、テキスト版のページを別に設けるなどの方法がとられている例が見受けられます。

オーサリングツールの開発者

コンテンツ制作者がアクセシブルなWebサイトを構築できるよう、(X)HTMLの仕様に忠実なコンテンツを生成できるようなツールを開発する。

現在のオーサリングツールの中には、(X)HTMLの仕様に忠実なコンテンツを生成できないものが少なくありません。また、作成したコンテンツが利用者にとってアクセシブルかどうか、アクセシビリティ対応項目のチェック機能を有するものは少ないのが現状です。

ユーザーエージェントの開発者

(X)HTMLの仕様を適切に利用者に通知するソフトウェアを開発する。このユーザーエージェントには、もちろんスクリーン・リーダーや音声ブラウザなどの支援技術も含まれる。

スクリーン・リーダーの中には、見出しやリストなどの文書構造について利用者に通知できないものもあります。Webはもはや「聞く」だけの媒体ではないのですから、利用者が積極的に目的の情報を入手できるよう、機能の追加が必要です。

利用者

情報を入手したり、逆にフィードバックしたりするために、自身の使用しているユーザーエージェントの機能を十分に活用できるようにする。

しばしば、利用者から「コンテンツがアクセシビリティに配慮していないから使いづらい」という声を聞きます。実際に閲覧しようとしているコンテンツにアクセシビリティ上の問題があるケースもありますが、利用者側が使用しているユーザーエージェントの機能を十分活用できれば、目的の情報を効率よく入手できるケースもあります。

Webを理想的な形に近づけるために必要とされる意識や技術を、現在の状態と照らし合わせて考えると、現状では「理想的なこと」として取り上げざるを得ません。この「理想的なWebのカタチ」を現実にしていくために、Webに関わるすべての人が、自分にできるところから努力を重ねていくことが必要ではないでしょうか。

次回からは、コンテンツ制作者がWebコンテンツを作成する際に、考慮すべき事項を解説していきます。


次回につづく
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