今回は書籍『きたきた捕物帖/宮部みゆき』の使用フォントをご紹介。本記事はデザイン構成において重要な「フォント」の選定プロセスや加工方法を、貴重なプロの実例から紐解いてデザイン制作に役立てる連載です。
のびやかな文字に動きをつけて親しみやすく
下っ端の見習い岡っ引きで、本や小間物を入れる箱を売る「文庫売り」で生計を立てている北一が、相棒の喜多次と出逢い、さまざまな事件や不思議なできごとを解き明かしながら成長していく連作時代ミステリー『きたきた捕物帖/宮部みゆき』。
タイトルに「書きつけ」の意味を持つ「帖」が使われていることからも分かるように、肩肘張らず読める内容になっている。表紙カバーでは、そうした作品の楽しさ、親しみやすさが、ほのぼのとした装画や、のびやかで動きのあるタイトル文字などで表現されている。
Font.01「良寛-M」「丸明オールド」
のびやかな文字を加工してさらに柔らかに
メインタイトルの文字は、ひらがなが禅僧・良寛の墨跡を参考に作られた独創的なかな書体「良寛-M」(タイプバンク)、漢字は柔らかみのある「丸明オールド」(砧書体制作所)がベースに。時代小説らしい“きちんと感”を保ちつつ親しみやすさを出すため、筆ののびやかさを感じる文字が選択された。なお、漢字はひらがなに合わせてさらに柔らかなフォルムに加工され、ひらがなはタイトルロゴとしての一体感を出すためコンパクトかつ読みやすくなるよう調整されている。
Font.02「丸明オールド」
タイトルに合わせ柔らかな書体に
著者名部分は、エレメントの先端が丸く処理された独創的な明朝体「丸明オールド」(砧書体制作所)。メインタイトルとの相性や馴染みやすさを意識して、タイトルの漢字のベースに使われたものと同じ書体が選択されている。
Font.03「Adobe Garamond Italic」
繊細さが感じられるスタンダードな書体に
作品名や著者名の欧文は、ローマン体を代表する「Adobe Garamond」(アドビ)のイタリック体をチョイス。タイトル文字に動きをつけているため、欧文部分はあえてスタンダードな書体を無加工で使用して繊細さを引き立たせる工夫がされている。
2020.06.11 Thu2021.09.03 Fri