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バーチャルユーチューバー「HimeHina Channel」

2018.09.19 Wed

【HimeHina Channel 後編】バーチャルYouTuber 田中ヒメ・鈴木ヒナを支える3D技術

取材・文:石神仁紀

田中ヒメのデザイン決定までには紆余曲折があったと、このVTuberたちを支える集団、田中工務店の人々は語る。モーションキャプチャを使ってリアルタイムでグリグリ動き、なおかつ3D的に破綻が起きないようにするためには専門的な知識と工夫が必要だ。

まず、使用しているCGソフトウェアだが、ちょっと異色の組み合わせだ。ハイエンドのCGツールとして定評のあるAutodeskのMayaとフリーウェアのMMD。Mayaはわかるとして、MMD(MikuMikuDance)はなぜ必要なのか。

なぜ、MMDなのか?

実は日本全国に分散したバーチャル集団である田中工務店のCG担当者にはMMDerが多い。2008年から始まって10年の歴史を持つMMDは多くの作品群を生んでおり、ニコニコ動画でMMDのタグを持つ作品は76,622件。田中工務店にはこうした作品の投稿者、MMDerが何人もいるのだ。中にはボカロPもいるという。

MMDの人体モデルや衣装はバリエーションが多く、アニメーションにした場合に問題が起きるケース、その対処方法のノウハウが、熟練したMMDerには備わっている。このノウハウが、田中ヒメ、鈴木ヒナのデザイン、モデリング、アニメーションに生かされているのだ。

モデリングはMaya 2016で行われている。Mayaで作られるモデルはFBXという標準的なファイルフォーマットで、ゲームエンジンであるUnityにインポートするときにも便利だからだ。

Maya 2016による3Dモデリング「田中ヒメ」「鈴木ヒナ」
Maya 2016による3Dモデリング「田中ヒメ」「鈴木ヒナ」

例えばゴスロリ風の複雑な形状の衣装と凝った髪型が干渉して突き抜けてしまったり、手を振り回した際に膨らんだ袖が胴体にのめり込む、そういった問題が起きそうなデザインはあらかじめ排除されている。服をノースリーブにすることは干渉を避ける意味があるし、ヒナのパンツルックもヒメのスカート丈も自然な動きを作り出せる範囲内で設計されている。ヒメ・ヒナのデザインが、彼女たちの激しい動きについていけるのはそうした配慮があるからなのだ。

ヒメ・ヒナの最初のデザイン構想では、大きく膨らんだパフスリーブやマント、厚底ヒールといったものもあったが、3D担当側が「ヒメちゃんヒナちゃんが着たい服をこちらのお店で選んでね」と髪型や衣装を提案していったという。その結果、今の「よく動くのに破綻しない」アニメーションが可能となった。

3Dモデルで「かわいい」を追求する

kemoさんが田中ヒメの3DモデルをMayaで操作してその構造について説明してくれた。スカートの部分はやはり、ヒラヒラを破綻しない許容範囲に抑えている。前垂れの部分との調整が難しかったという。腕は通常よりもちょっと長めにしてある。手を大きく動かしたときにせわしなく動くように、というのがその理由だ。そこも彼女の魅力の一つだからである。

3Dモデルとモーションキャプチャを合わせるのにも工夫が必要だという。さらに、Unity上でうまく動くようなポリゴンにしておくことも重要だ。髪の毛は複雑な形状なので自然に動くように組み立てるのはコツがいる。単純にポリゴン数を減らせばいいというわけではなく、物理演算で動かすことになるので、髪の毛の中でも毛先の部分やボリュームのある部分の重さ調整をUnity上で綿密にやって、自然にふわっとした動きになるように工夫している。

表情パーツにも細かいこだわりが見られる。アイシャドウはテクスチャを貼り付けてしまえば簡単だが、表情を変えたときに不自然に歪んでしまうことがあるので、ポリゴンで作成しているという。眼球は一般的に凸型、凹型両方の手法があるが、ヒメ・ヒナの場合は凹型。視線がまっすぐこちらを向いているような効果が得られるからだ。

それから、これはまだ未公開なのだが、ヒメの「田中」と書かれた木製の名札には伸ばせるという「隠し設計」があるらしい。家紋部分に巻取り式ケーブルが収納されており印籠の様に伸ばすことが出来るらしいが本人は使い方に気づいていないらしい。今後、どういう場面で登場してくるのか楽しみだ。

MMDモデルはNGなし。それでもエロに走られない

ヒメ、ヒナの3DモデルはMMDの標準フォーマット「PMD」形式での配布も行われている。MMDモデルを配布する構想は初期からあった。

だが、MMDモデル配布は考え方によっては難しい部分もある。ダウンロードしたユーザーが自分たちで3Dモデルを使った動画作品を制作できるようになれば、キャラクターの同一性が失われる事や、人に不快感を与える用途で使われる可能性もあるからだ。

これについてはヒメ・ヒナ本体とは別として考えており、彼女たちの電子分体(クローン)としてどんどん活動して欲しいという考えだそうだ。NGのラインも特に設けていないが、「純粋なアイドルではない、ポンポコリンな二人なので、NGなしでも面白おかしく創作してもらっている」という。

なお、クレジットには管轄が記載されており、「ヒメヒナ女児女児帝国 電子分体研究所」となっている。中島さんがこれについて「2人の分体がジョジ民の手に渡る事で新しい魂を宿す可能性について帝国内で研究が進んでおり (クイッ)(メガネ)」などとノリノリの説明を始めたので、次の話題へと移ろう。

YouTubeを飛び出して、広がる創作活動

MMDモデルを使ってジョジ民(ファン)たちがMAD動画などでクリエイティビティを発揮する以外にも、ヒメヒナの世界は広がろうとしている。その一つがMinecraftだ。

Minecraft(マインクラフト)はレゴなどのブロック、積み木のような要領で自分の世界を構築できる、大人から子供まで広く使われているソフト。「ヒメヒナ女児女児帝国建国Project!!」が6月からスタートしていて、ヒメヒナが描いた建国マップ、建築したいものリストに従って、ジョジ建設のジョジ民達が建国を進めている。なお、ジョジ建設への入社は親方ァにメールする事で誰でも参加できるとのこと。

ヒメヒナ本人たちも活動の幅を広げようとしている。彼女たちのもう一つの夢は「歌でアニメに出たい」ということらしい。既存のアニメに声優として出演するということではなく、自分たちが出演するオリジナルアニメを作りたいという意味だ。最初から歌モノの音楽活動をやりたいという考えはあり、8月17日には初のMV(ミュージックビデオ)となる「歌ってみた」動画が公開されている。

続いて公開された、MV第二弾「劣等上等」はかなりの本気モード
続いて公開された、MV第二弾「劣等上等」はかなりの本気モード

3D技術側にいるkemoさんにも「これからの野望」をお聞きしたところ、偶然にもアニメーション分野への興味を深めているようだ。どのような形で世に出ることになるかはまだ分からないが、ヒメ・ヒナオリジナルアニメの実現も、「夢」ではなさそうである。

3Dの仮想的な肉体を持つ彼女たちの活躍の場は、動画やライブに止まらない。例えばOculus GoのようなVR HMD(仮想現実ヘッドマウントディスプレイ)、Gateboxのようなバーチャルエージェントなど、画面上を飛び出して彼女たちの夢は広がっている。

ただ録画されたものを編集するだけでは足りない。「その生命感を伝えるためには生放送でコミュニケーションを取れるようにしたい」と中島さん。となると、初音ミクのライブのように半透過型のスクリーンに映し出される姿になるのだろうか。彼女たちを支える田中工務店は、場合によっては新しいスキルを持った「工務員」を呼び込んで、これからもヒメ・ヒナをサポートしていくはずだ。

>[HimeHina Channel 前編]バーチャルYouTuber「田中ヒメ」は誰が作ったのか

「HimeHina Channel」
バーチャルYouTuber田中ヒメ・鈴木ヒナが活躍するYouTubeチャンネル。チャンネル登録者数約13万9千人(2018年9月19日現在)。様々なお題を設けてのハイテンションなおしゃべりや、ゲーム対決、ゲーム実況、得意の歌の披露や、ヒメが得意とする他VTuber・アニメキャラの声真似などがメイン。毎週木曜の21時頃からライブストリームで生放送を行っている。

 田中ヒメの秘密 
田中ヒメの胸元にある「田中」と書かれた木製の名札は、家紋部分に巻き取り式ケーブルが格納されていて、印籠のように長く伸ばすことができる。しかし、本人はまだその使い方に気付いていないらしい。

 

 鈴木ヒナの秘密 
鈴木ヒナのマントは飛行時に使用するもので、陸を中心に活動している現在はクローゼットに格納されている。飛行時には必ずマーンと言ってマントを開くらしい。ただ、先日本人から「マント紛失したかも!?」という報告が。

 

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