第6回 プロデューサー2.0 | デザインってオモシロイ -MdN Design Interactive-
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ケッカ!を出す
サイトプロデュース


Webプロデューサーはつねに結果を意識しなくてはならない。企業のサイト構築に「つくりっぱなし」はなく、運営・管理・コストを意識した提案こそがユーザーとクライアントを満足させる結果を導く。


文=村田アツシ
文=村田アツシ
(株)セットアップにて、企業サイト構築及び、業務系システム構築においてコンサルティングを手がける
url. www.setitup.jp/




Clip No.6
プロデューサー2.0


プロデューサーもバージョンアップの時代

プロデューサーについて考えよう

Web2.0のブームでMobile2.0、マーケティング2.0など、「2.0」が流行している。確かに新しい予感を与えるキーワードとしてはかっこよく、使いやすい。私もプランニングのタイトルで利用している。20年程度かかってできあがったインターネットのインフラやテクノロジーをベースに、次世代の切り口でさらにインターネットを活用する時代がやっとこれから始まるといえる。そこで、このような時代に私たちWebプロデューサーも変わらなくてはいけないのでは?と、自分も含めて考えるこのごろだ。

そもそも、Webプロデューサーとはどういう役割を担う立場なのだろう。その定義自体がまだあいまいに感じる。Webにおけるプロデュースとは、「クライアントのニーズに合わせたWebづくり」ということもいえるが、それよりも、Webプロデューサーはあくまでも「Webをベースにお金を生む仕組みと資金調達が本来の役どころ」ではあるまいか? 少なくともショービジネス界のプロデューサーは、こうしたことをメインとしている。やりたい作品を実現するための資金集めや、配給会社やタレント事務所、代理店との権利などについての取引、法的な処理、制作スタッフの招集といったことを黒子に徹して進めているのである。これらは、成功時の見返りもしかることながら、リスクも大きい泥臭いビジネスであり、けっして華やかなことばかりが多い仕事ではない。

Webプロデュースの場合でも、Webのテクノロジーを知っているからとか、ネットワークやプログラムに詳しいことよりも、Webを使って自らビジネスを構築する人こそがプロデューサーとしてふさわしいのではないか?

インターネットが普及した今日では、異業種のさまざまなアイデアや経験をもった人材が、Webの経験や知識をすっ飛ばし、WebプロデューサーとしてIT業界に流入してくる。今まで安堵していたWebプロデューサーも、その座をCMプランナーや音楽ディレクターに凌駕される日がそう遠くないかもしれない。


既存マーケットにはビジネスチャンスがいっぱい

B to Bのプロデューサーは少ない

Webをベースにビジネスを創造する方法はたくさんあるだろう。新規サービスを立ち上げたり、既存のメガサイトを利用したり、プラットフォーム技術やコンテンツ、マーケティング、コンサルティング、開発、プロモーション、教育……などなど、発想次第で無限のビジネスがプロデュースできる。

その中でも大きなマーケットは、既存ビジネスにあるのではないだろうか? IT化を望む企業は多いが、規模や業態、資金、人材などさまざまなハードルを抱えているためにIT化できないケースもあり、この分野にこそWebプロデューサーがビジネスできるチャンスが隠れているのだ。

筆者は数年前からB to CよりもB to Bの世界でのプロデュースに携わることが多くなってきている。派手ではないし、機密保持などの関係もあり、公にできるものが少ないが、「数字に直結する=ケッカがでる」ので、やりがいを感じる機会が多い。情報流通が、その企業の業績に貢献でき、強いては消費者に還元されるのはうれしいことだ。ケースによっては、IT化やダウンサイジングはリストラの片棒を担ぐものもあるが、よくできたシステムは、作業軽減や負荷軽減にもなり、人間らしい労働を提供できる面もあるのだ。


Webビジネスは現場にある!

ビジネスをゼロから生み出す

数年前に、とある上場企業の物流システムを改修するプロジェクトに携わった際の経験談を紹介しよう。

筆者は、物流センターに納入された商品を検品・値付けし、各店舗に配送される部分を「見えるようにする」部分を担当した。納入業者からの納品データと実際に納品された商品を付け合わせて仕入れの計画を立て、検収を行いながら配送スケジュールを調整してトラックに積み込み指示を出し、同時に店や本部にその情報を通信と伝票で流していくというものだ。

システム以外の部分は物流コンサルタントが介入して、プロジェクトチームが組まれた。システムをつくるだけであれば、お金と時間が解決してくれるのだが、このプロジェクトにはオーナーからある指令が出ていた。「パートの時間を短縮し、検品・値付け・店別仕分けのできる処理数を倍以上にし、その浮いた人件費を開発に充当する」というものだ。平たくいうと「人件費の圧縮と、効率のアップを開発費をかけずに行う」ということである。

大手のシステムベンダーであれば、ICタグソリューションを数億円で売り込むところだが、当然そのような予算も、ソリューションを聞く耳もそのオーナーは持ち合わせていなかった。そこで筆者は、削減できるであろう人件費の中から半年間、一定のパーセンテージの金額をいただく契約で仕事を請け負った。

このように「お金がなければ回収の方法を考える」ことで、開発費0円でもビジネスは成立する。お金を出さないオーナーはいないが、作業にひとつ返事でお金を出そうとするオーナーは少ない。特にプランニングやプロデュースという頭脳作業に価値を見いださない企業やオーナーは多いので、注意が必要だ。

ITだけの視野では限界がある


このプロジェクトでは、「コンピュータを使えない人たちをどのように教育し、効率をアップさせればよいか?」ということが課題だった。現場に出向かなければどうしても見えてこないことがあり、現場がいかに大切かということを再確認したのがこのときである。

物流倉庫にトラックから搬入された商品はカタチや大きさ、箱の梱包や入り数が異なる。ひとつのラインで処理すると、毎回そのカタチに合わせて作業員が「考え」「判断」して動くため、処理能力にばらつきが出てくる。その作業のばらつきをなくすためにカタチ別に担当ラインを編成して作業内容を標準化し、そのラインの先頭にパソコンとハンディスキャナを設置。パソコンはタッチパネルで操作できるように、余計な画面を省いたナビゲーションと、見やすく大きいボタンと、スクロールなしのインターフェイスにした(デザインもへったくれもないものだ)。同時に、商品に貼るプライスカードのプリントアウトのタイミングや、設置場所も考慮した。

しかし、目に見えて有効だったのが、作業員の動き方や仕分けた商品の置き場所なども最短歩数で処理できるようにワークスペースをつくることだった。また、過度なストレスを与えない程度に処理を早くするため、商品を流すローラーに傾斜をつけるという工夫もした。

ITの知識や、机上の論理も大切だが、現場はもっと重要だ。ワークフローと一体化するシステムを構築するために、物流コンサルタントは作業員と一緒に汗をかき、ストップウォッチ片手に細かい指導をしていた。おかげで、作業と一体化したシステムが構築でき、オーナーのリクエストにもこたえられたのだ。

このように、さまざまな人が動く現場には、自らプロデュースできるサービスや、アイデアの原石があるはずだ。Webプロデューサーも、情報のディスパッチャーからビジネスのディスパッチャーに進化する必要があるといえる【1】。

Webプロデューサーの進化
【1】Webプロデューサーの進化


本記事は『Web STRATEGY』2006年 11-12月号 vol.6からの転載です



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