
第18回 ユーザビリティはメンバー全員の心に
Webにしろ、Web以外の製品にしろ、ユーザビリティは専門の担当者に任せておけばよいというような考えが、これまであったと思います。もちろん、専門家ならではの知識やノウハウは不可欠なものですが、企画から最終のデバッグ段階まで、制作にかかわるすべてのメンバーがユーザビリティに対する意識を統一しておかないと、サイト全体でトータルバランスのとれたユーザビリティの向上は難しいものになります。
(解説:石田優子)
技術力だけでなく提案力を
サイトの新規立ち上げやリニューアルといった案件は多くの場合、Web制作会社ならクライアントの要望が、社内制作部門なら上層部の要望が前提にあって、検討が始められます。
残念ながら、クライアントや上層部の担当者がWebについて熟知しているとは限りません。アニメーションのような見た目が派手なコンテンツをたくさん入れてほしいといわれるケースがあったり、流行のIT用語を耳にして、それが何を意味するのかよく把握していないのに、ともかく取り入れてほしいといわれたりもします。
クライアントの要望に応えることは大切なことですが、言われたままを受け入れるのではなく、それに対してWebサイト自体の付加価値をより一層高めるための提案が必要となるでしょう。また、こちらの提案の妥当性を具体的に説明し、相手にも理解してもらえるような知識や情報収集力、そしてプレゼンテーション力も必要となってきます。
多種多様なWeb制作のソフトウエアなどが商品化されている現在では、アマチュアでも普通のユーザーの目から見れば、プロとそれほど見栄えが変わらないサイトを制作できる人もいます。そのようなアマチュアの制作と、“真のプロ”の制作を分ける一線として、クライアントに対して企画・提案力を持つことがあります。
そして、外観だけではない、それぞれのサイトに合わせたWebユーザビリティを考案していく力も、また、そのひとつです。
分業ではなく協業を
Webサイト制作には、ディレクター、編集、コピーライター、プログラマー、コーダー、テスターなど多くの人がかかわります。通常、Webユーザビリティについて学んだり、関心が高い人は、ディレクターやデザイナーに多いでしょう。Webユーザビリティはサイトの企画・構成やレイアウトなどと深くかかわるもので、ほかのスタッフや役割にはあまり関係がなく見えるかもしれません。
しかし、決してそうでなく、コンテンツ、デザイン、プログラミング、コーディングのすべての段階で、サイトを訪れるユーザーのことを考えていくべきものです。誰かひとりがユーザビリティの大事さを訴えても、ほかのメンバーが付いてきてくれないのでは意味がありません。
たとえば前回取り上げた
フォームのユーザビリティの問題は、その多くがシステム側の問題です。もしシステム開発にかかわる人が、ユーザビリティについて考えていれば、ユーザーがプログラムに合わせるのではなく、ユーザーに合わせてプログラミングするという意識改革ができるでしょう。
技術の進歩とともに作業が細分化され、サイトがそれぞれの業務の目線でしか見えにくくなっている傾向があります。しかしそのなかで、各人の役割で最善をつくすとともに、全員が一丸となって、よりよいWebサイトを作り上げていくことの重要性を改めて考えていただければと思います。
ユーザビリティガイドラインの必要性
これまで違う工程で別々に作業してきた人が、突然ユーザビリティの重要性や同じ目的を共有してWebサイトを制作する必要性を語られても、ピンとこない方もいるでしょう。「自分の仕事はプログラムを書くだけ」というように考えるかもしれません。
こうした場合に、全メンバーでユーザビリティに対しての意識を統一するために、サイトの構成、レイアウト、ライティング規則、デザイン、使用する技術などについてのルールを検討し、検討結果をユーザビリティガイドラインとしてまとめることをお勧めします。できれば全メンバーがガイドラインの作成に参加しましょう。
ガイドラインの検討段階で、各業務の担当者間で意見が異なる場面もあると思いますが、それぞれの立場から、なぜこちらの方がよいのか、なぜ技術的に無理なのかといった議論を重ねながら決めることが重要です。そうしていくことで、それぞれの立場における問題を認識し合い、自分の担当部分だけでなく、ほかの人が担当する部分への想像力も生まれます。
また、ガイドラインはユーザーからのフィードバックを受けながら改善を続け、常に最新の情報のドキュメントとして残しておくようにしましょう。これによって、ほかの担当者への引き継ぎが必要となったとき、混乱を避けることができます。外部の会社へアウトソーシングする際にも、ガイドラインが役立ちます。
ユーザビリティは、サイト制作の中でも地味な部分です。しかし、ユーザーにとっては欠くことのできない大切な部分です。読者のみなさんが、ユーザビリティについて、そしてユーザーを考える心の大切さについて、この連載をきっかけに、ほかの人たちにも伝えていっていただければ幸いです。
――「Webユーザビリティ―信頼を生む“使いやすさ”のデザイン」は、今回で終了です。次回は新テーマでお送りします。ご期待ください!